■レパード 闇にひそむ獣(上・下)/ジョー・ネスボ 2019.10.28
ハリー・ホーレは、暗い。 読者のなかでも好きになる人は、少ないのではないか。
カイア・ソルネス
レーネ・ガルトゥング
どちらも男に寄せる愛の情熱、行動がふたりの見分けがつかない。
これは、ジョー・ネスボの女性観の反映か。
ミカエル・ベルマン 中央捜査局(クリボス)局長は、後半、ぼけてうすれて存在感を失ってしまったような気がします。
ここで描かれている 「父と息子の関係」 は何と素晴らしいことでしょうか。
このような人間関係は、稀。 とぼくは感じるのですが。
「それはおまえに対しても言える。おれはおまえを愛している。昔からずっとだ。酔っていようと素面だろうとな。おまえは気難しくなんかなかった。いつだって理屈っぽくて、議論をふっかけてはきたけどな。おまえはほとんどの人間と仲が悪かったが、とりわけ自分自身との折り合いが悪かった。だがハリー、おまえを愛することはおれがやってきたなかで一番簡単なことなんだ」
「だが、涙が出るほど誇りに思ったよ。おまえは勇敢だった、ハリー。おまえは暗闇を怖がったが、そこへ行くのをやめなかった。おれは世界一自慢の息子を持った父親だ。これも前に言ったか、ハリー? ハリー? まだいるのか?」
「あなたがちゃんとお別れを言えたかしらって、それが気になっているの」ラケルが訊いた。
「お別れを言うのって大事なことよ。特にあとに残される者にとってはね」
「人というのは自分をごみ溜めから引っ張り出してくれただれかに忠実であるんだ。利用されているだけだとわかっていたとしてもな。それ以外に何ができる? いずれにせよ、どちらかを選ばなくてはならないんだ」
「なぜなら、人間というものが複雑だからだ」
「わたしの轍を踏んでは駄目だと、レーネに言ったんです」彼女が口を開いた。「男性を愛するべきではない、なぜなら……なぜなら自分を美しい思わせてくれるから。実際よりも美しいと思わせてくれるから。人はそれを祝福と思うかもしれないけれど、実は呪いなんです」
「彼の目のなかで美しくなる自分を一度でも見てしまったら、それは……魔法にかかったようなものなんです。そして、それは男性も同じで、しかも際限がなくなります。なぜなら、もう一度それを見せてもらいたいと思うからです」
「奇妙なことに、騙されたがっている人を騙すのはとても簡単なんです。」
「おまえとおれはなぜ友だちになったんだろうな?」
「同じ界隈で一緒に育ったからだろうよ」
「それがすべてか? 地域的な偶然だけか? 精神的な繋がりは関係ないのか?」
「心当たりのあるものはないな。おれの知る限りじゃ、おれたちの共通点はたった一つだ」
「それは何だ?」
「友だちになりたがるやつがいなかったことだ」
ハリーは肩をすくめた。「学ぶことは可能だとおれは思っている。問題はわれわれの学ぶ速度が恐ろしく遅いせいで、手後れになってしまうことなんだ。 たとえば、おまえの愛するだれかがおまえに愛の行為をしてほしいと頼むかもしれない。その愛の行為とは、死ぬ手助けをしてくれないかということかもしれない。おまえはそれを断わる。それはおまえが学んでいないから、洞察力を持ち得ていないからだ。学んでわかったときには手後れというわけだ。そして、その代わりに、だれかほかの者に愛の行為をしてやる。もしかしたら、心底嫌っている相手に対してさえやるかもしれない」
「何をつべこべ言ってるんだかさっぱりわからんが、滅茶苦茶な話のように聞こえるな」
「父親の言ったことを言いはじめたら、それはもう年寄りなんだ。人間ってのは昔からそうなんだよ」
『 レパード 闇にひそむ獣(上・下)/ジョー・ネスボ/戸田裕之訳/集英社文庫 』
ハリー・ホーレは、暗い。 読者のなかでも好きになる人は、少ないのではないか。
カイア・ソルネス
レーネ・ガルトゥング
どちらも男に寄せる愛の情熱、行動がふたりの見分けがつかない。
これは、ジョー・ネスボの女性観の反映か。
ミカエル・ベルマン 中央捜査局(クリボス)局長は、後半、ぼけてうすれて存在感を失ってしまったような気がします。
ここで描かれている 「父と息子の関係」 は何と素晴らしいことでしょうか。
このような人間関係は、稀。 とぼくは感じるのですが。
「それはおまえに対しても言える。おれはおまえを愛している。昔からずっとだ。酔っていようと素面だろうとな。おまえは気難しくなんかなかった。いつだって理屈っぽくて、議論をふっかけてはきたけどな。おまえはほとんどの人間と仲が悪かったが、とりわけ自分自身との折り合いが悪かった。だがハリー、おまえを愛することはおれがやってきたなかで一番簡単なことなんだ」
「だが、涙が出るほど誇りに思ったよ。おまえは勇敢だった、ハリー。おまえは暗闇を怖がったが、そこへ行くのをやめなかった。おれは世界一自慢の息子を持った父親だ。これも前に言ったか、ハリー? ハリー? まだいるのか?」
「あなたがちゃんとお別れを言えたかしらって、それが気になっているの」ラケルが訊いた。
「お別れを言うのって大事なことよ。特にあとに残される者にとってはね」
「人というのは自分をごみ溜めから引っ張り出してくれただれかに忠実であるんだ。利用されているだけだとわかっていたとしてもな。それ以外に何ができる? いずれにせよ、どちらかを選ばなくてはならないんだ」
「なぜなら、人間というものが複雑だからだ」
「わたしの轍を踏んでは駄目だと、レーネに言ったんです」彼女が口を開いた。「男性を愛するべきではない、なぜなら……なぜなら自分を美しい思わせてくれるから。実際よりも美しいと思わせてくれるから。人はそれを祝福と思うかもしれないけれど、実は呪いなんです」
「彼の目のなかで美しくなる自分を一度でも見てしまったら、それは……魔法にかかったようなものなんです。そして、それは男性も同じで、しかも際限がなくなります。なぜなら、もう一度それを見せてもらいたいと思うからです」
「奇妙なことに、騙されたがっている人を騙すのはとても簡単なんです。」
「おまえとおれはなぜ友だちになったんだろうな?」
「同じ界隈で一緒に育ったからだろうよ」
「それがすべてか? 地域的な偶然だけか? 精神的な繋がりは関係ないのか?」
「心当たりのあるものはないな。おれの知る限りじゃ、おれたちの共通点はたった一つだ」
「それは何だ?」
「友だちになりたがるやつがいなかったことだ」
ハリーは肩をすくめた。「学ぶことは可能だとおれは思っている。問題はわれわれの学ぶ速度が恐ろしく遅いせいで、手後れになってしまうことなんだ。 たとえば、おまえの愛するだれかがおまえに愛の行為をしてほしいと頼むかもしれない。その愛の行為とは、死ぬ手助けをしてくれないかということかもしれない。おまえはそれを断わる。それはおまえが学んでいないから、洞察力を持ち得ていないからだ。学んでわかったときには手後れというわけだ。そして、その代わりに、だれかほかの者に愛の行為をしてやる。もしかしたら、心底嫌っている相手に対してさえやるかもしれない」
「何をつべこべ言ってるんだかさっぱりわからんが、滅茶苦茶な話のように聞こえるな」
「父親の言ったことを言いはじめたら、それはもう年寄りなんだ。人間ってのは昔からそうなんだよ」
『 レパード 闇にひそむ獣(上・下)/ジョー・ネスボ/戸田裕之訳/集英社文庫 』