1945(昭和20)年6月。
「千尋、何ボサッと突っ立ってるの、早くなさい!」
「はい、奥様・・」
「全く、あなたは動くのが遅いんだから!」
田園地帯が広がるある村にある一軒の旅館「三島旅館」。
そこでは今日も、その旅館の女将である洋子が丁稚の千尋を叱り飛ばしていた。
「申し訳ございません・・」
「あなたは謝れば済むと思っているのね!全く、歳三さんはどうしてこんな人を置いておくんだか!」
床にぶち撒けられている味噌汁を雑巾で拭き取る千尋の頭上に、洋子は容赦なく罵声を浴びせた後、大きく迫り出した腹を擦った。
半年前、父親と周囲の猛反対を受けながらも、洋子は歳三と祝言を挙げた。
旅館には既に女将・喜代が長年采配を振るっていたが、老齢で仕事もままならず、彼女は女将業を洋子に譲った。
そこから、千尋の生き地獄が始まった。
喜代は千尋を実の息子のように可愛がってくれたし、彼の恋人である歳三に対しても何かとよくしてくれていた。
しかし、洋子が半ば強引に歳三を千尋から奪い取り、旅館の実権を掌握した瞬間から、洋子は千尋を日当たりの良い部屋から狭く暗い丁稚部屋へと移し、彼を馬車馬のようにこき使った。
旅館の従業員達は喜代の代から勤めている者が多く、洋子に辛く当たられる千尋にはじめは同情してくれ、助けてくれたりしていたが、洋子に解雇されるのを恐れて皆見てみぬ振りをしていた。
「またあの子に苛められたとね?」
「いいえ・・」
「あの子をこの家に入れたんは、間違いだったかもしれんね。」
老齢となった喜代は最近寝たきりとなり、その世話の一切を洋子は千尋に押し付けた。
「男手はあなただけなのよ、千尋。それにあなた、お義母様に恩義があるんだから、返すのは当然よねぇ?」
姑の介護をせずに済んだ洋子は、旅館の跡取り娘である継子・幸子の養育を放棄して妊婦であることを盾に好き放題に暮らしていた。
「お祖母様。」
「幸子、どうしたんだい?」
千尋が喜代に粥を食べさせていると、幸子が泣きながら部屋に入ってきた。
「あの人が、また嫌なこと言った。」
「まぁ・・一体何があったんですか?」
「お父さんの仏壇に線香を焚いていたら、あの人がやってきて“わたしの前で縁起の悪いことをするな”って怒鳴って・・」
そう言った幸子は両手で目を覆い隠した。
その時、彼女の両手首に線香を押し付けられたと見られる火傷痕があった。
「お嬢様、お可哀想に。痛かったでしょう。すぐに手当てをしますからね。」
千尋は泣く幸子を抱き締めると、喜代の部屋から出て行った。
「一体どういうつもりなのですか!幸子お嬢様に折檻をなさるなど・・大奥様もお怒りですよ!」
喜代の部屋から出た千尋が向かった先は、歳三達が寝起きする部屋だった。
「あの子が生意気な態度を取るからよ。あの子、ちっともわたしに懐かないんだから!」
「あなたのような鬼婆に、誰が懐くものですか!」
千尋がそう言った時、彼は頬に鋭い痛みが走ったのを感じた。
「あんた、誰に向かって口答えしてんだよ!」
まるで般若のような形相をした洋子は、千尋の髪を掴んで畳みの上に押し倒すと、彼の脇腹を蹴り始めた。
千尋は苦しそうに息を吐きながら立ち上がると、洋子を睨みつけた。
「何なのよその目はぁ!」
一旦怒りのスイッチが入った洋子は、千尋を激しく打擲(ちょうちゃく)した。
その時、部屋に歳三が入って来た。
千尋が洋子に折檻されているというのに、歳三は表情ひとつ変えなかった。
それどころか、千尋と目が合ったというのに、彼は目を逸らした。
「あんたはあたし達に飼われてんだよ!奴隷の分際で生意気言うんじゃないよ、わかったね!」
「良さねぇか。」
洋子が息を切らしながら畳の上でぐったりとして動かない千尋を冷たく見下ろした時、歳三がそう言って彼女の隣へと来た。
「そんなに暴れると、腹の子に障るだろ。」
彼は妻の折檻に抗議せず、彼女の身を案じていた。
それを見た千尋は、自分の中で何かが切れたような気がした。
「また、女将さんにやられたのかい?」
「観介さん・・」
千尋が薪を割っていると、番頭の観介がやって来て、千尋の腕や腹部に残る激しい折檻の痕を見て、自分まで洋子に折檻を受けたかのように顔をしかめた。
「若旦那は一体何をしてやがるんだ。昔はあんなふうじゃなかったのに、すっかり腑抜けになっちまって・・」
「歳三さんには歳三さんなりのお考えがあるのです。どうかあの方を責めないでやってください。」
「けどなぁ・・」
「千尋、さっさと仕事なさい!」
千尋を労わる観介の背後から、洋子の鋭い声が飛んだ。
「心配してくださり、ありがとうございました。」
千尋は観介に頭を下げ、旅館の中へと戻った。
「階段の拭き掃除をお願いね。あたしが監視してるから、逃げられると思わないでよね。」
数分後、千尋は洋子に監視されながら階段を雑巾で拭いていた。
「ここ、まだ汚れが残ってる!」
「申し訳ございません・・」
千尋が雑巾を絞ろうとバケツの方へと近づいた時、洋子が彼の手を踏みつけた。
痛みに千尋は顔をしかめたが、声は上げなかった。
そんな彼にますます苛立ったのか、洋子は体重を掛けて千尋の手を踏みつけ始めた。
「どうしたの、痛いって言ってみなさいよ?」
「おやめください・・」
「何言ってんのか、聞こえないわよ。」
勝ち誇ったかのような笑みを浮かべる洋子を見て、千尋は彼女に対して激しい殺意を抱いた。
千尋は洋子の足を押し退けた。
バランスを崩した彼女は、階段から真っ逆さまに落ちていった。
「誰か、来て下さい!女将さんが階段で足を滑らせました!」
千尋は慌てて階段を駆け降りると、洋子の近くに跪いて大声を張り上げた。
口元に暗い愉悦(ゆえつ)の笑みを浮かべながら。
不慮の事故で洋子は半身不随で寝たきりとなり、その介護は千尋がすることとなった。
いや、彼が自ら申し出て、洋子への復讐の足がかりにしようとしていたのだった。
「奥様、どうぞ。」
「要らないって言ってるでしょう!」
寝たきりとなっても洋子の気性の荒さは変わらず、千尋に始終悪態を吐いた。
だが歳三の前では態度をがらりと変え、千尋に虐待されているとあることない事を彼に吹き込んでいた。
その所為で、千尋と歳三との間には深い溝が生まれてしまった。
そして、千尋の中では黒い感情が一気に溢れ出た。
その日、歳三の友人達が旅館にやって来たので、千尋は彼らに酒を振る舞った。
歳三の分の酒には、大量の睡眠薬を仕込んで。
「若旦那様、もうお休みになられては?」
「ああ、そうする・・」
トロンとした目をしながら、歳三は早々に寝室へと引き上げていった。
歳三の友人達が部屋で寝静まっている頃、千尋はそっと歳三達の寝室の襖を開いた。
二組の布団の中で、歳三と洋子はすやすやと眠っていた。
二人を起こさぬよう、千尋はそっと部屋の中へと入ると、歳三の上に馬乗りになり、彼の喉笛を錐(きり)で勢いよく突き刺した。
ゴボリという音と共に、鮮血と血泡が溢れだし、歳三はほどなくして絶命した。
「あなたが悪いのですよ・・」
錐を歳三の首から引き抜いた千尋はそう呟くと、隣で寝ている洋子の前に立った。
「ひ、ひぃぃ!」
隣で絶命している夫を見た洋子は悲鳴を上げて逃げ出そうとしたが、千尋は彼女の両手首を縛って動きを封じた。
「奥様、これはあなたが招いた事です。恨むのなら、ご自分をお恨みなさい。」
まるで幼子を寝かしつけるかのような優しい口調で千尋は洋子の耳元でそう囁くと、彼女の頭上に斧を振り翳した。
「はぁ、はぁっ・・」
洋子の返り血を全身に浴び、千尋は物言わぬ骸と化した彼女を冷たく見下ろした。
彼女の近くには、腹から引き摺りだされ絶命した胎児が転がっていた。
それに冷たい一瞥をくれた千尋は、そっと歳三の頬を撫でた。
まだ、温かい。
「・・歳三さん、わたくしもすぐに参ります。」
千尋は愛しい男の、血の気が失せた唇に自分のそれを重ねた後、懐剣で己の喉を突いて果てた。
それから数時間後、通報を受けた巡査が主人夫妻の寝室へと駆けつけると、血天井と血の海の中で、三人の男女の遺体を発見した。
男二人の遺体は頸動脈を切られただけだったが、女の遺体は顔が原形を留めぬほどに斧で執拗に振り下ろされた所為で肉塊と化し、四肢を切断された挙句、胎児と内臓を引きずり出されていた。
主人夫妻を殺害した犯人・岡崎千尋の遺書が発見されたのは、事件から数日後の事だった。
そこには、女将である洋子に彼が折檻されていたことや、その詳細が大学ノートに10ページにもわたって綴られていた。
そしてそのノートの最後には、こう綴られていた。
“わたくしはもう、心を失ってしまいました。今宵わたくしは愛する人を手に掛け、外道へと堕ちます。これはわたくしの運命、宿命なのです。”
(完)
現在、別ブログにて連載中の小説「愛しいあなたへ」の初期プロットとして考えていたものです。
余りにも暗すぎ・残酷すぎるので没にして、短編として書き直しました。
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「千尋、何ボサッと突っ立ってるの、早くなさい!」
「はい、奥様・・」
「全く、あなたは動くのが遅いんだから!」
田園地帯が広がるある村にある一軒の旅館「三島旅館」。
そこでは今日も、その旅館の女将である洋子が丁稚の千尋を叱り飛ばしていた。
「申し訳ございません・・」
「あなたは謝れば済むと思っているのね!全く、歳三さんはどうしてこんな人を置いておくんだか!」
床にぶち撒けられている味噌汁を雑巾で拭き取る千尋の頭上に、洋子は容赦なく罵声を浴びせた後、大きく迫り出した腹を擦った。
半年前、父親と周囲の猛反対を受けながらも、洋子は歳三と祝言を挙げた。
旅館には既に女将・喜代が長年采配を振るっていたが、老齢で仕事もままならず、彼女は女将業を洋子に譲った。
そこから、千尋の生き地獄が始まった。
喜代は千尋を実の息子のように可愛がってくれたし、彼の恋人である歳三に対しても何かとよくしてくれていた。
しかし、洋子が半ば強引に歳三を千尋から奪い取り、旅館の実権を掌握した瞬間から、洋子は千尋を日当たりの良い部屋から狭く暗い丁稚部屋へと移し、彼を馬車馬のようにこき使った。
旅館の従業員達は喜代の代から勤めている者が多く、洋子に辛く当たられる千尋にはじめは同情してくれ、助けてくれたりしていたが、洋子に解雇されるのを恐れて皆見てみぬ振りをしていた。
「またあの子に苛められたとね?」
「いいえ・・」
「あの子をこの家に入れたんは、間違いだったかもしれんね。」
老齢となった喜代は最近寝たきりとなり、その世話の一切を洋子は千尋に押し付けた。
「男手はあなただけなのよ、千尋。それにあなた、お義母様に恩義があるんだから、返すのは当然よねぇ?」
姑の介護をせずに済んだ洋子は、旅館の跡取り娘である継子・幸子の養育を放棄して妊婦であることを盾に好き放題に暮らしていた。
「お祖母様。」
「幸子、どうしたんだい?」
千尋が喜代に粥を食べさせていると、幸子が泣きながら部屋に入ってきた。
「あの人が、また嫌なこと言った。」
「まぁ・・一体何があったんですか?」
「お父さんの仏壇に線香を焚いていたら、あの人がやってきて“わたしの前で縁起の悪いことをするな”って怒鳴って・・」
そう言った幸子は両手で目を覆い隠した。
その時、彼女の両手首に線香を押し付けられたと見られる火傷痕があった。
「お嬢様、お可哀想に。痛かったでしょう。すぐに手当てをしますからね。」
千尋は泣く幸子を抱き締めると、喜代の部屋から出て行った。
「一体どういうつもりなのですか!幸子お嬢様に折檻をなさるなど・・大奥様もお怒りですよ!」
喜代の部屋から出た千尋が向かった先は、歳三達が寝起きする部屋だった。
「あの子が生意気な態度を取るからよ。あの子、ちっともわたしに懐かないんだから!」
「あなたのような鬼婆に、誰が懐くものですか!」
千尋がそう言った時、彼は頬に鋭い痛みが走ったのを感じた。
「あんた、誰に向かって口答えしてんだよ!」
まるで般若のような形相をした洋子は、千尋の髪を掴んで畳みの上に押し倒すと、彼の脇腹を蹴り始めた。
千尋は苦しそうに息を吐きながら立ち上がると、洋子を睨みつけた。
「何なのよその目はぁ!」
一旦怒りのスイッチが入った洋子は、千尋を激しく打擲(ちょうちゃく)した。
その時、部屋に歳三が入って来た。
千尋が洋子に折檻されているというのに、歳三は表情ひとつ変えなかった。
それどころか、千尋と目が合ったというのに、彼は目を逸らした。
「あんたはあたし達に飼われてんだよ!奴隷の分際で生意気言うんじゃないよ、わかったね!」
「良さねぇか。」
洋子が息を切らしながら畳の上でぐったりとして動かない千尋を冷たく見下ろした時、歳三がそう言って彼女の隣へと来た。
「そんなに暴れると、腹の子に障るだろ。」
彼は妻の折檻に抗議せず、彼女の身を案じていた。
それを見た千尋は、自分の中で何かが切れたような気がした。
「また、女将さんにやられたのかい?」
「観介さん・・」
千尋が薪を割っていると、番頭の観介がやって来て、千尋の腕や腹部に残る激しい折檻の痕を見て、自分まで洋子に折檻を受けたかのように顔をしかめた。
「若旦那は一体何をしてやがるんだ。昔はあんなふうじゃなかったのに、すっかり腑抜けになっちまって・・」
「歳三さんには歳三さんなりのお考えがあるのです。どうかあの方を責めないでやってください。」
「けどなぁ・・」
「千尋、さっさと仕事なさい!」
千尋を労わる観介の背後から、洋子の鋭い声が飛んだ。
「心配してくださり、ありがとうございました。」
千尋は観介に頭を下げ、旅館の中へと戻った。
「階段の拭き掃除をお願いね。あたしが監視してるから、逃げられると思わないでよね。」
数分後、千尋は洋子に監視されながら階段を雑巾で拭いていた。
「ここ、まだ汚れが残ってる!」
「申し訳ございません・・」
千尋が雑巾を絞ろうとバケツの方へと近づいた時、洋子が彼の手を踏みつけた。
痛みに千尋は顔をしかめたが、声は上げなかった。
そんな彼にますます苛立ったのか、洋子は体重を掛けて千尋の手を踏みつけ始めた。
「どうしたの、痛いって言ってみなさいよ?」
「おやめください・・」
「何言ってんのか、聞こえないわよ。」
勝ち誇ったかのような笑みを浮かべる洋子を見て、千尋は彼女に対して激しい殺意を抱いた。
千尋は洋子の足を押し退けた。
バランスを崩した彼女は、階段から真っ逆さまに落ちていった。
「誰か、来て下さい!女将さんが階段で足を滑らせました!」
千尋は慌てて階段を駆け降りると、洋子の近くに跪いて大声を張り上げた。
口元に暗い愉悦(ゆえつ)の笑みを浮かべながら。
不慮の事故で洋子は半身不随で寝たきりとなり、その介護は千尋がすることとなった。
いや、彼が自ら申し出て、洋子への復讐の足がかりにしようとしていたのだった。
「奥様、どうぞ。」
「要らないって言ってるでしょう!」
寝たきりとなっても洋子の気性の荒さは変わらず、千尋に始終悪態を吐いた。
だが歳三の前では態度をがらりと変え、千尋に虐待されているとあることない事を彼に吹き込んでいた。
その所為で、千尋と歳三との間には深い溝が生まれてしまった。
そして、千尋の中では黒い感情が一気に溢れ出た。
その日、歳三の友人達が旅館にやって来たので、千尋は彼らに酒を振る舞った。
歳三の分の酒には、大量の睡眠薬を仕込んで。
「若旦那様、もうお休みになられては?」
「ああ、そうする・・」
トロンとした目をしながら、歳三は早々に寝室へと引き上げていった。
歳三の友人達が部屋で寝静まっている頃、千尋はそっと歳三達の寝室の襖を開いた。
二組の布団の中で、歳三と洋子はすやすやと眠っていた。
二人を起こさぬよう、千尋はそっと部屋の中へと入ると、歳三の上に馬乗りになり、彼の喉笛を錐(きり)で勢いよく突き刺した。
ゴボリという音と共に、鮮血と血泡が溢れだし、歳三はほどなくして絶命した。
「あなたが悪いのですよ・・」
錐を歳三の首から引き抜いた千尋はそう呟くと、隣で寝ている洋子の前に立った。
「ひ、ひぃぃ!」
隣で絶命している夫を見た洋子は悲鳴を上げて逃げ出そうとしたが、千尋は彼女の両手首を縛って動きを封じた。
「奥様、これはあなたが招いた事です。恨むのなら、ご自分をお恨みなさい。」
まるで幼子を寝かしつけるかのような優しい口調で千尋は洋子の耳元でそう囁くと、彼女の頭上に斧を振り翳した。
「はぁ、はぁっ・・」
洋子の返り血を全身に浴び、千尋は物言わぬ骸と化した彼女を冷たく見下ろした。
彼女の近くには、腹から引き摺りだされ絶命した胎児が転がっていた。
それに冷たい一瞥をくれた千尋は、そっと歳三の頬を撫でた。
まだ、温かい。
「・・歳三さん、わたくしもすぐに参ります。」
千尋は愛しい男の、血の気が失せた唇に自分のそれを重ねた後、懐剣で己の喉を突いて果てた。
それから数時間後、通報を受けた巡査が主人夫妻の寝室へと駆けつけると、血天井と血の海の中で、三人の男女の遺体を発見した。
男二人の遺体は頸動脈を切られただけだったが、女の遺体は顔が原形を留めぬほどに斧で執拗に振り下ろされた所為で肉塊と化し、四肢を切断された挙句、胎児と内臓を引きずり出されていた。
主人夫妻を殺害した犯人・岡崎千尋の遺書が発見されたのは、事件から数日後の事だった。
そこには、女将である洋子に彼が折檻されていたことや、その詳細が大学ノートに10ページにもわたって綴られていた。
そしてそのノートの最後には、こう綴られていた。
“わたくしはもう、心を失ってしまいました。今宵わたくしは愛する人を手に掛け、外道へと堕ちます。これはわたくしの運命、宿命なのです。”
(完)
現在、別ブログにて連載中の小説「愛しいあなたへ」の初期プロットとして考えていたものです。
余りにも暗すぎ・残酷すぎるので没にして、短編として書き直しました。
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