BELOVED

好きな漫画やBL小説の二次小説を書いています。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。

Agony

2013年03月25日 | 日記

1869年5月11日、函館・一本木関門。

孤立した新選組を救う為、歳三は部下達を率いて五稜郭から彼らが居る弁天台場まで向かった。
その時、一発の銃弾が彼の右脇腹に炸裂した。

「土方さん!」
「千尋、泣くんじゃねぇよ、こんな時に・・」

負傷した歳三に、千尋をはじめとする元新選組隊士達が駆け寄った。
彼は歳三の傷口を止血したが、医術の心得がない千尋でも、それがもう致命傷であることは見てわかった。
「そんな・・あなたなしで、一体どうやって新選組を・・」
「泣くんじゃねぇ。」
千尋の涙を頬に受けながら、歳三はゆっくりと手を千尋の頬に伸ばした。
「駄目です、死んでは!」
「俺はここで、くたばっちまう訳にはいかねぇんだよ・・」
ゆっくりと目を閉じると、そこには先に逝ってしまった総司や勇が自分に笑顔を浮かべている。
「お前は・・生きろ。俺の分まで。」
「嫌です、嫌!」
「ったく、そんなに泣くんじゃねぇよ・・また、幸せな世で会おうな・・」

花が綻ぶかのような笑みを浮かべながら、歳三は静かに逝った。

「歳三さん・・?」

多摩の百姓として生まれ、京で武士となった男は、函館でその35年の短い生涯を華やかに散らした。

「あなたが居ない世界なんて、そんなの・・」

千尋は歳三の遺体に縋りつき、いつまでもそこを離れようとはしなかった。

“また、幸せな世で会おうな。”

耳朶に残るのは、愛する人の最期の言葉だった。

「じゃぁ、そろそろ行こうか?」
「うん。」

桜が舞う中、千尋は両親と共に高校の入学式へと向かった。
そこは伝統ある男子校で、文武両道の名門校として名高い修英館高校だ。

「友達、沢山作れるといいね。」
「それはまだわからないよ。それに、友達って数が多い方がいいなんて、誰が決めたの?」
「そうだな。チヒロの言う通りだ。」
車を運転していた父がそう言って嬉しそうな顔を千尋に向けた。
『新入生の方は、各自教室に移動してください。』
講堂内にアナウンスが流れ、三々五々新入生たちは緊張した面持ちでそれぞれの教室へと入って行った。
「ここ、いいかな?」
「構わないが。」
同じ中学同士の新入生たちがグループで固まる中、千尋は隣で読書をしている少年に話しかけた。
漆黒の髪に、真紅の瞳をした彼は、誰かに似ていた。
「ねぇ、名前は?俺は岡崎千尋。」
「俺は斎藤一だ。」
「宜しく。」
少年と千尋が握手をしていた時、教室に漆黒のスーツを纏った一人の教師が入って来た。
極上に磨き上げられたかのような美しい紫紺の瞳で、彼は教室中を見渡した。

「俺は1年間お前らの担任を務める土方歳三だ。」

黒板に自分の名を書いて自己紹介した彼の姿を、千尋はかつて愛した人の面影に重ね合わせた。


“また、幸せな世で会おうな。”


(完)

また別ブログにてUPした短編です。
悲しい別れをした恋人達が、再び巡り合うというストーリーです。
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