東大教授が嘆く…日本の若手研究者が食えなくなってしまった「決定的理由」
8/31(水) 8:32配信
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『歴史学者という病』
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そんな題名だけ聞くと、さぞかし怖い本のように思うかもしれない。しかし、実際に読んでもらえればわかるが、この本は歴史学者・本郷和人の人生を本人が語りながら、生きていくことの辛さや不可解さ、そして、面白さや可能性などについても触れている。そこで特別企画として、この本にはあまり収録できなかった話を中心に「人生相談」風にまとめてみた。題して「人生の難問は歴史学者に聞け。本郷和人のルサンチマン人生相談」です! 第六回は、「『やりたいこと』は工夫次第」です。
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今回の相談事項
「大学院で博士課程在籍中ですが、今はとても後悔しています。ポストが少なすぎて、将来、大学の教員、研究職として残れそうな可能性がほとんどないからです。研究者の道を諦めて就職しようか迷っています。私はどうしたらよいでしょう」
国と大学に振り回される大学院生
いわゆる「高学歴ワーキングプア」の問題である。 これは「大学の構造変化」の問題だと私は考えている。
流れを簡単に言えば、次のようなことだ。
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①文部科学省の施策によって全国に大学院が乱立した。
②設立した以上、一定数の大学院生を輩出しないと文科省(国)から交付金がもらえないため、大学院がどんどん院生の数を増やした。
③院生の急増により、大学に残るためのポストが奪い合いとなり、結果的にあぶれてしまった者たちによる、高学歴ワーキングプアが顕在化するようになった。
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ということで、安易に院生の数を増やした国にも、そして、その施策にのって大学院を増設し、院生に片っ端から博士号を濫発するようになった大学側にも一定の責任はある。
ということで、安易に院生の数を増やした国にも、そして、その施策にのって大学院を増設し、院生に片っ端から博士号を濫発するようになった大学側にも一定の責任はある。
もちろん、院生を指導する立場にある大学教員にもその責任の一端はあるだろう。 本来ならば、「一定の学問レベルに達していない人が大学に残ろうとしてもうまくいかないよ」ということを、しっかり説明し、一部の人には大学以外の世界で頑張ってもらうように引導を渡すべきなのだ。それこそが本当の優しさでもある。
大学の方針、ひいては政府からの交付金に躍起となる大学経営者の方針に引きずられるあまり、可愛い教え子たちを貧困のどん底に落としてどうする、と言いたい。
社会全体で取り組む問題でもあるが、まずは教員たちには、自分の目の前にいる教え子たちのリアルな生活と未来を考えるような世界であってほしいと願う。
「やりたいこと」は選ぶ覚悟と工夫次第
本郷和人さん(撮影:森清)
というわけで冒頭の相談にお答えするとするならば、要は覚悟の問題ということになる。
相談者の専攻も能力もわからない、という設定上、いい加減なことは言えないが、指導教員の言説をすべて鵜吞みにするのではなく、
「将来自分がやりたいこと」と「将来の生活設計」とをしっかり検討した上で、どんなにイバラの道であろうと大学に残るのか、民間を選択するのかを決める。
ただし、後者を選択したとしても、それは「やりたいこと」ができなくなるわけではない。昔と違って現代には多様な選択肢がある。工夫次第で自分の理想に近づけることはできるのではないだろうか。
構成:森田幸江
本郷 和人(東京大学史料編纂所教授)