今回の相談者は、老後を迎え、今後が資金的に心配になってきた60代の男性です。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんが担当します。
▼相談者
もっちゃんさん(仮名)
男性/無職/60歳
京都府/持ち家・一戸建て
▼家族構成
妻(60歳/無職)
▼相談内容
老後が大変に不安です。何歳まで生きることができるでしょうか。事情により、今後働いて収入を得ることはありません。
「もっちゃん」さんの家計収支データ
▼家計収支データ
もっちゃんさんの家計収支データは図表のとおりです。
▼家計収支データ補足
(1)加入保険の内訳
・夫/がん保険(終身払い終身保障、入院・夫1万5000円/妻1000円、診断給付金・夫100万円/妻60万円)=保険料4930円
・夫/終身保険(終身払い、死亡保障200万円、入院特約・夫婦とも1万2500円)=保険料6000円
(2)公的年金、他の支給額
・60~64歳
夫/62歳から3年間で307万円、妻/60歳から5年間で210万円
・65歳以降
夫/月額14万5000円、妻/月額9万円
・他に個人年金保険より65~75歳までの10年間年金受け取り
夫/年額72万円、妻/年額48万円
(3)自宅リフォームの必要性
近いうちに発生することはほぼなし
▼FP深野康彦からの3つのアドバイス
アドバイス1:100歳まで生きても資産の目減りは1割以下
アドバイス2:必要以上に不安になることはかえってマイナス
アドバイス3:気になるなら家計をスリムに
◆アドバイス1:100歳まで生きても資産の目減りは1割以下
まずは、公的年金が満額支給となるまでの収支から見ていきましょう。ご夫婦ともに現在の60歳から65歳になるまでの5年間で、手にする公的年金は計517万円。
一方、生活費は現在と変わらないとすると、5年間で約1500万円。結果、この間におよそ貯蓄から生活費として1000万円を引き出す形となります。
65歳以降は、公的年金が夫婦合算で月額23万円。さらに、75歳になるまでの10年間は個人年金保険から月額10万円支給されますので、それを加算して月33万円。
大きな支出がなければ、この10年間は毎月8万4000円貯蓄できることになります。それが、トータルでほぼ1000万円ですから、結局、60~64歳で取り崩した貯蓄をそっくり取り返したことになるわけです。
75歳以降の収入はまた公的年金だけになりますが、生活費の不足分は毎月1万6000円。ご夫婦ともに100歳まで生きたとしても、赤字分の総額は480万円。5400万円ある手持ち資金(投資商品は変動していないとした場合)は1割も減りません。
したがって、資金的には老後に関して何の心配も要らないということになります。
◆アドバイス2:必要以上に不安になることはかえってマイナス
つまりは、老後資金は十分過ぎるほど用意できていることになります。それなのに、なぜ不安に感じてしまうのでしょうか。おそらく、これまで無収入の生活を長く体験したことがないのではと思います。
蓄えがそれなりにあっても、毎月、手持ち資金を取り崩すだけの生活は、やはり不安に思うもの。ましてや、その後に取り戻せるとはいえ、60歳からの5年間で1000万円も資産が目減りするのですから、安心してくださいと言う方が、無理があるかもしれません。
ここは発想を変えて、長い目でみていくことが大切です。そもそも、ご自身がこれまで一生懸命働いて作った貯蓄です。こういうときのために使う資金だったのではないでしょうか。
しかも、必要以上に不安になるのは、かえって逆効果。せっかく、ゆとりある老後を過ごせるのに、暗い気持ちになってしまいます。元気なうちに旅行に行ったり、趣味に支出しても、資金的にはほぼ問題ありません。ぜひ楽しむことを考えてみてください。
◆アドバイス3:気になるなら家計をスリムに
それでも心配だということであれば、家計を見直す余地はありますので、そこをいくつかをあげてみます。
雑費と趣味娯楽費と小遣いの合計が9万7000円と、それなりの額になっています。無意識に細々とした支出を多くしているのかもしれません。余裕があるからいいのですが、もしも、ご相談者が赤字家計ならば、まずここを指摘します。
あとは、食費7万円も夫婦2人であれば、やや多めと言えるでしょう。水道光熱費もそうですが、少しでも支出を無駄なくスリムにということであれば、節約はそれなりにできそうな家計です。
ただし、繰り返しになりますが、節約をあえてするほどの内容ではありません。
それでも、ここだけは見直していいと思うのが保険です。現在2本加入されていますが、これらの保障が本当に必要でしょうか。
がん家系といった理由で、病気がすごく心配であれば別ですが、そのあたりの不安がないのなら、貯蓄でカバーできると思います。終身保険は払い済みにして、医療保険は解約。浮いた保険料を貯蓄に回せば、結局、それがいざというときの資金になります。
もちろん、老後は平均しても25年、30年と長い時間を過ごします。その間、大病をしたり、要介護になるというリスクも、当然抱えているでしょう。
したがって、先の試算も途中、それなりの大きな支出をともなうかもしれません。しかし、それを考慮しても、資金的には安心できる内容だと考えます。
◆相談者「もっちゃん」さんから寄せられた感想
いろんなファクターを考慮し、ほとんど神経症の状態で背中に汗をびっしょりかき10年間、夜もろくろく寝られませんでした。またお金に対して神経質になり株で大損失をしました。
このたび、私の予想が杞憂であることが分かり大いに安心した次第でございます。アドバイスをよく噛みしめ生活を再考したいと存じます。このたびはお世話になりました。
教えてくれたのは……深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金周り全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。
取材・文:清水京武