実家の解体費用「500万円」をめぐり家族が絶縁…放置した空き家が引き起こす「ヤバい事態」(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース
実家の解体費用「500万円」をめぐり家族が絶縁…放置した空き家が引き起こす「ヤバい事態」
5/18(木) 7:03配信
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親が亡くなり、人が住まなくなった実家がいつのまにか「時限爆弾」になっているかもしれない。法改正で特例措置が使えなくなり、いつのまにか重い税金がのしかかる。さらには売却・解体もできなくなる可能性まで。前編記事「74歳男性が絶句…相続した実家を売ろうとして、不動産屋から言われた「衝撃の一言」」に引き続き紹介する。
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実家を売却できなくなった
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一方、相続が発生する前の段階から、実家が「空き家」になってしまうケースもある。最も多いのは、介護施設に移る時に、「いつか自宅に戻りたい」と思って家を放置するパターンだ。
千葉県在住の徳永康さん(57歳・仮名)は語る。
「4年前に父が高齢者施設に入居したんです。ただ、山梨県の実家はそのままにしていました」
ところが昨年、徳永さんの元に驚きの連絡があった。なんと実家が放火されたというのだ。
「実家に行くと、1階の窓枠が黒く焦げているのが確認できました。ボヤで済んだから良かったものの、隣家に延焼していたら大変な事態になっていました」(徳永さん) 実家を放置した3年の間に、庭には不気味な黄色い花をつけたセイタカアワダチソウが、家を呑み込む勢いで生い茂っていた。裏口の窓に見覚えのないヒビが入っているのにも気づいたという。不動産コンサルタントの齋藤智明氏は語る。
「ボロボロになった家ほど放火犯や窃盗犯に狙われやすい、ということが知られています。実際、犯罪学では『割れ窓理論』というものがある。これは『壊れた窓を放置すると、やがて他の窓も壊され、治安が悪化する』という理論です。空き家も放置することで荒れていき、犯罪の温床になったり、周囲の治安を悪化させたりする危険性があります」
持ち続けるだけ損をするなら、実家を手放してしまおう。徳永さんはそう考えた。だが、時すでに遅し、だった。
「家を売却しようと思っても、父が認知症になっており、どうしようもないのです。成年後見人を付けるという手もありますが、躊躇しています。制度の利用を始めれば、後見人になった弁護士などに毎月数万円を報酬として払わないといけない。家がまとまった金額で売れるとは思えないし、かといって実家を放置すればまた近所に迷惑をかけてしまう。八方塞がりですよ」
こう嘆く徳永さんは今も、2~3ヵ月に一度は片道3時間以上かけて山梨まで通っているという。
解体費用が500万円に
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実家を空っぽにしている期間が長ければ長いほど、問題は複雑になる。
〈管理建物の適正管理について〉] 福岡県に住む原博也さん(72歳・仮名)のもとに、こう題する通知が届いたのは昨年夏のことだった。「重要」と書かれたピンク色の封筒には、ツタに覆われたボロボロの物件の写真が10枚ほど入れられていた。
「そこに写っていたのは、変わり果てた実家の姿でした。母が亡くなったのは15年前、私たちきょうだいは昔から仲が悪く、東京の外れにある小さい実家以外たいした遺産もなかったので、相続をうやむやのまま放置していました。しかし実家の周辺の住民から自治体に苦情が入り、戸籍を辿って私のところまで連絡が来たようです」(原さん)
書類には〈このままの状態が続けば、廃棄物の不法投棄や害虫等の発生、雑草が土地境界を越えて周辺の生活環境が損なわれることになります〉という文言も。無視するわけにもいかず、原さんは慌てて飛行機を予約し、実家に向かった。
15年間放置された家は、悲惨な有り様だった。家の敷地には高さ10m超えのスギの木が生え、緑の葉が塀からはみ出している。屋根も瓦が剥がれた部分があり、雨漏りで腐ったのか、2階の床が一部抜け落ちていた。
「不動産業者からは建物は壊すしかないと言われたのですが、解体の見積もりを取って驚きました。500万円もかかるというのです」(原さん)
処分に失敗した実家は「時限爆弾」
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あまり知られていないが、長年放置された物件は解体費用も段違いに高くなるのだ。東京都足立区で空き家問題に取り組む宅地建物取引士の葛生貴昭氏が解説する。
「昔は全部壊して埋め立て地に運んでいたのですが、今はゴミとして分別することになっています。窓ひとつとっても、アルミやガラスなど細かく分けなければならない。荒れてしまった家は、解体で出るゴミの仕分けに手間と時間がかかるため、費用が嵩んでしまうのです」
解体費用の負担は、新たな争いの火種となった。折半で決着はついたものの、きょうだいはこれで完全に絶縁状態になってしまったという。
「放置された期間が30年を超えると、外壁も崩落しはじめます。台風によって家屋自体が崩壊するのを目にしたことがあります」(葛生氏)
処分に失敗した実家は、「時限爆弾」のようなもので、いつか必ず爆発する日が来る。
大損する前に、必ず早めに手を打っておきたい。まず、実家を相続したら1年以内に不動産屋に相談をしよう。
「地元の不動産業者2~3社に『いくらぐらいなら売れそうか』と聞いてみましょう。自治体が運営する空き家バンクを利用するという手もありますが、結局は買い手がつくかどうかですから、売れ残る可能性もある。
売却が難しそうなら、隣近所に声をかけてみてください。
『駐車場にしたいから、更地なら買う』といったケースもあり、100万~200万円程度の解体費用を払って安く譲ったとしても、家を持ち続けて固定資産税を払い続けるより得になるケースが多いのです」(前出・齋藤氏)
最後の手段
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相続ではなく、施設への入居などで実家が空いてしまう場合もあるだろう。この時点で売却してもいいが、難しい場合は賃貸に出すという選択肢もある。
「東京、埼玉、神奈川、千葉の都市部の物件なら、NPO法人空き家・空地管理センターが提供する『AKARI(あかり)』の利用が検討できます。事業者の費用負担で内装の改修工事を行い、5年~10年程度借上げて転貸を行う仕組みで、管理の手間と賃貸のリスクを軽減できます」(NPO法人空き家・空地管理センター理事の伊藤雅一氏) 相談窓口は、0120-336-366(9時~17時)だ。
とはいえ、いずれは実家を相続することになる。売れればいいが、現実的にはどうしても買い手がつかない物件も存在する。
手放しようがない不動産について、国も対策に乗り出している。4月27日に開始したばかりの「相続土地国庫帰属制度」は、土地の所有権を手放せる斬新な制度だ。
「一方で、まだまだ新制度を利用するにはハードルが高いのも事実です。建物を解体して更地にしたり、境界線を確定したりする必要があるうえに、負担金も払わなければなりません。それも市街地の宅地なら100㎡で約55万円、200㎡で約80万円と高額です」(税理士・山本和義氏)
新制度は、あくまで「最後の手段」だと考えておいたほうが良さそうだ。むしろ専門業者を頼るほうが、早く確実に土地を手放せる可能性がある。
「買い手がつきにくい物件を預かり、隣地とくっつけて太陽光発電や工場用地として売却する専門業者があるので、そこを頼るという手もあります。ただし、『土地を預かる』といってカネだけもらい、土地を放置する悪徳業者もいるので注意が必要です。ネットを含め評判をチェックしたり、引き取った後の活用法や実績を確認したりして、適切な業者なのか、判断しましょう」(前出・齋藤氏)
とにかく実家は早く手放すこと。重税や、思わぬ出費に見舞われてから悔やんでも、後の祭りだ。
「週刊現代」2023年5月20日号より