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なぜ働くの?

 少し前に迷い込んだ知らない人のブログに、「自分の資産を1億円にしようと思ったらどうする?」と題したアンケートがあり、答えとして、①節約する ②稼ぐ③投資 ④その他(教えてください)とあった。私は迷いなく④を押して、「何か悪いことをしなければ1億円は貯まりませんよ」と書き込んでおいた。本当に、その通りだ、まともに働いているだけで、1億円も貯まるわけがない。そんな金額のお金が欲しいなら、違法行為を犯すか、法律すれすれのことをするしかないじゃないかと、思わず突っ込みを入れたくなってしまう。今度の総選挙で小泉自民党がこれほどまで大勝してしまうと、消費税やら何やらが増税されて、ますます「働けど働けど我が暮らし楽にならざり じっと手を見る」という石川啄木状態になってしまうんだろうかと、暗澹たる気持ちになるのは、私だけであろうか。
 何のために働くかと問われて、人はどんな答えをするのだろうか。私はそれに「働かなくてもよくなるために働く」といささか禅問答じみた答えをする。私は基本的に怠惰な男である。できることなら、何もせずにブラブラしていたい。しかし、ブラブラするにもお金はいる。何もしないでいても、人の業として、生きている以上は食わねばならぬ。食うためには、お金がいるのが現代だ。しかも私は、贅沢なことに、おいしいものが食べたい、おいしいビールが飲みたい。どうしたってお金がたくさんいる。お金を手に入れるためには働かなくてはならない。だが、働くにはなかなか気力がいるし、気力を生み出すにはそれなりの動機が必要だ。だから私は、「もう働かなくても十分遊んで暮らせるだけのお金を貯めるために、必死になって働こう」と、ある時期に決めた。それ以来、働くことに迷いがなくなった。なくなったが、同時に時間もなくなった。働いて、働いて、少しでも多くのお金を貯めようと仕事に励んだおかげで、遊ぶ時間をなくしてしまったのだ。しかも、運の悪いことに、いくら必死になって働いても、お金は一向に貯まらない。貯まらないから、ますます一生懸命になって働く。すると、もっともっと遊ぶ時間がなくなって・・・。あーあ、もう嫌だ!書いているうちに本気で嫌になってきた・・・
 しかし、メジャーリーグの選手たちは、何故あんなにも真剣にプレイするのだろう。松井秀喜がアメリカに渡って、本格的にメジャーの試合を見るようになって、一番最初に驚いたことは、何億円もの年俸を手にしている一流選手達が、1つ1つのプレイに決して手を抜かないことだ。誰が見てもアウトだと思える内野ゴロでも一塁まで全力で駆け抜ける。追いつけそうもない打球に、必死の形相で飛びつく。彼らをそこまで駆り立てるものは、いったい何だろう。幾ら大金を手にしても、彼らはさらなる大金を貪欲に目指して、必死になるのだろうか。いや、それは下衆の勘繰りというものだ。勿論、お金のためというのは彼らにとって重要な動機付けなのだろうが、それだけでは一流と呼ばれる選手には、絶対になれないと思う。それに加えて、選手として1つでも上の段階を目指す向上心が、彼らを突き動かしているのだと思う。松井も、あのまま日本に残ったとしても、今ヤンキーズで得ているのと同等の年俸は得られただろう。しかし、彼はそれに安住しなかった。自らを高めるために、一段高いフィールドに立つことを望んだのだ。その強い意志があるからこそ、彼はメジャーでも一流選手の仲間入りをすることができただろうし、これからも更なる境地を目指して飛躍していくことだと、私は信じている。
 漱石の「それから」の中で、仕事で失敗し東京に戻ってきた友人を、代助が次のように評した。
    「つまり食うためにはたらくからでしょう」
 また、「食うための職業は、誠実にゃ出来にくいという意味さ」
でもなあ、私あたりの程度の人間じゃ、お金のために働くしかできないんだよなあ、悲しいことに。
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