goo

虫のこえ

 自然に恵まれたところにすんでいるお陰で、毎夜毎夜虫たちが大合唱を聞かせてくれる。私の寝室の向かい側は、山の斜面となっているため、草むらからの虫の声を全身に浴びながら眠る状態になる。心を落ち着け、じっと虫の音に耳を傾けていると、すっと眠りに落ちていけるから、私にとっては快い子守り歌となっているのだろう。秋の虫たちの声は、真夏のセミの大音声と違って、いくら絶えず聞こえてきても、うるさいとは感じずに心にじんわり響いてくる。それは、セミの声が真夏の暑さを増幅させるような不快感を、時としては与えるのに反し、秋の虫たちの声は秋の夜長の静謐さを、聞く者の心の中にゆっくりと染み入らせるからではないのだろうか。
     
     1 あれ 松虫が鳴いている
       ちんちろ ちんちろ ちんちろりん
       あれ鈴虫も 鳴きだした
       りんりん りんりん りーんりん
       秋の夜ながを鳴き通す
       ああ おもしろい虫の声

     2 きりきり きりきり こおろぎや
       がちゃがちゃがちゃがちゃ くつわ虫
       後から馬おい 追いついて
       ちょんちょん ちょんちょん すいっちょん
       秋の夜ながを鳴き通す
       ああ おもしろい虫の声       「虫のこえ」

 この歌を基にして、窓の外から聞こえる虫の声を、どんな虫が鳴いているのか聞き分けようとしたが、よく分からない。「ちんちろちんちろ」と弱い音が時々聞こえるから、松虫はいるだろう。「すいっちょん」とゆっくり鳴くのもいるから、馬おいもいるのだろう。「がちゃがちゃ」「きりきり」はもうごちゃ混ぜになって判然としないのだが、きっとこおろぎやくつわ虫もいることだろう。まさに虫のデパートだ。さらには、中学生から聞いた話によると、キリギリスもかなり大量にいて鳴いているらしい。写真の虫もキリギリスだと思うが、どういう訳か、時々塾舎の窓にへばりついている。ヤモリやカマキリが虫を捕るために登場するのは理解できるが、キリギリスが何のために窓ガラスの上でじっとしているのか、皆目見当もつかない。ただ、彼らが夜のオーケストラの重要な役割を担っていることは確かだと思う。
 しかし、鈴虫の声はほとんど聞こえない。リーン、リーンと本当に鈴が鳴るように聞こえる彼らの音は、人工飼育された鉢の中からしか聞いたことがない。私の家でも、何年か前に知り合いから分けてもらった鈴虫を育てたことがある。盛りの時には、元気よくリーンリーンと鳴いて、風流な趣を味あわせてくれたのだが、秋が深まるにつれ、一匹一匹姿を消していったのには驚いた。なんでも、メスが卵を産むための栄養分として、オスを食べてしまうからだそうだ。いくら自然の摂理とはいえ、私達の耳を楽しませてくれた、まさにその鉢の中で、過酷な現実が繰り広げられていたのだと思うと、少なからず辟易して、翌年からは飼育するのは止めてしまった。生き物を飼うのは、その死まで受けとめてやることだとは頭で分かっていても、いざ目の前にしてしまうと、尻込みしてしまうのは人間の身勝手さなのだろう。
 さあ、今夜も虫たちの音に包まれて、心地よい夢が見られますように。
コメント ( 8 ) | Trackback ( 0 )
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする