本書の副題は「ビキニ被ばくとロンゲラップの人びと」である。
日本から南東に太平洋を約4500km進んだところにマーシャル諸島がある。「ビキニ水爆実験」という言葉は歴史事実として知っていた。それは日本のマグロ漁船、第五福竜丸の乗組員が操業中にこの実験による放射性降下物を浴び、乗組員が被曝し、帰国後亡くなったという事実についての局面である。
悲しいかな、マーシャル諸島に住む人びとが居たということが想念にはなかった。今にして初めて、その事実を本書で知った。
この写真・文の本は、ロンゲラップ環礁にあるロンゲラップ島の人々、さんご礁の島で平和に暮らしていた人々が、ふるさとの島を”ポイズン(毒=放射能)”に汚染された結果として、自分たちの判断で脱出した事実についての本である。脱出の日、1985年5月20日以降、島田氏は人々に接し写真を撮り続けてきたのだ。2012年という日付で説明される写真まで、様々なシーンが記録されている。人々の姿、表情が撮り続けられている。写真の中には、1999年の日本の科学者による残留放射能調査の時の写真も掲載されている。
本書の背景事実を箇条書きで抽出してみる。
*アメリカはマーシャル諸島で1946年から67回の原水爆実験を実施した。
*1954年3月1日:水爆ブラボー 広島の原爆の約1000倍の威力を持つものだった
*この日、ロンゲラップ環礁では、胎児4人を含む86人が放射性降下物で被曝した。
→ この実験について3日間、何も知らされずに放置されていた。
その後島外に避難した。
*3年後の1957年アメリカ政府は島の安全宣言を出した。
→ 人々は帰島したが、それから28年間、数百人が放射能に被ばくし、苦しんでいる。*1985年、人々は自主的な判断で、汚染された島から全員が「脱出」した。
*移住先は無人島のメジャト島:ふるさとの島から南約200キロ(クワジェリン環礁の一部)
人々は、ふるさとの島から家や学校を解体し、その資材を無人島に持ち込んで、一から生活の基盤を作っていったのだ。メジャト島での暮らしが写真で綴られる。そして、人々の被ばくとの闘いが。
1990年11月には、「ロンゲラップ再評価計画」の中間報告がなされ、人々の思いはやはりふるさとの島に向かう。1998年からロンゲラップ本島での再建工事が始まっているという。その状況写真も掲載されている。
帰島への動きはあるが、人々は過去の経験から気持ちは揺れ動いているという。
”「ポイズン(放射能)がこわいからかえりたくない」という気持ちと「安全だというのを信じて帰りたい」という気持ちの間で”(p40)
「ようやく住み慣れたメジャト島。2010年の時は帰島に反対する意見が70%を占めていた。」(p42)
2012年時点でロンゲラップ島には、住宅が50戸建設され、アメリカ政府との共同で、人びとが帰島し自立するための仕事作りが試みられているようです。
「島に帰るかどうか、ロンゲラップ村の人たちの気持ちは複雑です」(p50)。
つまり、
被ばく、そして強制避難 → 3年後の帰島、二次被ばく → 島からの脱出
→再建工事の開始と自立環境づくりの試行 → 帰島への想い:揺れ動く気持ち
「あとがき」の直前には、「ロンゲラップ1次被ばく者全リスト」が実名で掲載されている。
わずか72ページの写真主体に文で補足した小冊子である。
本書を読みながら、ポイズンの島が福島の状況と重なって行った。情報が的確に報じられないままに放置され、被ばくが進行した始まりの福島の事実との二重写しである。
福島原発事故の事実から、被ばくについて知る為にも、はるか彼方のロンゲラップの人びとの被ばくとその後の経緯を、重ねて考えて行くことが重要だという想いだ。
より深く考えていくうえで、貴重な一冊だと思う。
ご一読ありがとうございます。
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本書と関連する語句をいくつかネット検索した一覧をまとめておきたい。
ロンゲラップ環礁(所在地の地図)
ロンゲラップ島 ビキニ環礁 核実験 :「ただちに、どうなんですかね?」
米、ビキニ環礁の水爆実験被害者に「帰郷」求める :AFP BBNews
2010年03月06日 14:01 発信地:マジュロ/マーシャル諸島
Rongelap Atoll :From Wikipedia, the free encyclopedia
Nuclear Rongelap Evacuation - Marshall Islands (1985) :「GREENPEACE」
RONGELAP ATOLL LOCAL GOVERNMENT
STATEMENT OF SENIOR JETON ANJAIN ON BEHALF OF THE RONGELAP ATOLL LOCAL GOVERNMENT
第五福竜丸 :ウィキペディア
都立第五福竜丸展示館 公式ホームページ
第五福竜丸 当時のニュースビデオ :YouTube
ビキニ核実験 人体実験 消えぬ疑惑 1998年1月20日(共同通信)
ビキニ水爆被災から50周年 核実験場とされたマーシャル諸島の今
竹峰誠一郎(早稲田大学大学院博士課程・国際関係学専攻)
ビキニ環礁 :ウィキペディア
キャッスル作戦 :ウィキペディア
Operation Castle :From Wikipedia, the free encyclopedia
Nuclear Test Film - Operation Castle (1954)
U.S.AのDepartment of EnergyNuclear Test Film 。実験の公開実記録ビデオ。
ブラボー実験 → Castle Bravo :From Wikipedia, the free encyclopedia
10.8講演「ビキニと福島原発被災」 :YouTube 掲載日(2011/11/10)
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
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上記は「核実験関連」ですが、放射能という観点では原発事故とリンクします。
今までに以下の原発事故関連書籍の読後印象を掲載しています。
読んでいただけると、うれしいです。
『原発事故の理科・社会』 安斎育郎 新日本出版社
『原発と環境』 安斎育郎 かもがわ出版
『メルトダウン 放射能放出はこうして起こった』 田辺文也 岩波書店
『原発をつくらせない人びと -祝島から未来へ』 山秋 真 岩波新書
『ヤクザと原発 福島第一潜入記』 鈴木智彦 文藝春秋
『官邸から見た原発事故の真実』 田坂広志 光文社新書
原発事故及び被曝に関連した著作の読書印象記掲載一覧 (更新1版)
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