1999年に第16回サントリーミステリー大賞・読者賞受賞作品である。
「初めて慎司の存在を知ったとき、うとましく思った。彼は、私の生活に突然入り込んできた、イントゥルーダーだった」
「イントゥルーダー?」
「侵入者。私たちは、コンピュータに入り込んできたものをそう呼んでいる。クラッカーやハッカーも含めて」
ゆっくりとしゃべった。自分の中で、慎司の存在を整理しておきたかったのだ。(p214)
このミステリーの中程に出てくる一節である。この作品のタイトルは直接的にはここに由来するようだ。
「私たち」と語る「私」とは、東証一部上場の東洋電子工業の副社長であり研究開発部長という肩書を持つ羽嶋浩司である。大学の研究室の先輩と大学卒業の半年前から始めたベンチャー企業を一部上場企業に発展させてきたのだ。そして東洋電子工業創立25周年記念事業の一環として、今はTE2000という世界最大、最高速の商用スーパーコンピュータの開発チームを主導している。マスコミ発表まで、デバッグに費やせるデッドラインはあと1週間という段階にある。横浜の新興住宅地、百坪の敷地のある家に住み、明美という娘のいる家庭を築いている。妻の裕子は、羽嶋たちのベンチャー企業が軌道に乗り始めた頃、会社にアルバイトに来ていた女子大生だった。
そこに突然、松永奈津子から「あなたの息子が重体です」という電話連絡が入ったのだ。奈津子とは、羽嶋が大学4年の終わりから卒業してしばらくの間、2ヵ月あまり一緒に暮らした女性である。羽嶋のアパートにおしかけて来て、一緒に暮らし、突然姿を消し、パリに行ってしまったのだ。25年近く経って、青天の霹靂のごとき電話。まさに羽嶋にとっては、イントゥルーダーだっt。それも異常な連絡での始まり。
慎司は「脳挫傷」により病院の集中治療室に入院していた。歌舞伎町から新宿5丁目に出たところで、悪質なひき逃げにあったという。その車は2日前に届出が出ている盗難車だった。慎司はひき逃げされたとき、酩酊状態だったという。
25年ぶりに再会した奈津子から羽嶋が知ったことは、奈津子が現在フランス料理の店を経営していること。慎司が羽嶋の卒業した大学の学部学科を卒業し、7年ほど前に設立されたコンピュータソフト会社・ユニックスに2年前から勤めていること。ソフト開発部副主任という肩書であること。卒業後は自立し、マンション暮らしをしていたことである。
重体の慎司という息子の存在を知った翌日、羽嶋は警視庁の刑事から、慎司の血液中から覚醒剤が検出されたということを告げられる。
羽嶋は、慎司がどういう人間だったのかを知るために、慎司のマンションを訪ね始める。そして、マンションを訪ねてきた宮園理英子を知る。一方で、ユニックスでの慎司の上司や慎司の大学時代のコンピュータ・クラブの仲間という人間関係を通じて、慎司という人間のイメージを形成していく。
慎司の部屋の留守番電話には12件のメッセージが残されていた。そこには、慎司の大学時代の仲間・小池雅恵の「まだ、海をみているの。帰ったら電話ください」というメッセージもあった。机の前の壁には真っ赤に染まった空と海のポラロイド写真がピンで止められている。羽嶋は「日本海に行って、日の出を見るんだって」と雅恵が言っていた言葉を思い出し、あることに気づくのだ。
羽嶋は慎司の考えを辿るために、日本海にドライブすることに着手する。そして、真実に1歩ずつ近づいて行く。
日本海へのドライブから戻った羽嶋は、改めて小池雅恵と会う。そして雅恵から慎司のパソコンのパスワードを教えられるのだ。慎司のパソコンから羽嶋は慎司が何を解明しようとしていたかの糸口を掴む。慎司はユニックスが受けた原子力発電所の仕事の絡みで、何かを偶然に見つけていた。原発建設に絡む重大なデータを読み出していたのだ。
脳挫傷という重体に陥り、覚醒剤使用者と疑われた慎司の汚名をそそぐために、羽嶋は己が開発してきたコンピュータを武器にして、原発建設に絡まったハイテク犯罪の渦中に身を投じていく。
原子力産業は、様々な次元・局面でコンピュータ・テクノロジーを駆使している。巨大な組織がコンピュータ・システムを利用しているのである。意図的にコンピュータ・ソフトが利用されればどうなるか・・・・。それが発覚しそうになったら、どのようなリアクションが起こりうるか・・・・・。そんなテーマを題材にして出来上がったミステリー作品。その展開プロセスは実にリアル感を生み出して行く。どんでんがえしの意外な展開がおもしろい。
最終ステージに及び、「イントゥルーダー」という語が様々な事象・行為の局面で該当し、その語が重層化して使われた集約としての一語であるということに気づく。
「でも、僕のウィルスは、ダメージを与えることは絶対にない。ただ、存在しているだけ。そういう点においては、僕と同じだ。父さんにとって、僕の存在は無だ。僕はただ自分の意識の中に存在しているだけ。父さんに見つからなくても、発表の日には消えるよ。」
この作品の最終局面に出てくる慎司のメッセージ・・・・・哀しいメッセージ。
もう一つ、この作品が投げかけるメッセージと私が受け止めたものを記しておきたい。
「人が生きていくために、心のよりどころとなるもの。それが優しさではないか。」
ご一読ありがとうございます。
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本作品と直接的関係は少ないが、ふと関心を抱いた事項について、いくつかネット検索してみた。一覧にしておきたい。
不正アクセス (illegal access) 不正侵入 / 侵入 / intrusion :「IT用語辞典」
ハッカー :ウィキペディア
Hacker (term) From Wikipedia, the free encyclopedia
ハッカー 【 hacker 】 :「IT用語辞典」
クラッカー 【 cracker 】:「IT用語辞典」」
スーパーコンピュータ :ウィキペディア
写真で見る世界のスーパーコンピュータートップ10 :「Gigazine」
スーパーコンピュータ「京」はとてつもなく速い :「FUITSU」
「イントゥルーダー」は1999年の作品。
この作品でスーパーコンピュータ(TE2000)は、最大演算性能は40テラ(兆)FLOPS
だと描かれている。それが現在ではこの記事の記載をすら越えるスーパーコンピュー タすら出現して来ている時代である。
原子力発電 :ウィキペディア
福島第一原発、その欠陥が指摘される :「swissinfo.ch」
原発元設計者が告白「原子炉構造に欠陥あり」 :「dot.」
断層 :ウィキペディア
活断層データベース 起震断層・活動セグメント検索[GoogleMaps版]
:「産業技術総合研究所」
市民のための耐震工学講座 4. 地盤について :「日本建築学会」
原発の不都合な真実 第9回 原発は安価か? 井田徹治氏 :「47NEWS」
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その点、ご寛恕ください。)
徒然に読んできた著者の作品の中で印象記を以下のものについて書いています。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『原発クライシス』 集英社文庫
『風をつかまえて』 NHK出版
『首都崩壊』 幻冬舎
また、数冊の原発関連フィクション作品と併せて
今までに以下の原発事故関連書籍について、読後印象を掲載しています。
読んでいただけると、うれしいです。
『ビデオは語る 福島原発 緊迫の3日間』 東京新聞原発取材班編 東京新聞
『原発利権を追う』 朝日新聞特別報道部 朝日新聞出版
原発事故及び被曝に関連した著作の読書印象記掲載一覧 (更新3版 : 48冊)
「初めて慎司の存在を知ったとき、うとましく思った。彼は、私の生活に突然入り込んできた、イントゥルーダーだった」
「イントゥルーダー?」
「侵入者。私たちは、コンピュータに入り込んできたものをそう呼んでいる。クラッカーやハッカーも含めて」
ゆっくりとしゃべった。自分の中で、慎司の存在を整理しておきたかったのだ。(p214)
このミステリーの中程に出てくる一節である。この作品のタイトルは直接的にはここに由来するようだ。
「私たち」と語る「私」とは、東証一部上場の東洋電子工業の副社長であり研究開発部長という肩書を持つ羽嶋浩司である。大学の研究室の先輩と大学卒業の半年前から始めたベンチャー企業を一部上場企業に発展させてきたのだ。そして東洋電子工業創立25周年記念事業の一環として、今はTE2000という世界最大、最高速の商用スーパーコンピュータの開発チームを主導している。マスコミ発表まで、デバッグに費やせるデッドラインはあと1週間という段階にある。横浜の新興住宅地、百坪の敷地のある家に住み、明美という娘のいる家庭を築いている。妻の裕子は、羽嶋たちのベンチャー企業が軌道に乗り始めた頃、会社にアルバイトに来ていた女子大生だった。
そこに突然、松永奈津子から「あなたの息子が重体です」という電話連絡が入ったのだ。奈津子とは、羽嶋が大学4年の終わりから卒業してしばらくの間、2ヵ月あまり一緒に暮らした女性である。羽嶋のアパートにおしかけて来て、一緒に暮らし、突然姿を消し、パリに行ってしまったのだ。25年近く経って、青天の霹靂のごとき電話。まさに羽嶋にとっては、イントゥルーダーだっt。それも異常な連絡での始まり。
慎司は「脳挫傷」により病院の集中治療室に入院していた。歌舞伎町から新宿5丁目に出たところで、悪質なひき逃げにあったという。その車は2日前に届出が出ている盗難車だった。慎司はひき逃げされたとき、酩酊状態だったという。
25年ぶりに再会した奈津子から羽嶋が知ったことは、奈津子が現在フランス料理の店を経営していること。慎司が羽嶋の卒業した大学の学部学科を卒業し、7年ほど前に設立されたコンピュータソフト会社・ユニックスに2年前から勤めていること。ソフト開発部副主任という肩書であること。卒業後は自立し、マンション暮らしをしていたことである。
重体の慎司という息子の存在を知った翌日、羽嶋は警視庁の刑事から、慎司の血液中から覚醒剤が検出されたということを告げられる。
羽嶋は、慎司がどういう人間だったのかを知るために、慎司のマンションを訪ね始める。そして、マンションを訪ねてきた宮園理英子を知る。一方で、ユニックスでの慎司の上司や慎司の大学時代のコンピュータ・クラブの仲間という人間関係を通じて、慎司という人間のイメージを形成していく。
慎司の部屋の留守番電話には12件のメッセージが残されていた。そこには、慎司の大学時代の仲間・小池雅恵の「まだ、海をみているの。帰ったら電話ください」というメッセージもあった。机の前の壁には真っ赤に染まった空と海のポラロイド写真がピンで止められている。羽嶋は「日本海に行って、日の出を見るんだって」と雅恵が言っていた言葉を思い出し、あることに気づくのだ。
羽嶋は慎司の考えを辿るために、日本海にドライブすることに着手する。そして、真実に1歩ずつ近づいて行く。
日本海へのドライブから戻った羽嶋は、改めて小池雅恵と会う。そして雅恵から慎司のパソコンのパスワードを教えられるのだ。慎司のパソコンから羽嶋は慎司が何を解明しようとしていたかの糸口を掴む。慎司はユニックスが受けた原子力発電所の仕事の絡みで、何かを偶然に見つけていた。原発建設に絡む重大なデータを読み出していたのだ。
脳挫傷という重体に陥り、覚醒剤使用者と疑われた慎司の汚名をそそぐために、羽嶋は己が開発してきたコンピュータを武器にして、原発建設に絡まったハイテク犯罪の渦中に身を投じていく。
原子力産業は、様々な次元・局面でコンピュータ・テクノロジーを駆使している。巨大な組織がコンピュータ・システムを利用しているのである。意図的にコンピュータ・ソフトが利用されればどうなるか・・・・。それが発覚しそうになったら、どのようなリアクションが起こりうるか・・・・・。そんなテーマを題材にして出来上がったミステリー作品。その展開プロセスは実にリアル感を生み出して行く。どんでんがえしの意外な展開がおもしろい。
最終ステージに及び、「イントゥルーダー」という語が様々な事象・行為の局面で該当し、その語が重層化して使われた集約としての一語であるということに気づく。
「でも、僕のウィルスは、ダメージを与えることは絶対にない。ただ、存在しているだけ。そういう点においては、僕と同じだ。父さんにとって、僕の存在は無だ。僕はただ自分の意識の中に存在しているだけ。父さんに見つからなくても、発表の日には消えるよ。」
この作品の最終局面に出てくる慎司のメッセージ・・・・・哀しいメッセージ。
もう一つ、この作品が投げかけるメッセージと私が受け止めたものを記しておきたい。
「人が生きていくために、心のよりどころとなるもの。それが優しさではないか。」
ご一読ありがとうございます。
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本作品と直接的関係は少ないが、ふと関心を抱いた事項について、いくつかネット検索してみた。一覧にしておきたい。
不正アクセス (illegal access) 不正侵入 / 侵入 / intrusion :「IT用語辞典」
ハッカー :ウィキペディア
Hacker (term) From Wikipedia, the free encyclopedia
ハッカー 【 hacker 】 :「IT用語辞典」
クラッカー 【 cracker 】:「IT用語辞典」」
スーパーコンピュータ :ウィキペディア
写真で見る世界のスーパーコンピュータートップ10 :「Gigazine」
スーパーコンピュータ「京」はとてつもなく速い :「FUITSU」
「イントゥルーダー」は1999年の作品。
この作品でスーパーコンピュータ(TE2000)は、最大演算性能は40テラ(兆)FLOPS
だと描かれている。それが現在ではこの記事の記載をすら越えるスーパーコンピュー タすら出現して来ている時代である。
原子力発電 :ウィキペディア
福島第一原発、その欠陥が指摘される :「swissinfo.ch」
原発元設計者が告白「原子炉構造に欠陥あり」 :「dot.」
断層 :ウィキペディア
活断層データベース 起震断層・活動セグメント検索[GoogleMaps版]
:「産業技術総合研究所」
市民のための耐震工学講座 4. 地盤について :「日本建築学会」
原発の不都合な真実 第9回 原発は安価か? 井田徹治氏 :「47NEWS」
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徒然に読んできた著者の作品の中で印象記を以下のものについて書いています。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『原発クライシス』 集英社文庫
『風をつかまえて』 NHK出版
『首都崩壊』 幻冬舎
また、数冊の原発関連フィクション作品と併せて
今までに以下の原発事故関連書籍について、読後印象を掲載しています。
読んでいただけると、うれしいです。
『ビデオは語る 福島原発 緊迫の3日間』 東京新聞原発取材班編 東京新聞
『原発利権を追う』 朝日新聞特別報道部 朝日新聞出版
原発事故及び被曝に関連した著作の読書印象記掲載一覧 (更新3版 : 48冊)