遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『イラスト図解 お城の見方・歩き方』 小和田哲男[監修]  PHP

2015-02-26 09:52:28 | レビュー
 表紙の記された出版側のフレーズをまず列挙してみよう。
 「知っておけば10倍楽しめる!」
 「鑑賞のツボから歴史、秘話まで、ぎっしりつまった『お城』入門の決定版!」
 「戦国武将の知恵と工夫が手にとるようにわかる!」
 「天守、石垣、門などの見所を徹底網羅」
 「初級・中級・上級別に簡潔に、要点を押さえて解説!」
という具合である。
 せっかくだから、読後印象を、このキャッチフレーズを検証する(とは大げさだが・・・・)形でまとめてみよう。

<知っておけば10倍楽しめる!>
 何倍楽しめるかは、かなり主観の入る問題であり、測定のモノサシがないから、知らない状態でお城を探訪するよりもかなり知的関心が高まって、かなり城に対する関心の持ち方が変化し、面白みが大変増えるのはまちがいない。「10倍」というのが、大いにという意味の定番的セールス表現ととらえたら、「楽しめる」本としてはお薦めできる。
 たとえば、「山城・平山城・平城」がイラストで描かれているので、本文を読まなくてもその違いが感覚的にまず理解できる。対応する典型的事例の写真掲載があるので具体的にイメージしやすい。「縄張り」「天守の独立式・連立式・複合式」「石垣の野面積(のづらづみ)・打込接(うちこみはぎ)・切込接(きりこみはぎ)」などという城に関わる基礎的用語が一通りまずイラスト図解で説明がされている。このあたり、お城を漫然と眺めるだけでは「楽しみ」以前の問題だと気づかせてくれるだろう。「違い」を見つける楽しみの導入となる。

<天守、石垣、門などの見所を徹底網羅>
 見所を知るには、まず最低限の基礎知識が要る。石垣で言えば、上記「石垣の種類」のほかに、「布積・乱積」という積み方の区別、石垣の上部の「反り」のもつ意味、また土塁と石垣、派生的に堀・武者走り・切岸という用語などもイラストと説明の併用はわかりやすい。視覚的にも見所がわかる。石垣の構造は実際の石垣を見て、見えるところと見えないところがある。だが、石垣の見所を表現するには、見えるところで言えば、「根石・積み石・間石(あいいし)・天端石(てんばいし)(p22)という構造上の用語を知っていると便利である。さらに、「石垣刻印、転用石」(p46-47)という上級レベルの識別眼への見所がわかると、楽しみが増すというもの。一方で、見えない部分の「松の胴木・松の杭、飼石(かいいし)、裏込(うらごめ)(p22)という構造上のしくみを理解していれば、石垣積みを現地で想像するのにリアル感が増すのではないだろうか。言葉だけ列挙すると分かりづらいだろうが、それが図解されているから、一目瞭然である。
 戦うための城、野面積の石垣から始まり、権威を見せる為の城、切込接でそれも亀甲積という美しさを際立たせる方向への進展が何となく理解できていく。このあたり、基礎用語を知り、<鑑賞のツボ>を少しずつ理解できるようになる。その理解は、山城から平山城・平城への変化による、土塁から石垣への変化、石垣積みの技術の進化との関係など、土塁・石垣の<歴史>を理解することが並行していく。

 「天守は武士そのもの」(p32)、「天守を建てなかった本当の理由」(p124)という天守についての「秘話」、「秀吉と黄金の城の真実」(p151)という秘話がコラムとして書かれている。どこかの城・天守閣に上って、そこでネタ話にちょこっと引き出すのも話材としておもしろいかもしれない。

<初級・中級・上級別に簡潔に、要点を押さえて解説!>
 第1章が「お城の基礎知識」としての説明であり、感想を上記した。第2章がこのキャッチフレーズが実践されている。「実践 お城の見方・歩き方」のガイドとなっている。「お城の鑑賞ポイント」、お城探訪のための「必須アイテム」、山城と平城それぞれの「見方・歩き方」指南、「意外なスポット」の見方などが、3段階にレベルわけして、それぞれ見開きの2ページでイラスト入り、具体事例付きでまとめられていてわかりやすい。
 自分がお城ファンとしてどの側面がどのレベルかを知るモノサシになるだろう。
 各レベル、各項目について、3つのポイントを押さえている。これは参考になる。
 中級・上級という形で、これができればまあこのレベルという区別と、そのポイントが記されているが、それはあくまで着目ポイントの提示である。それを具体的にできるようにするためには、という詳細の説明は勿論、本書の対象外。レベル区分で、お城の見方・歩き方についてはぎっしりと大枠を押さえ込んでいるが、<「お城」入門>である。これが<決定版!>かどうかのご判断は、どの観点で評価するかにもよるだろう。まず本書を開いて見て、ご判断いただくと良いのではないだろうか。

<戦国武将の知恵と工夫が手にとるようにわかる!>
 第3章「名将と名城への招待」がこのキャッチフレーズに直接関係しているところといえそうだ。本書に取り上げられた城の名前を列挙しておこう。それがどの戦国武将にあたるかをまず言い当ててみて欲しい。お城についてのあなたの関心レベルがすぐわかるはず。
 岐阜城、安土城、大坂城、名護屋城、岡崎城、江戸城、春日山城、躑躅ヶ崎館、小田原城、熊本城、広島城、仙台城、姫路城。現存する城、再建された城、廃城・城跡だけ、とさまざまである。しかし、中世・近世を通じた有名な城ばかり。簡潔な解説文とともに、最小限の「お城のデータ」とお城の風景・部分写真、そして「見どころ」(イラスト図)が見開き2ページでまとめられている。見どころに取り上げられたベースはやはり縄張り図である。それがケースにより立体図になっている。やはり、城の立地条件と縄張りが戦国武将の知恵の見せ所だったのだろう。そして、その築城に武将がどんな工夫を加えたか? それが城を鑑賞するおもしろさなのだろう。どこにウエイトが置かれた城なのか?
一つの城が、結果的に幾人かの武将にバトンタッチされていった歴史も見えて、興味深い。城主が代わり、城にどういう改造が加えられたか、そこにも武将の考えや戦略が反映されている。

 第4章は「お城の歴史ダイジェスト」。「城」の概念を拡大しマクロでみて「集落に濠や土塁を巡らすこと」から城の歴史が始まったと本書では説く。つまり、弥生時代から城の歴史をダイジェストしている。お城について、ざ~っと巨視的理解をしておくのも、お城の見方・歩き方のバックグラウンドとして基礎的知識なのだ。わずか14ページのダイジェストだが、逆に一気に読めて、全体像がとらえられるのが利点である。あくまで「お城入門」なのだから・・・・・。「天下普請で新築・修築された城の配置図」(p163)、「昭和20年の空襲で焼失・倒壊した城」(p167)の地図は、有益である。


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本書に掲載の用語などをキーワードに、ネット検索で得られる情報を検索してみた。
その一部、かなり充実した内容のサイトを一覧にしておきたい。

穴太衆石積みの歴史と技法  福原成雄氏
石積み基礎知識  :「宮下建設工業株式会社」
  石積みの種類も別ページとしてあります。
石積み文化の歴史 第4章石垣にせまる  :「まつみ Internet」
曲輪  :ウィキペディア
城の縄張り図の作成  :「城の科学」(「西村和夫 オズからムシに」)
城の見方ガイド(2) 山城・平山城・平城とは?  :「日本の城」
天守の一覧  :ウィキペディア
城の見方ガイド(3) 天守にも色々な縄張りがある :「日本の城」
現存天守閣のある12城  :「旅のホームページ」
城の見方ガイド(11) 様々な門を分類する  :「日本の城」

日本100名城 :ウィキペディア
日本の城  :「歴史研究所」
仙台城跡  :「仙台市」
春日山城  :「北陸地方の城」
神君出世の城 岡崎城  :「日本の城訪問記」
岐阜城   :「岐阜市」
  岐阜城のパンフレットのダウンロードができます。
彦根城のご案内 :「彦根観光協会」
姫路城 公式ホームページ
熊本城 公式ホームページ


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