青山望シリーズ第2弾である。
マンションから出て、タバコをふかしながら公園を横切り、ゆりかもめの汐留駅に向かっていた男が、「社長さん」と呼びかけられる。呼びかけた男は社長と呼ばれた男には顔見知りの広域暴力団の幹部だった。その広域暴力団幹部は言う。「あんたが払わないというのなら、こっちは理事長さんに直接交渉するだけのことだな。」「もうあんたの役目は終わったんだよ」と。そして、社長と呼ばれた男は拉致され、ある場所で日本刀で右腕を切断されてしまう。プロローグはそんな特異な場面から始まる。
このストーリー、冒頭は東京都内にある医療法人社団弘潤会の理事長・中村弘一が参議院議員選挙に出馬するという話である。医師連盟は中村を擁立する意向を示す。一方日本公正党最高顧問の大澤純一郎が出馬要請の電話を中村にかけてくる。中村は出馬を決断するのだが、医師会は候補者の統一ができない分裂選挙の状態になる。中村の選挙事務所はその地域では大御所的存在の古沢幸次郎が選挙対策の総括責任者になる。古沢以下選対に入った市議は当然の如く活動資金としての裏金を要求する。また、党本部がよこした選挙対策で有名な木村義孝は、金指事務長に3000万円出してくれれば当選させてみせると平気で金を要求する。選挙が始まると、金を要求した選対の連中の動きは鈍い。中村危うしという噂も流れる。そんな最中に、選挙コンサルタントの大場芳市と名乗る男が、金指事務長の前に現れる。「当選請負人」として知られた男だった。当落線上の候補者を何とか当選させようとするチームだと言い、2週間の予算は2500万円だと言う。彼は医療法人という特殊性をうまく利用した秘策を金指に語るのだ。金指は大場の具体策を聴き、選挙コンサルタントとしての能力を信頼し始める。だが、それが大きな深みに足を入れていく始まりとなる。
大場は選挙だけではなく、医療法人とのパイプを作るという狙いを秘めていたのだ。弘潤会は高齢者に対する医療と介護サービスの提供に大きく比重を置き、数多くの医療事業施設を都内で運営する個人病院である。大場の狙いは、有料老人ホーム入居者の「一時金の保全措置」の処理を請け負うことと、医療法人が病院内にもつ精神科の入院施設にあった。金指は理事長を議員に当選させることを夢とし、その実現のためには大場の巧みな要求に応じざるを得ない状況に追い込まれていく。
大場は当選請負人として実績を持っていたのだが、そこには関東圏で最大の勢力を誇る暴力団との繋がりがあった。その大場はある失敗から消されかけたのだが、岡広組傘下佐藤会の佐藤に助けられていた。その佐藤会を背景に、大場は弘潤会理事長の中村との関係を深め、その医療法人にくい込んでいく。経営手腕のある中村は、中国での医療法人の事業展開も進めていた。
参議院選挙に出馬した中村は最終的には、次点という立場で落選した。誰か一人がこければ、繰り上げ当選という微妙な立場だった。一方で、選挙違反行為での捜査対象に陥る可能性も勿論ある。
このストーリーの出だしが興味深いのは、選挙の裏話がかなり具体的に描かれて行く部分である。そういうことがあるかも・・・・というリアル感に溢れている。
ストーリーは思わぬ方向に展開していく。
立川市の立川通りでひき逃げ事故が発生する。目撃者が名前を名乗らずに警視庁通信司令本部に110番通報をしてきた。赤信号で横断歩道を横断していた歩行者を立川駅方向からきた黒いワンボックス車がはねて、そのまま逃げたという。被害者は所持品から、立川市議の古沢幸次郎77歳と判明した。中村選挙事務所の総括責任者を引き受けた人物である。現場検証と加害者を特定できる映像記録が入手されたことで、ひき逃げ事件の裏のカラクリが明らかになっていく。関与した暴力団が特定され、事件の繋がりが明らかになっていく。
一方、京都では通称鹿ヶ谷通で元厚生大臣木下武66歳がひき逃げ事故に遭遇し死亡した。木下はこの参議院選挙で最後の最後に当選していた。旧財閥出身の「お公家さん」と呼ばれる風貌だったが、周辺には汚れた金の噂が常につきまとう議員でもあった。この木下武の死が、中村弘一を繰り上げ当選させる結果となる。
京都のひき逃げ事件は、京都府警の本部長の判断で交通捜査で止まってしまっていた。
多摩川河川敷きで男性の右腕が発見された。ボートに乗っていたカップルが黒いビニール袋を見つけて開いたら、右腕だった。バラバラ殺人事件が発生した。
選挙後に金指事務長が行方不明となっていた。中村理事長は家出人捜索願いを立川北警察署に提出していた。捜査の進展によりバラバラ殺人の被害者が金指と判明する。
右腕の切断面の状態と凶器が日本刀ということが判明した。この右腕の切断状態を観察した青山は学生時代に剣道部で活躍した体験を踏まえて感想を語った。その感想が一つのヒントとなり、事件関与者が絞り込まれていく。
だが、金指と古沢の死は、中村弘一の選挙違反容疑における金の流れの究明を困難にしていく。
捜査第二課事件指導係長の龍は、参議院選挙での選挙違反問題を扱っている。そして、3人の医者が当落のボーダーラインにいることと、日本求道教団が全面的に支援する広津元彦に注目していた。
公安総務課第七事件担当筆頭係長の青山は、福岡で発生した現職財務大臣殺人事件の背後捜査を続けていた。青山は日本求道教団の関連で広津も視野に入れていた。
捜査一課事件指導第二係長の藤中は、都内で連続して発生する強行犯事件の取りまとめに多忙であったが、バラバラ殺人事件に関わっていく。その手口から犯人がマルBの可能性を視野に入れていくことになる。
組対四課事件指導第一係長の大和田は、立川市での古沢幸次郎のひき逃げ殺人事件の加害者が暴力団に絡むということで、この事件に関わって行く。古沢は四谷教団の霊園問題で岡広組との間に入ったという裏話を持つ市議でもあった。
このストーリーの面白さは、一見個別に発生した事件にみえるものが、それぞれの捜査が進展すると、裏側で複雑に入り組みつつ相互に繋がっているという構図が解き明かされることにある。それが解明できるのは、警視庁の各領域の係長である青山・大和田・藤中・龍のカルテットの間で横の連携力を発揮することができたからだ。
そして、この横に連携で公安総務課の青山が個別に発生したかに見える事件をリンクさせることに繋がる情報を提供し、連携を深めていくキーパーソンになっていく。
個別の事件のリンクが見え始めると潜んでいた関連事象が現出し、政界汚染の実態がスケールアップしていくという展開は、読者を惹きつけると思う。
ご一読ありがあとうございます。
こちらの本も読後印象を書いています。お読みいただけるとうれしいです。
『一網打尽 警視庁公安部・青山望』 文春文庫
『警視庁公安部・青山望 機密漏洩』 文春文庫
『完全黙秘 警視庁公安部・青山望』 文春文庫
マンションから出て、タバコをふかしながら公園を横切り、ゆりかもめの汐留駅に向かっていた男が、「社長さん」と呼びかけられる。呼びかけた男は社長と呼ばれた男には顔見知りの広域暴力団の幹部だった。その広域暴力団幹部は言う。「あんたが払わないというのなら、こっちは理事長さんに直接交渉するだけのことだな。」「もうあんたの役目は終わったんだよ」と。そして、社長と呼ばれた男は拉致され、ある場所で日本刀で右腕を切断されてしまう。プロローグはそんな特異な場面から始まる。
このストーリー、冒頭は東京都内にある医療法人社団弘潤会の理事長・中村弘一が参議院議員選挙に出馬するという話である。医師連盟は中村を擁立する意向を示す。一方日本公正党最高顧問の大澤純一郎が出馬要請の電話を中村にかけてくる。中村は出馬を決断するのだが、医師会は候補者の統一ができない分裂選挙の状態になる。中村の選挙事務所はその地域では大御所的存在の古沢幸次郎が選挙対策の総括責任者になる。古沢以下選対に入った市議は当然の如く活動資金としての裏金を要求する。また、党本部がよこした選挙対策で有名な木村義孝は、金指事務長に3000万円出してくれれば当選させてみせると平気で金を要求する。選挙が始まると、金を要求した選対の連中の動きは鈍い。中村危うしという噂も流れる。そんな最中に、選挙コンサルタントの大場芳市と名乗る男が、金指事務長の前に現れる。「当選請負人」として知られた男だった。当落線上の候補者を何とか当選させようとするチームだと言い、2週間の予算は2500万円だと言う。彼は医療法人という特殊性をうまく利用した秘策を金指に語るのだ。金指は大場の具体策を聴き、選挙コンサルタントとしての能力を信頼し始める。だが、それが大きな深みに足を入れていく始まりとなる。
大場は選挙だけではなく、医療法人とのパイプを作るという狙いを秘めていたのだ。弘潤会は高齢者に対する医療と介護サービスの提供に大きく比重を置き、数多くの医療事業施設を都内で運営する個人病院である。大場の狙いは、有料老人ホーム入居者の「一時金の保全措置」の処理を請け負うことと、医療法人が病院内にもつ精神科の入院施設にあった。金指は理事長を議員に当選させることを夢とし、その実現のためには大場の巧みな要求に応じざるを得ない状況に追い込まれていく。
大場は当選請負人として実績を持っていたのだが、そこには関東圏で最大の勢力を誇る暴力団との繋がりがあった。その大場はある失敗から消されかけたのだが、岡広組傘下佐藤会の佐藤に助けられていた。その佐藤会を背景に、大場は弘潤会理事長の中村との関係を深め、その医療法人にくい込んでいく。経営手腕のある中村は、中国での医療法人の事業展開も進めていた。
参議院選挙に出馬した中村は最終的には、次点という立場で落選した。誰か一人がこければ、繰り上げ当選という微妙な立場だった。一方で、選挙違反行為での捜査対象に陥る可能性も勿論ある。
このストーリーの出だしが興味深いのは、選挙の裏話がかなり具体的に描かれて行く部分である。そういうことがあるかも・・・・というリアル感に溢れている。
ストーリーは思わぬ方向に展開していく。
立川市の立川通りでひき逃げ事故が発生する。目撃者が名前を名乗らずに警視庁通信司令本部に110番通報をしてきた。赤信号で横断歩道を横断していた歩行者を立川駅方向からきた黒いワンボックス車がはねて、そのまま逃げたという。被害者は所持品から、立川市議の古沢幸次郎77歳と判明した。中村選挙事務所の総括責任者を引き受けた人物である。現場検証と加害者を特定できる映像記録が入手されたことで、ひき逃げ事件の裏のカラクリが明らかになっていく。関与した暴力団が特定され、事件の繋がりが明らかになっていく。
一方、京都では通称鹿ヶ谷通で元厚生大臣木下武66歳がひき逃げ事故に遭遇し死亡した。木下はこの参議院選挙で最後の最後に当選していた。旧財閥出身の「お公家さん」と呼ばれる風貌だったが、周辺には汚れた金の噂が常につきまとう議員でもあった。この木下武の死が、中村弘一を繰り上げ当選させる結果となる。
京都のひき逃げ事件は、京都府警の本部長の判断で交通捜査で止まってしまっていた。
多摩川河川敷きで男性の右腕が発見された。ボートに乗っていたカップルが黒いビニール袋を見つけて開いたら、右腕だった。バラバラ殺人事件が発生した。
選挙後に金指事務長が行方不明となっていた。中村理事長は家出人捜索願いを立川北警察署に提出していた。捜査の進展によりバラバラ殺人の被害者が金指と判明する。
右腕の切断面の状態と凶器が日本刀ということが判明した。この右腕の切断状態を観察した青山は学生時代に剣道部で活躍した体験を踏まえて感想を語った。その感想が一つのヒントとなり、事件関与者が絞り込まれていく。
だが、金指と古沢の死は、中村弘一の選挙違反容疑における金の流れの究明を困難にしていく。
捜査第二課事件指導係長の龍は、参議院選挙での選挙違反問題を扱っている。そして、3人の医者が当落のボーダーラインにいることと、日本求道教団が全面的に支援する広津元彦に注目していた。
公安総務課第七事件担当筆頭係長の青山は、福岡で発生した現職財務大臣殺人事件の背後捜査を続けていた。青山は日本求道教団の関連で広津も視野に入れていた。
捜査一課事件指導第二係長の藤中は、都内で連続して発生する強行犯事件の取りまとめに多忙であったが、バラバラ殺人事件に関わっていく。その手口から犯人がマルBの可能性を視野に入れていくことになる。
組対四課事件指導第一係長の大和田は、立川市での古沢幸次郎のひき逃げ殺人事件の加害者が暴力団に絡むということで、この事件に関わって行く。古沢は四谷教団の霊園問題で岡広組との間に入ったという裏話を持つ市議でもあった。
このストーリーの面白さは、一見個別に発生した事件にみえるものが、それぞれの捜査が進展すると、裏側で複雑に入り組みつつ相互に繋がっているという構図が解き明かされることにある。それが解明できるのは、警視庁の各領域の係長である青山・大和田・藤中・龍のカルテットの間で横の連携力を発揮することができたからだ。
そして、この横に連携で公安総務課の青山が個別に発生したかに見える事件をリンクさせることに繋がる情報を提供し、連携を深めていくキーパーソンになっていく。
個別の事件のリンクが見え始めると潜んでいた関連事象が現出し、政界汚染の実態がスケールアップしていくという展開は、読者を惹きつけると思う。
ご一読ありがあとうございます。
こちらの本も読後印象を書いています。お読みいただけるとうれしいです。
『一網打尽 警視庁公安部・青山望』 文春文庫
『警視庁公安部・青山望 機密漏洩』 文春文庫
『完全黙秘 警視庁公安部・青山望』 文春文庫