遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『ブラタモリ 18 秩父 長瀞 大宮 室蘭 洞爺湖 宮崎』 角川書店

2021-06-28 23:02:34 | レビュー
 このシリーズ第18巻に掲載の箇所は未訪。いくつかは当日に番組放送を視聴した記憶がある。やはり番組を見ているものは、そのときの記憶を思いだしたりしながら活字とビジュアルな資料で確認しつつ、復習として読み進める楽しさがある。また、前回の第17巻の冒頭でふれたことだが、放送を視聴していても細部については内容を覚えていなかったり、見過ごしたりしているなという思いが本書でも強かった。そういう意味では、ここでも「温故知新」という孔子の言は真理の一端を的確に述べていると感じる。復習することで再度知識を整理し直したり、理解を深めることができる。また、新たにきづくこともある。

 「秩父」は2017年7月15日放送、「長瀞」は2017年8月19日放送、「大宮」は2017年7月1日放送、「室蘭」は2017年11月25日放送、「洞爺湖」は2017年11月4日放送、「宮崎」は2018年3月24日放送である。
 本書の監修はNHK「ブラタモリ」制作班で、2019年3月に出版された。

 本書の基本構成コンセプトは繰り返しになるがまずご紹介しておこう。
  *ブラタモリの番組放映のテーマについて、番組の流れに沿って論点を説明。
  *番組では語り尽くせなかった部分の補足説明(番組出演した研究者等のVOICE)
  *番組で採り上げた地域の観光スポットのガイド
  *同行アナウンサーの番組裏話 本書は近江有里恵さんのトーク
である。

 例によって、本書から私が学んだ要点を覚書としてまとめてみたい。それが本書を開いてみようという誘いになれば幸いである。

<秩父> テーマ「秩父はず~っと日本を盛り上げた!?」
*秩父は埼玉県の西部に位置し、中心部は四方を山に囲まれた盆地(南北12km、東西14km)
*秩父の武甲山(標高1304m)は石灰岩の山。日本有数のセメント産地。大正時代採堀開始
 高度経済成長期、日本のインフラを支え都市の発展を盛り上げた。高速道路やビル建設
 ⇒武甲山は2億年以上前の海底火山がプレート移動でここに。石灰岩と玄武岩の二重構造
*秩父盆地の地形は、南側と東側の断層の山塊が隆起と同時に崖崩れを発生させた。
 砕けたチャートが海底の土砂を巻き込み、さらに海の堆積物が積もる。隆起し陸地に
 ⇒事例1:若御子神社背後。崖崩れでできた若御子断層洞内で見られる「断層鏡肌」
      自然にできた空洞が、断層面、岩盤のずれの痕跡をそのまま見える形で残す
事例2:龍石寺(秩父観音霊場第19番札所)は巨大な岩盤上に建つ。岩塊はチャート
      秩父盆地の東の断層面から3kmほどの地点。断層の隆起により生まれた地形
*独特の地形が秩父三十四ヶ所観音霊場の信仰とリンク。江戸期に巡礼観光を盛り上げた
 ⇒特異な地形に建つ札所の事例:龍石寺、橋立堂、観音院、法性寺、金昌寺奥の院
   大渕寺の護国観音、円融寺の奥の院、懸造りの岩井堂、久昌寺の観音堂
*秩父の町は河原が隆起した結果。石ころだらけの河岸段丘面で江戸時代に桑を栽培
 絹織物を作る。その技術が進化発展し、大正時代から「秩父銘仙」のブームを起こす

<長瀞> テーマ「なぜ長瀞は人をひきつけるのか?:
*長瀞は地球の窓とも言われ日本地質学発祥の地。「埼玉県立自然の博物館」前に石碑
*埼玉県西部の長瀞では珍しい岩が荒川沿いに続く。岩畳は国指定名勝・天然記念物
 「小滝の瀬」 岩畳の端に近い場所で流れが岩を削り、石が流れの力で岩を傾けた
 「秩父赤壁」 高さ20m、約500m続く。断層が走っている名残。長瀞の地名の由来地
      ”瀞”は波が立たず、流れが穏やかで、水深の深い場所を意味する。
 「岩畳」 水面から高さ5m、幅約80m、長さ約500m。ここにユキヤナギや木々が育つ。
      片岩で、片理(平らな面、側面は薄い層)と縦横の節理(階段状の段差)
*長瀞の天然氷のかき氷が有名。専門店「阿左美冷蔵」
 明治時代創業のきっかけは地場産業(絹織物)で、蚕の卵の孵化時期調整に利用の為
*秩父鉄道・長瀞駅の目的は秩父の絹織物や石灰石の運搬。それが長瀞観光の原動力に
 ⇒大正12(1923)に川下りの経営を開始
*川沿いの結晶片岩(節理ができる)や親鼻橋先の蛇紋岩(水分を含むとくずれやすい)が鉄道ルートに影響した。直線の鉄道敷設が不可能に⇒荒川橋梁の景観が生まれた
*鉄道会社が大正10(1921)年に「秩父鉱物植物標本陳列所」を開設。上記博物館の前身
*長瀞の結晶片岩は日本列島のダイナミックな地殻変動により生成され、それを記録した石
緑泥石片岩、緑簾石片岩、紅簾石片岩、石墨片岩、スティルプノメレン片岩、絹雲母片岩

<大宮> テーマ「大宮はなぜ『鉄道の町』になったのか?
*「大宮」の地名は武蔵一宮氷川神社、つまり「大いなる宮居(神社)」に由来する。
*氷川神社の神池は湧水池。神社は大宮台地(南北約40km)の台地のヘリに位置する。
*大宮は中山道の宿場町として栄えたが脇本陣が多く参勤交代の武士の町。明治に衰退
 ⇒当初の鉄道敷設において大宮には駅が設置されず、商人で栄えた町が優先された。
 ⇒大宮の人は大宮公園という観光地開発プロジェクトを実行。東京からの観光対象地
  明治18(1885)年、大宮駅が完成。明治の文豪はほとんどが来園。元は氷川神社の杜
*JR高崎線と宇都宮線の分岐点に「大宮」が選ばれたことで「鉄道の町」として発展
 ⇒熊谷と比べ大宮は宇都宮への鉄橋数と建設費用が少なくてすむことが決め手に
*JR東日本大宮総合車両センター(鉄道整備工場)の設置が「鉄道の町」を不動に
 ⇒現在の大宮駅と整備工場は直結。広大な鉄道用地の存在が新幹線の大宮経由の理由に

<室蘭> テーマ「工業都市・室蘭を生んだ奇跡とは!?」
*地球岬からの展望でわかること:天然の良港
 ⇒内浦湾(噴火湾)と絵鞆半島に守られた湾との2重の湾があり、半島が断崖絶壁
  断崖絶壁は「銀屏風」と呼ばれ、凝灰岩。断崖絶壁は火山の断面で硬い岩脈が露出
  銀屏風の先に水冷破砕岩の黒い岸壁がある。水中での火山の噴火を証拠づける
*絵鞆半島の東の付け根にイタンキ浜(約1.7km)が広がる。”鳴き砂”で有名な海岸
 沿岸の潮の流れ(内浦湾内と太平洋側の2つの流れ)と風がここに砂浜海岸を形成
 イタンキ浜の砂は、水中火山が削られた砂で大量の砂鉄を含む。⇒製鉄の原料
*室蘭の地名はアイヌ語の「モ・ルエラニ」(小さな坂を下ったところ」に由来する。
 北海道の大部分は幕府直轄地。室蘭に会所がおかれ、ここを中心に町が広がっていた
 行政機関である会所に至る坂道は交通の要衝(函館方面と日高方面につながる道)
 波のゆるやかな湾内に、遠浅の砂浜があり、交易のための海運にも適した場所だった
 絵鞆半島には大型船をとめられる水深の場所も存在。明治5(1872)年、港が完成
*明治末期に製鋼所を創業:室蘭初の大規模工場、大型部品生産(当初は大砲、砲身)
 ⇒日本初の砂鉄による製鋼所。明治42(199)年開業。日本製鋼所の前身。
 鉄の原料となる砂鉄が容易に入手できた。室蘭は石炭の積出港でかつ良港だった。

<洞爺湖> テーマ「なぜ”世界の洞爺湖”になった?」
*洞爺湖はその貴重な地質、地形から日本初のユネスコ世界ジオパークに認定された。
 中心にに中島(島4つ)、周囲43kmのドーナツ形カルデラ湖。東京ドーム1500個分の規模
 湖畔に有珠山や昭和新山という活火山がそびえる。
*約11万年前に大規模な火砕流を発生させる大噴火で「洞爺カルデラ」を形成
 約5万年前に、雨水がたまり洞爺湖が誕生。その後に湖の真ん中で噴火を繰り返した
 中島を形成する大島、観音島、弁天島、饅頭島が繰り返す噴火で次々にできた。
 島には、「洞爺湖森林博物館」が設置されている。
*湖の中央部には、山頂部が浅瀬に見える火山の奇跡的な景色を見ることもできる。
 ⇒いわば「裸の状態」、できたままの火山が残っている。
*明治43(1910)年の有珠山の噴火で偶然に生まれたのが洞爺湖温泉
 その後も有珠山は約30年おきに噴火を繰り返す。1944年、1977年、2000年。
 ⇒昭和新山は昭和20(1945)年9月に完成した。麦畑だった場所が盛り上がってできた
*昭和新山は私有地にある。山肌が赤いのは平地の粘土質が押し上げられマグマの熱で焼かれて、天然レンガ状になった結果。山肌の黒い部分は溶岩がそのまま固まったもの。
 三松正夫氏が昭和新山の成長を丹念に観察し記録した⇒ミマツダイヤグラム
 昭和新山の教訓:2000年の有珠山噴火では前兆地震をとらえ、事前に全員避難に成功
*2000年噴火で特に大きな被害現場は、「西山山麓火口散策路」として保存されている
 ⇒噴火当時の痕跡がほぼ完全な状態で残され整備されている(≒地殻変動の標本)

<宮崎> テーマ「なぜ宮崎は”南国リゾート”になった?」
*南国宮崎の原点は、波状岩に囲まれた周囲およそ1.5kmの青島。「鬼の洗濯岩(/板)」 
鬼の洗濯岩は砂岩と泥岩が重なってできている。陸側の隆起で地層が海水面に斜めに姿を現し、波による浸食を受け、水平に削られたのち、岩の硬さの違いで砂岩が波板状に。
*青島全体が青島神社の境内。元宮への御成道にはビロウが繁茂。真っ白な砂浜。
*南国イメージは日南海岸に意図的に作られた⇒岩切章太郎(宮崎観光の父)の観光戦略
 ⇒堀切峠が南国イメージを広げるきっかけとなった場所。
  昭和11(1936)年に堀切峠にフェニックス(ヤシの木の種類)を岩切章太郎が植樹
  日南海岸に点在する観光地をつなぐ見どころを海岸線につくる。不規則な間隔で植樹
    これは観光バスガイドが風景の案内をする大きなポイントになった。
    岩切は広重の『東海道五十三次』から着想。並木越しの構図。共通点は「額縁」    宮崎の海に、フェニックスを額縁にすることで、海岸に南国の印象をプラス
 ⇒昭和40年代、宮崎は空前の新婚旅行ブームに。観光バスが新婚旅行客を目的地に。
*鵜戸神宮の「下り宮」(洞窟内に本殿が鎮座)は珍しい。厚い砂岩と泥岩の地層の洞窟
 本殿裏の「お乳岩」が新婚夫妻の信仰の拠り所になった。岩の先から滴る「お乳水」
 ⇒その正体は天井の砂岩層に埋まった無数のコンクリ-ションの石灰成分が雨水に溶出
  コンクリ-ションとは石灰成分により固まった丸い岩の塊。別名ノジュールとも
*青島の北5kmの木崎浜はサーフィン天国。遠浅の海で海底にサンドバーの地形が多い
 ⇒沖から押しよせた波がサンドバーの地形にぶつかり、弧を描く多彩な大きな波を生む
 各テーマから語られた内容を、私の理解でまとめると大凡こうなる。
 読みやすい語り口で、様々に工夫された資料や写真・地図などビジュアルな手段を使って、本文がまとめられている。この結論を導き出していくプロセスが読ませどころである。観光ガイドも要領よくまとめられている。

 ご一読ありがとうございます。

本書に関連して、関心事項をネット検索してみた。一覧にしておきたい。
日本を支える白い岩-ブラタモリで紹介された武甲山の石灰岩:「おもてなし観光公社」
セメント産業の概要  :「セメント協会」
秩父三十四所観音霊場  ホームページ
ながとろ 長瀞町観光協会 ホームページ
ここは押さえておきたい!長瀞のおすすめ観光スポット27選 :「一休.com」
埼玉県 大宮公園 :「埼玉県」
JR大宮総合車両センター  :「さいたま観光国際協会」
武蔵一宮氷川神社  ホームページ
室蘭市の観光スポット   :「じゃらん」
室蘭のプロフィール  トップページ
TOYAKO Landscape 洞爺湖観光 ホームページ
北海道で”奇跡の山”と呼ばれる「昭和新山」の魅力とは :「RETRIP」
三松正夫。 洞爺観光の源流にいた知の冒険家  :「Hokkaido Magazine KAI」
三松正夫記念館(昭和新山資料館)  :「たびらい」
青島  :「Miyazaki City 宮崎市観光サイト」
鵜戸神宮  ホームページ
鵜戸神宮 神秘の神社を現地編集部が徹底ガイド  :「たびらい」
岩切章太郎  :「みやざきの101人」
宮崎市木崎浜 中央  :「ii・nami.com」

  インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。

(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)


こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『ブラタモリ 1 長崎 金沢 鎌倉』 角川書店
『ブラタモリ 2 富士山 東京駅 真田丸スペシャル 上田・沼田』 角川書店
『ブラタモリ 3 函館 川越 奈良 仙台』 角川書店
『ブラタモリ 4 松江 出雲 軽井沢 博多・福岡』 角川書店
『ブラタモリ 5 札幌 小樽 日光 熱海 小田原』 角川書店
『ブラタモリ 6 松山・道後温泉 沖縄 熊本』 角川書店
『ブラタモリ 7 京都(嵐山・伏見)志摩 伊勢(伊勢神宮・お伊勢参り)』 角川書店
『ブラタモリ 8 横浜 横須賀 会津 会津磐梯山 高尾山』  角川書店
『ブラタモリ 9 平泉 新潟 佐渡 広島 宮島』 角川書店
『ブラタモリ 10 富士の樹海 富士山麓 大阪 大坂城 知床』  角川書店
『ブラタモリ 11 成田山 目黒 浦安 水戸 香川(さぬきうどん・こんぴらさん)』 角川書店
『ブラタモリ 13 京都(清水寺・祇園) 黒部ダム 立山』  角川書店
『ブラタモリ 14 箱根 箱根関所 鹿児島 弘前 十和田湖・奥入瀬』 角川書店
『ブラタモリ 15 名古屋 岐阜 彦根』  角川書店
『ブラタモリ 16 富士山・三保松原 高野山 宝塚 有馬温泉』  角川書店
『ブラマモリ 17 吉祥寺 田園調布 尾道 倉敷 高知』  角川書店