ロシア・ウクライナ戦争は長引き停戦も覚束ない。
ロシアはウクライナに侵攻して殺人と都市破壊、なにかメリットはあったのか。
スエーデンとフィンランドがNATO加盟を申請する事態を招いた。
何がどう影響しているのか素人には解らないが、投資が低迷し、燃料と食糧が値上がりだ。
世界的な景気後退、世界銀行が警告 ウクライナ侵攻の影響 2022年6月8日
https://www.bbc.com/japanese/61727950
世界銀行は7日、世界各国が景気後退に直面していると警告した。新型コロナウイルスの大流行ですでに大きく揺らいでいた経済に、ウクライナでの戦争が追い打ちをかけているとしている。
世銀はこの日、6月の世界経済見通しを発表した。デイヴィッド・マルパス総裁はその中で、高インフレと低成長が同時に起こる「スタグフレーション」の危険性が「かなり大きい」と警告。以下の見方を示した。
「世界のほとんどの国で投資が低迷しているため、低成長が10年は続く可能性が高い。多くの国ではインフレ率が過去数十年で最高水準にあり、供給増も緩やかと予想されるため、インフレ率がさらに長く高止まりする恐れがある」
世界各地でこのところ、エネルギーと食料の価格が上昇している。
マルパス氏は、「ウクライナでの戦争、中国でのロックダウン、サプライチェーンの混乱、スタグフレーションのリスクが、成長に打撃を与えている。多くの国にとって、景気後退は避けられないだろう」とした。
マルパス氏によると、世界の成長率は2021〜2024年に2.7%ポイント低下すると予測されている。これは、1976〜1979年の直近の世界的スタグフレーションでみられた低下の2倍以上だという。
東アジアなどで「大規模な不況」
今回の経済見通しは、ヨーロッパと東アジアの開発途上国で「大規模な景気後退」が生じるとした。
また、ヨーロッパで今年最も経済生産高が急落する可能性が高いのは、ウクライナとロシアだと予測した。
ただ、戦争と新型ウイルスの影響は、さらに広い範囲に及ぶと警告した。
マルパス氏は、「世界的な景気後退が回避されたとしても、スタグフレーションの痛みは数年間続く可能性がある」と指摘した。
経済見通しはさらに、1970年代末のインフレ抑制のための金利上昇が急激だったことが、1982年の世界同時不況と、新興市場や発展途上国での一連の金融危機を引き起こしたと警告した。
しかし1970年代は、ドルが現在より安く、石油は相対的に高価だった。
<分析> ダーシニ・デイヴィッド国際通商担当編集委員
ロシアによるウクライナ侵攻から100日以上が経過した。震源地から何千キロも離れた国や家庭を襲っている衝撃の大きさが、今まさに明らかになってきている。
開発途上国は以前から、経済の立て直しに苦労していた。各世帯の一般的な収入は、パンデミック前の20ドルにつき現在は19ドルまで減っている。
食料とエネルギー価格の高騰は、生活を一段と悪化させ、最も弱い立場の人々を悲惨で苦しい状況へと追いやる。
貧しい国だけの話ではない。ある調査によると、イギリスの全世帯の6分の1が、食料を支援するフードバンクを利用している。
このような世界的な苦境は、インフレ緩和のための金利上昇によってさらに悪化する恐れがある。パンデミックの影響緩和のための政府支援が消滅に向かっている時期に、ちょうど重なるかもしれない。
世界銀行は、債務救済や、食料輸出における制限の非設定など、各国に早急な対応を求めている。政策立案者らに対し、食料とエネルギーの供給を保護し、不安定な市場を安定させ、価格高騰を緩和するために、一致して行動するよう求めている。
各国の政策立案者は、すでに極めて厳しい闘いに取り組んできた。
しかし世銀は、いま何もしなければ、さらに長く痛みも大きい危機が訪れるかもしれないと示唆している。
現在の苦難は、単に不幸や社会不安を意味するだけではない。何年にもわたって人々の生活を苦しめる恐れがある。
(英語記事 World Bank warns of recession risk due to Ukraine war)
「疲労感」とはぴったりの表現、つまり「ウンザリ」感だな。
「宮崎正弘の国際情勢解題」 令和四年(2022)6月9日(木曜日) 通巻第7362号
mailmag@mag2tegami.com
「ウクライナ支援」の欧米に疲労感。「停戦交渉を急げ」論が急拡大
「ハイマース供与は停戦を遅らせ泥沼化させるだけだ」と軍専門筋も
つい半月前、ダボス会議は『ウクライナ一色』だった。5月23日にはオンラインでゼレンスキー大統領が登場し、対ロ制裁の強化を訴えた。また復興には5000億ドルが必要だと経済支援の拡大も抜け目なく要請した。
この会議でのハイライトはキッシンジャー元国務長官と極左・ジョージソロスとの鋭角的な対立だった。停戦をいそげと秩序再建を説く前者に対し、ソロスは「ロシアは信用できない。停戦など実現不可能だ」とした。
バイデン政権はウクライナへの武器供与を増大させ、M42「ハイマース」の供与を決めた。実戦配備は六月末になる。ロシアは「火に油を注ぐ」とし、「米とウクライナの『強力な、信頼できる約束』があり、ハイマースをウクライナはロシア領内に撃ち込まない」(ブリンケン国務長官)と米国はいうが、「約束は守られたためしがない」(ドミトリー・ペスコフ大統領府スポークスマン)と反論した。
プーチンは「新しい攻撃に転じる」と西側の関与に反発した。
「ハイマース供与は死者を増やすだけで、大局には影響しないだろう」と米国のINF検査官を務めたスコット・リッターが言う(RT、6月7日)。ハイマースは70キロの射程があり、長距離ロケット弾を装備すれば300キロを飛翔できるからロシア領内の拠点ベルグロード攻撃に使える。米国は6月1日にハイマース供与を決めたが、長距離ロケットは供与しない方針だ。
ウクライナ軍が予想外に強く二日間で落とする筈だったキエフを防御したばかりか、ロシア軍を敗退させたのは英米が供与したジュリンとスティンガー・ミサイルの威力だった。
この携行ミサイルの特訓のため、米軍はウクライナ兵をドイツのNATO基地へ招き、徹底的に教え込んだうえ、およそ150名の米軍顧問団が現場戦線で指導していた。またロシア軍の動向情報を提供したため、ウクライナは有利だったのである。
通信網がロシアによって途絶すると、すかさずイーロン・マスクが「スペースX」のスターリンクを提供した。欧米各紙は、このスターリンクを中国が打ち落とす可能性に言及している。
155ミリ榴弾砲(M777)も北部と東部戦線に投入され、威力を発揮したが、これも米軍がドイツのNATO基地でウクライナ兵と特訓したのだ。つまりウクライナ軍は事実上、準NATO軍として機能していると言えるだろう。
侵攻以来、西側の論調はロシア軍の残虐ばかりを批判し、ロシアの言い分に聞く耳を持たないが、ウクライナでも大本営発表とメディアの統制が進んでおり、トルストイの『戦争と平和』は発禁処分となった。ロシア人が平和を望むはずはないというわけだ。
▲ウクライナ支援に疲労感が拡がる欧米
欧州の対応をみるとしゃかりきの応援団は英国。なにしろ国会議員のバッジは左半分が英国旗、右はウクライナ国旗である。
ジョンソン首相が強烈に支援旗を振り、自らもキエフへ乗り込んだが、演出過多。保守党内からも「パーティゲート疑惑」でジョンソン辞任要求が四割に達していた。英国民の感情はウクライナ支援への疲労感である。
ジョンソン罷免の不信任案は否決されたものの指導力は半ば失われている。すなわちジョンソン政権はレイムダック入りしている。
フランスはマクロンが嘗てのサルコジ外交をまねて、モスクワを二往復したが、プーチンから「廊下鳶」扱いされた。マクロンは『プーチンに恥をかかせてはいけない』とも発言したためウクライナ外務省から顰蹙を買った。
ロシアの言い分はドネツクとルガンスクで、親露住民が1万4000人虐殺されたため、住民を保護する『特別軍事作戦だ』としており、ロシア国民の七割近くは、このプーチンの主張を是としている。「ドンバス地区の帰属は住民投票で決めるとした『ミンスク合意』「を守らなかったのはウクライナ側だ」とロシアは主張している。
ロシア軍は6月8日までにウクライナ全土の二割を掌握したことはゼレンスキー大統領も認めた。
プーチンに「西側の陰謀」とささやき続けているのは安全保障会議書記のニコライ・パトルシェフ(上級大将)だ。パトルシェフは『レニングラード派』であり、エリツィン大統領のときに首相を務めたプーチンと五十年の交友があり、プーチンの後釜としてFSB長官も務めた。「ウクライナ軍はナチ」『背後に西側の陰謀』「ネオナチとネオコンが共同」などとプーチンに陰謀論を吹き込んだ。パトルシェフ自身も大富豪であり、政権への影響力が強いが、すでに71歳で、シロビキの長老でもある。
ドイツは社民党と緑の党の左翼連立だが、突然変異的にウクライナへ武器支援、防衛費をGDPの二倍にするとした。ところが、ドイツ兵は使い物にならず、ウクライナへ供与した武器は錆があって、使えなかったとする報告がある。
あれほど親露外交を進めたメルケル前首相は、現在、回想録を執筆中とかで、ロシアのウクライナ侵攻開始からずっと沈黙してきた。ようやく口を開き「ロシアの侵攻は擁護できない。ウクライナと連帯する」と発言した。
米国はバイデンに一貫した戦略がなく、プーチンを「人殺し」と言ったり「台湾を軍事的に介入する」としたり、思いつきでIPEFを獅子吼し、400億ドルものウクライナ支援予算を可決した。
ところが、バイデンの支持率は逆に急降下、36%しかなく、中間選挙での民主党の惨敗が見えている。まして国内の銃乱射、治安悪化、猛烈インフレで、米国民の関心事はウクライナにはない。
バイデンは自由のために徹底的に戦えと鼓舞し、「プーチンを権力の座に居座らせてはいけない」と豪語していたが、だんだんと語気を緩め『プーチン氏を追放する気はない。領土の一ミリたりとも譲歩するな等とゼレンスキー大統領には言っていない」と従来の発言をひっくりかえした。
息子のハンター・バイデンがウクライナと癒着して法外な顧問料をせしめていたほか、証拠として押収されているハンターのPCから、数々の疑惑が取り沙汰されており、また直近では『ニューヨーク・ポスト』に、ハンターが売春婦と銃を振り回している写真が露出し、結局、トランプのロシアゲートをでっちあげたのは、こうしたスキャンダルから目を逸らす煙幕戦術だった。
トランプ政権の誕生を予測していなかったオバマ、ヒラリー、バイデン等はCIA、FBIにトランプ政策の邪魔立てを画策し、ともかくトランプをウクライナから遠ざけようとしたのではなかったのか。
▲アゾフ連隊はどうなったのか?
マリオポルで降伏したアゾフ連隊はおよそ1700名の兵士等はロシアへ連行された。どのように扱われるか、あるいは人質交換でウクライナに戻れるか。
しかしアゾフ連隊が壊滅したとき、ゼレンスキー大統領は悲しみの顔をしていなかった。ずばり言うとアゾフ連隊を見放していた。
なぜならアゾフ連隊はウクライナ政府の統率から離れた独立愚連隊のような軍事組織で2014年に創設され、ナショナリズムの強い志願兵から成立していた。ようやく国家防衛隊に組み込まれたが、統合的な組織ではなく、ゼレンスキー大統領にとっては煙たい、あるいは邪魔な軍ではなかったか。
またアイダール大隊、右派セクター、ドンバス大隊なども、軍事作戦でロシアとの激戦を展開しているといわれるが、成果はきこえてこない。
▲チェチェン部隊、ワグネル軍は、どこで何をしているのか
この戦争は事実上の米国vsロシアとの代理戦争で有り、「ウクライナはタンポン(緩衝器)だ」とはダンコースの発言だ。
ヘインズ米国家情報長官は、「プーチン大統領が、事実上NATOが介入していると認識し、かつウクライナ軍に負けそうだと認識すると、核兵器を使う恐れがある」と議会証言している。
他方、ロシアの凶暴なチェチャエン部隊の「活躍」は知られるが、傭兵のワグネル部隊の動向をつかんでいない。チェチェン部隊では司令官が死亡したと報じられている。
「米国はワグネル部隊に具体的対応をしてきていない」(チボール・ナギー元アフリカ担当米国務次官補)。ワグネル部隊は不良少年あがりでプーチンのコック、プリコジンが胴元とされる。プーチンの暗黙の下、中東とアフリカで展開、存在が明らかなのはリビア、マリ、そしてシリアだが、クレムリンは表向き『ワグネル部隊とは無関係』としており、報酬も金で支払われているらしい。
イスラエルは、仲介役を果たそうとしたが、プーチンのユダヤ人不信感によって相手にされず、そればかりかベネット連立政権は風前の灯火、明日選挙となればリクード主体の連立が復活し、ネタニヤフが返り咲くシナリオが広く語られている。
ましてプーチンを離れたオルガルヒが次々とテルアビブへ逃げ込んでいる。
こうみてくると停戦交渉のポジションを得そうな可能性があるのは、鵺的な言動が目立つエルドアン(トルコ大統領)だろう。トルコは引き替えにロシアが支配するシリア北部への軍事介入への暗黙の了解を求めている。事実、シリア駐留のロシア軍六万は引き上げつつあって、代わりにアサド体制を守備しているのはイランである。