北方領土交渉にたいして色んな考えがあってしかるべきで、たとえ議員でもこのように考える人もあるだろう。本気で「戦争」と言ったわけでなく、また出来るわけでも無い。元島民の意識を確認したのではないだろうか。
西村眞悟の時事通信
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準戦時情勢の中にいてコップの中で騒ぐな 令和1年5月18日(土)
丸山穂高衆議院議員が、北方領土の国後島へのビザなし交流訪問団に参加して、
宿泊場所の「友好の家」で、訪問団団長の元国後島民の大塚小弥太さん(八十九歳)に、
「戦争で奪われた島は戦争で取り返すしかない」という趣旨の発言をして、
それを、そこにいた誰かが録音していてマスコミが報道して騒ぎが広がった。
そして、丸山議員が所属する日本維新の会は同議員を除名したうえで、
他の党派の議員達とともに同議員の議員辞職を求めて動き回り、我が国会とマスコミは、
まるで「戦争という言葉」に対するアレルギー反応が起こっているが如くだ。
この頃、ソバなど普通にあるものを食べた子供が全身に発疹ができたり呼吸が困難になるアレルギー反応を起こすことが報告されている。
これと同じ症状ではないか。
産経新聞の産経抄(五月十六日朝刊)の言葉を借りれば、丸山議員の発言は、
「ロシアとの返還交渉に水をさし、ビザなし交流に悪影響を与える」ということだろう。
果たしてそうか。私は、認識を異にする。
丸山議員の発言は、ロシアとの返還交渉に水をさすどころか、有利に展開させる方向に作用する。
但し、我が国内に、現在のような同議員の発言に対するアレルギー反応が続いておればダメだ。
丸山発言を非難する現在のマスコミと大衆(議員を含む)は、その意図とは反対に、
プーチンに至るロシアの為政者達の、領土問題をちらつかせて日本にカネを出させるという一貫した方針を強化する方向に貢献している。
これを利敵行為という。
以下その理由を述べるが、その前に
現在の我が国を取り巻く国際情勢を概観しておきたい。
まず、我が国は、如何なる国際情勢の中におかれた「コップ」であるかを認識し、次にその「コップ」の中のマスコミと大衆の反応の意味を知るべきだ。
結論を先ず記しておくと、
イラクのサダム・フセインがクエートに武力侵入したように公然と、また、中共の毛沢東がチベットと平和協定を結んでチベットを併呑したような巧妙さで、我が国を武力で屈服させる意思を持っているのは、ロシアと中共である。
公然と来るのが得意なのはロシアであり、密かに来るのが得意なのは中共である。
振り返れば、明治二十七年と同三十七年、我が国は相次いでこの二国と戦争状態となった。
日清戦争と日露戦争である。
そして、我が国を取り巻く国際情勢は、「百二十五年の円環」を廻るかのように、この日清、日露両戦役前夜の情況に回帰しつつある。
まず、我が国の北から南に、ロシア、北朝鮮そして中共は、我が国の厳然たる仮想敵国であることを認識すべきだ。
中共は、南シナ海と東シナ海を軍事力増強によって「中国の海」としつつあり、
ロシアは、我が北方領土である国後島と択捉島においてミサイル基地等の軍事施設建設を加速している。
その上で、両国海軍は平成二十五年から、毎年一度の割合で、山東省沖、ウラジオストック沖、北海道沖オホーツク海、北朝鮮沖そして尖閣諸島沖で合同軍事演習を実施している。
即ち、中露両国海軍は、我が国周辺の海である北の北海道沖のオホーツク海、西のウラジオストック沖と北朝鮮沖の日本海、そして南の尖閣諸島沖と山東省沖の東シナ海で軍事演習を重ねてきている。
また、我が国の航空自衛隊のスクランブル発進回数は、冷戦期を遙かに超えており、我が国領空に接近するのは中共軍用機とロシア軍用機がほとんどである。
平成二十四年度のスクランブル発進回数は、年間567回であり対ロシア軍機が248回で対中共軍機が306回である。
それが、四年後の平成二十八年度には倍増し、年間1168回で対ロシア軍機が301回、対中共軍機が851回となった。
この我が国の領空に接近してきて我が自衛隊機の警告を受ける中共軍とロシア軍の戦闘機、爆撃機や偵察機は、そのまま帰って行く機もあるが我が国の日本海側から太平洋側を周回していく機もある。
さらに、海上自衛隊は、毎年、我が国の接続海域と海峡そして南大東島や久米島付近さらに宮古島と石垣島の中間海域を潜航して航行する中共の潜水艦と浮上して航行するロシアの潜水艦に対してP3C対潜哨戒機および護衛艦でスクランブル発進を実施して警告を発し追い払っている。
このように、我が国の領空と領海は、中共軍とロシア軍の軍用機と軍艦で包囲されているが如くである。
そして、昨年の九月十一日から六日間、ロシアのプーチン大統領は、シベリア・極東地域で兵力二十九万七千人、戦車や装甲車などの車両三万六千両そして軍用機一千機という過去最大規模の戦力を動員して中共と合同軍事演習を展開した。
以上の状況を概観しただけでも、我が国は、我が国をターゲットとしたロシア軍と中共軍の
準戦時体制に包囲されていると言っても過言ではない。
しかも、中共の習近平主席は本年一月の年頭において、「台湾への武力行使を放棄しない」と明言したことから明らかなように、軍事力の行使をためらわない共産党の独裁者である。
そして、ロシアのプーチン大統領は、現実に、ウクライナのクリミアにロシア軍を侵攻させ軍事力でクリミアを奪っている。
この状況下で我が安倍内閣は、中共との「友好関係」を深めるために習近平主席を国賓待遇で招くことを検討しており、ロシアのプーチン大統領とは首脳会談を重ね、お互いにウラジーミル、シンゾウと呼び合うほど親密だと日露関係の良好さを自賛している。
そして、このプーチン大統領との個人的友情が、北方領土返還の可能性を広めていると思っているようだ。
果たして、そうか。
昭和二十年から三十一年までソビエトの収容所に抑留された北海道大学教授内村剛介は、「牢獄に入ったことのない者は、その国がどのような国家か、知ってはいない」と書いたトルストイの言葉を実践して牢獄の中でロシアを知り尽くし、日本に帰還してから次のように書いている(「ロシア無頼」高木書房)。
「無理難題に処してたじろがず、手段をえらばない者が共産党エリート・コースに乗る。
それはいつでもどこでも変わらない。
新しがり屋のジャーナリストたちは、『共産主義はこう変わった』とやらかすが、それは新しいものを追っかけざるをえない彼らの商売からでてくる軽薄無責任な話・・・
『古くて変わらない新しさ』をでっち上げる者だけがオルガナイザーということになる。
そして、この『オルガナイザー』は何者のまえでもたじろがないから、当然親友を『裏切る』ことを屁とも思わない。
オルガナイザーは裏切り者でなければならない。」
そう、プーチンは、十代の少年時代からブレジネフのKGBに入ることを希望し、共産党員となってKGBに入り「共産党エリート・コース」に乗った男である。
そして、「古くて変わらない新しさ」をでっち上げてソ連が崩壊してからロシアでのし上がった。
従って、親友を「裏切る」ことも「殺す」ことも屁とも思わない。
安倍晋三総理、貴殿は、既にこのプーチンに裏切られている。
そこで、この度の丸山発言が切掛けとなったアレルギー症状であるが、丸山発言を非難する人は、「返還交渉に悪影響をあたえる」と思っているようだ。
しかし、長年の返還交渉の経緯とロシアの言動をよく見られよ。
ロシアのプーチン大統領の真意は何か。
ロシア研究の第一人者である木村汎北海道大学名誉教授は、「ロシア、プーチンには北方領土を我が国に返す意思は一切無い」と言い切っておられる。
これが、安倍総理と十数回の会談を重ね、お互いに、「シンゾウ」、「ウラジーミル」と呼び合う親密な友人になったと日本側が片思いのように信頼しているプーチンの本質だ。
では、この返還意思が一切無いプーチンが、「ウラジーミル」と言われて笑いながら「返還交渉」をするのは何故か。
その理由は「領土問題をロシアが全く無視していると日本が思ったら、ロシアとの経済協力などに日本が無関心になると畏れているからだ」、とロシア研究者の袴田茂樹新潟県立大学教授が書いている。
つまり、ロシアは北方領土問題を、日本という馬の前にぶら下げるニンジンとみているのだ(同教授筆産経新聞「正論」平成三十年十月三十一日)。
プーチンは、日本は「平和憲法」で萎縮したカネだけ持っている哀れな馬で、この馬を思いのままに操るには、その前にニンジンをぶら下げることだと思っている。
そして、昨年、プーチンは、突如、領土問題の解決を抜きにして平和条約を締結しようと日本側に提案した。
この提案の本質を指摘し批判したのは、日本側ではなく、日露領土交渉に深く関わったロシアのG・クナーゼ元外務次官であり、彼は次のようにプーチンを批判したのだ。
「これほど侮辱的な提案は、ブレジネフのソ連時代でさえも日本に対して行わなかった」
ここまで書けばお分かりいただけるであろう。
今までのロシアには馬の前にぶら下げるニンジンはあっても「領土交渉」は無いのだ。
領土問題、領土交渉があると思っているのは日本だけだ。
従って、もともと領土交渉がないのであるから、丸山発言が領土交渉に水をさすことはなく、
反対にロシアが本当の領土交渉に乗り出さざるをえない方向に作用する可能性大である。
何故なら、「戦争で取られた島を戦争で取り戻す」というのは日本以外の国、特にロシアがもつ常識であり、この鉄則に日本が立ち返る動きが日本国内に出てくれば、さすがのプーチンも、従来のように、日本を馬のように侮辱することができなくなり、東に増大する脅威に直面して本当の領土交渉に入らざるをえないからである。
百六十年前にユーラシアの西のクリミア半島でイギリス、フランスそしてオスマントルコの連合軍と戦い、経済的に疲弊したロシアは、その十年後に東のアラスカをアメリカ合衆国に売却した。
これがロシアである。
現在、ロシアのプーチンは、百六十年前と同じくクリミアに侵攻して西側の経済制裁を受けており、従って、東の日本では、ウラジーミルと呼ばれて微笑みの姿勢でいる。
しかも、今までは、頭から領土を戦争によって取り戻すというロシア的発想がない日本に対しては安心して、馬に対すると同じようにニンジンを垂らして侮辱することもできた。
しかし、ニンジンのからくりは見破られ、
日本国内には戦争をしてでも取り戻すという空気が湧いてきているようになれば、ロシアはユーラシアの西と東で難問を抱えることになる。
従って、百五十年前と同じように、ロシアは東で大幅な譲歩をする可能性が出てくる。
我が国は、複数匹の猟犬を駆使してヒグマを追い詰めるように、この西のバルト海から東のオホーツク海に至るユーラシアのロシアを、西と東で重しを仕掛けて動かさねばならない。
従って、我が国は、西方ではクリミアに侵攻したロシアに対する脅威増大を煽ると共に、東においてもロシアにとっての軍事的脅威の増大を謀る必要がある。
要するに、日露戦争を戦った百十五年前の明治の日本に立ち返ることだ。
このことは、対中共と対北朝鮮対策においても有効である。
この意味で、酒を飲んだ上でしゃべった本人の意図は知らずとも、また軽薄であろうとも、丸山発言を切掛けとして顕在化したものは有益だといえる。
本当に、北方領土の返還を願うなら、世界から見て奇妙な「平和憲法」の「平和主義」を掲げて「平和主義者(偽善者)」ぶって、国会内部で非難合戦をするのはもう止めろ。
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