神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] ぼくの、マシン

2010-11-30 23:31:28 | SF
『ぼくの、マシン ゼロ年代日本SFベスト集成〈S〉』 大森望◎編 (創元SF文庫)




『ゼロ年代SF傑作選』(ハヤカワ文庫)が塩澤版“リアルフィクション”の集大成であって、2000年~2010年のSF傑作選ではないのに対し、大森&小浜コンビが送る本当の“ゼロ年代SFベスト”!

かつて筒井康隆が編纂した『60年代日本SFベスト集成』にあやかって、筒井本人にタイトルの許可まで貰ってきたという代物。これこそ正当な2000年代のベスト短編集である。

こっちは『〈S〉宇宙・未来編』。宇宙やマシンをテーマの中心に据えた本格SFの集大成である。

そもそも、10年前にはこんな本が出版されるとは思ってもいなかった。SF冬の時代、くずSF論争を経て、SFはこのまま数少ないマニアの隠れた趣味になってしまうのではないかという漠然とした焦燥感を持っていた。だからこそこの10年、S-FマガジンやSF Japanを欠かさず買い、徳間の赤い本やら、早川のハードカバーや、国書刊行会のクソ高い本も買い揃えていたのだ。

ここ最近のSF人気復活には俄かに信じられない気がするのだけれど、実際にこんな本(失礼!)が出版されてしまうと、本当にSFに活気が戻ってきたんだなぁと実感する。

そのきっかけが伊藤計劃だったのか、ヨコハマのワールドコンだったのか、はたまたただの揺り戻しなのかはよくわからないけれど、30年SFファンを続けてきた自分には非常に嬉しい話である。

北大のSF研もそろそろ復帰しないかね。再来年2012年には北海道で日本SF大会もきまってるんじゃなイカ。

さてこの本、そんなこんなでほとんど既読。未読なのは、実は上遠野浩平と神林長平。二人とも好きな作家だというのに!



『大風呂敷と蜘蛛の糸』 野尻抱介
これは何度読んでも震える名作。成層圏まで飛んでいく蜘蛛のイメージの美しさと、宇宙への憧れ。数々の困難を一見馬鹿げたアイディアで乗り越えていく技術者の理想的な姿。これを読んで感動できる人はみんなSFファン。

『幸せになる箱庭』 小川一水
後味の悪さが手放しでは褒められない。しかし、この冷や水をぶっ掛けられる感覚もSFの醍醐味である。わざわざ言わなくてもいいだろうということを、物語の形式でエンターテインメントとして表現できることはすばらしい。

『鉄仮面をめぐる論議』 上遠野浩平
考えられないほどの孤独を救った女性に気を取られていると、本質を見失う話(違) どこまで行っても寓話であり、御伽噺。

『嘔吐した宇宙飛行士』 田中啓文
嘔吐した宇宙飛行士の話w

『五人姉妹』 菅浩江
同じ遺伝子を持ちながら、環境の違いによってこうも表面的な性格に違いが……とか言い出すのが理系。恵まれた境遇でありながらも、自分自身とさえ共有できないモノに想いを馳せるのが文系。かな。

『魚舟・獣舟』 上田早夕里
『華竜の宮』後に読み直したことにより何かが変わるかとおもったが、あんまり……。この話はこのままで完成している。

『A』 桜庭一樹
あゆか、あべか、と思っていたら、あややだったのか。すっかり精霊はいなくなっちゃったけどな。

『ラギッド・ガール』 飛浩隆
世界が変容するまさにその瞬間は知っていても鳥肌が立つ。マツコ・デラックス主演で(笑)

『Yedo』 円城塔
よりによってこれかよと思うんだが、じゃあどれがよかったのかと言われれば、これでよかったような気も。

『A.T.D, Automatic Death ■ EPISODE:0』 伊藤計劃+新間大悟
近いということ。その意味。

『ぼくの、マシン』 神林長平
深井零に子供時代があったんだという事実にびっくりしたが考えればあたりまえのことだった。何故、零だったのかの一端がわかるエピソード。実はその頃からJAMが云々とかあってもおもしろいと思ったり。



ところで、どうでもいいが、“浩”って文字が多いな。遠野浩平、菅浩江、飛浩隆、〈F〉には森岡浩之、ついでに未収録だけど有川浩。

ゼロ年代は“浩”の時代だったのだよ!
な、なんですってー(AA略)!