>東洋経済オンライン >世界を読み解くカギは「西洋哲学」の中にある「江戸時代の日本思想」をいま再評価すべきだ >茂木誠の意見・ >20時間・
>ウクライナ、中東が戦火に見舞われ、各国で政治的分断が生じるなど世界が混乱するなか、私たちはどう生きていけばよいのか?
>『日本人が学ぶべき西洋哲学入門 なぜ、彼らはそう考えるのか?』(ジェイソン・モーガン氏との共著)の著者でノンフィクション作家の茂木誠氏が、混沌の時代を生き延びるための哲学について掘り下げます。
>2024年日米選挙に見る世界の分岐点
>2024年11月、アメリカの大統領選挙はトランプ氏が勝利して終わりました。日本でも10月に衆院選が行われましたが、これらの日米の選挙で問われたことは同じテーマだと考えています。
>「世界を美しい理想に向かって高めていこう」という考え方が一方にあり、他方に「人間の社会はそう簡単に変わらない。
>現実は頭で考えた通りにはいかない。
>だから、今の社会を急に壊すことなく、少しずつ修正していけばいい」という考え方があります。
>世界では今、この2つの立場の間で衝突が起こっています。
>その証拠にアメリカでは、大統領選で高い理想を掲げてきた民主党や共和党の一部が、行き過ぎた理想だけでは世界は円滑に回らないと主張するトランプ氏を中心としたMAGA運動(Make America Great Again:アメリカを再び偉大な国にする)と熾烈な戦いを繰り広げました。
>一番わかりやすい例が移民問題です。
>オバマ政権以来、アメリカ民主党の移民政策は移民の受け入れに寛容で、南米や中東をはじめ世界中から移民が殺到しています。
>「多文化共生」は確かに理想的です。
>しかし現実には、不法移民が後を絶ちません。
>彼らにまつわる犯罪――性犯罪、麻薬、人身売買などが増加しアメリカの治安が悪化しています。
>不法移民の受け入れの取りやめを掲げたのがトランプ氏で、1期目の大統領任期中にはメキシコとの国境に巨大な壁を作って不法移民の流入を食い止めました。
>「理想を掲げて急に推し進めようとしても、逆に、別の問題が起こってくる」――実際に世界を見渡すと、トランプ氏のような主張を掲げる政党はまだ非主流派とはいえ、これが今の世界の大きな枠組みです。
>理性主義が西洋世界を拡大させた
>21世紀の世界――とりわけ、宗教、科学、文化に深い影響を与えてきたのは西洋哲学です。
>その西洋哲学も振り子のようになっていて、いわば「理想追求」と「現実立脚」という2つの考え方がずっと対立してきました。
>古代ギリシア時代、理想の世界は天国のようなイデア界にあると説いたプラトンと、万学の祖とされ、現実から検証しようとしたアリストテレスを想像すれば理解しやすいでしょう。
>西洋哲学には常に理性主義という考えがつきまといます。
>「人類の共通の価値観は理性を使えば持てる、理性は全人類が持っているから」
>この理想追求型の理性主義と、西洋世界の拡大が強く結びつくのです。
>紀元前4世紀、古代ギリシアのマケドニア王国のアレクサンドロス大王はアジアに東征し、ギリシア文化とオリエント文化が混じり合いヘレニズム文化が形成され、ギリシア人が世界帝国を築いていく。
>そうした時代背景のもとに、「世界こそが我々の国家であり、 我々は世界市民(コスモポリタン)だ」という考え方(世界市民主義)が生まれてきます。
>今日でも「自分は日本人じゃない、地球市民だ」という人たちがいますが、2400年前からこういう思想があった。
>これを受け継いだローマ帝国時代の哲学がストア派で、理性を基準に世界共通の価値観を持とうというグローバリズム、これが西洋哲学のスタンダードになっていくのです。
>そこにキリスト教が広まってきました。
>キリスト教は「唯一神が世界を設計した」という思想ですが、これこそコスモポリタン的、グローバルな思想なのです。
>キリスト教がヨーロッパで広まる前の段階で、現在にも通ずる世界共通の価値観を求めるようなメンタリティが、古代ギリシア・ローマの世界に存在していたと思うのです。
>西洋文明の理性至上主義の功罪
>時を経て、中世ヨーロッパの哲学には、「唯名論(ノミナリズム)」を唱える人たちが現れます。
>端的に言うと「人間が理性を使えば、様々な観念を作っていける」という考え方です。
>もともとグローバルな宗教であるキリスト教の枠の中で、普遍的価値を聖書(神の言葉)に求めず“人間の理性”で探求していこう、学問と信仰を切り分けて、学問を追求しようと言い始めた。
>これが近代革命=理性中心主義につながっていくのです。
>理性中心主義は近代の哲学者・数学者のデカルトやニュートンに端を発しますが、根本は唯名論にあるということです。
>唯名論は西欧社会に根深く浸透し、西欧人独特の思考パターンを生み出したのです。
>17世紀以降、ニュートンら多くの科学者により、新たな宇宙論である理神論が提唱され、科学革命が起こり、圧倒的な軍事力を持つヨーロッパ人は、近代革命を知らない他文明の人々を「理性が足りない野蛮人」とみなし、欧米による世界征服、植民地支配につながっていきます。
>19世紀には、ダーウィンの進化論の「適者生存」という概念が社会に応用されました。
>これがいわゆる社会ダーウィニズムです。
>進歩史観と結びついた社会ダーウィニズムは、西欧諸国の帝国主義を正当化する理論として機能しました。
>「我々西洋人は理性により進歩し、熾烈な競争に勝ち抜いてきた。
>植民地にされた人間たちは自分たちで文明化できなかったから、我々白人が教えなければならない。
>世界の文明化は白人の義務である」
>こうした観念は「白人の責務」と言い、イギリスの作家ラドヤード・キプリングの詩のタイトルがもとになっています。
>理性至上の西洋的価値観は限界に
>ところが20世紀以降、世界には「白人の責務」に当てはまらない現実が次々と生まれてきます。
>日露戦争では、非西洋文明の日本に反撃を食らい、欧米にとてつもない衝撃を与えました。
>ロシア革命でロシアが共産主義化し、ドイツ、イタリアではファシズムの運動が勃興し、西洋的な価値観から飛び出します。
>共産主義やファシズム――全体主義は、人権や個人の自由という西洋的価値観とは真逆の体制です。
>理性を中心に発展してきた西洋には非常に大きな不安材料だったのです。
>20世紀には世界中で西洋的価値観への反逆が起こった結果、第2次世界大戦につながっていったのです。
>そのため西側諸国から見れば、今でも非西洋的な日本、ロシア、ドイツが大きな脅威で、過去へのトラウマから、徹底的に抑え込んで管理したいとの思惑が透けて見えます。
>現在、プーチンという指導者がロシア人に強く支持されているのは、西洋的価値観を超克し、ロシアが我が道を行くことを明確にしたからです。
>だから、プーチンのロシアは西洋文明に反抗していると見なされ、西側諸国は目の敵にしているわけです。
>理性至上の西洋的価値観が限界を迎えつつあることが、今の世界の混乱とも関係しているのです。
>「江戸時代の日本思想」を再評価すべき
>歴史は起こった事実を学ぶもので、私たちは現実から出発するべきです。
>しかし学校の教科書ではプラトン、ルソーといった理想主義的な思想に偏りがちです。
>理性中心主義がもたらした現在の世界の混乱を踏まえ、現実に立脚した哲学から学ぶことが今こそ必要です。
>具体的には、トマス・アクィナス、ライプニッツ、エドマンド・バークなどで、彼らの思想には東洋思想との共通性があります。
>また、キリスト教を批判したニーチェやアダム・スミス、カール・ポパー、ハイエクなども重要です。
>彼らのように、現実に根ざした哲学を展開した哲学者を見直すべきなのです。
そうですね。現実を見るためには哲学 (非現実) が必要ですね。頭の中の内容と頭の外の内容を組み合わせて使いましょう。
>そして、明治以降、西洋文化を取り入れる借り物文化に終始してきた日本。
>未来を切り開くには、日本人は、日本の歴史を踏まえた自分たちの哲学を言語化し、西洋を導く立場に立つべきです。
英米流の高等教育の目的は個人が考え (非現実) の内容を生み出すためにある。その考えの内容は文になり、論文として公表される。日本語は ‘写生画の言葉’ ともいわれ、現実ばかりで非現実の内容を示さない。だから、わが国の英米流高等教育の成果は上がらない。わが国の高等教育は使用言語を英語に改める必要がある。
>その実現の鍵は江戸時代にあります。
>『古事記』や『万葉集』を再発見した賀茂真淵や本居宣長の国学、伊藤仁斎の「仁」、荻生徂徠の政治哲学など、江戸時代に確立された独自の理論を再評価すべきです。
>これらの思想が形になる寸前に明治維新で西洋思想が流入しました。
>しかし、そもそも西洋哲学は日本社会に根っこがないのです。
>そのため日本では西洋哲学は大学内の閉鎖的な議論に留まり、日本社会にまったく影響を与えていません。
>西洋哲学が日本社会に根付かない理由はここにあります。
英米流の高等教育は子供を大人にする為の教育である。子供には現実 (事実) ばかりがあって非現実(哲学・考え) がない。英米流の高等教育は子供に哲学を獲得するための教育である。子供が思春期になって、言語能力が飛躍的に増大するのを待って高等教育が行われる。かれらの文法には時制 (tense) というものがあって独立した非現実の三世界を表現することができる。未来時制を使って自己の意思を表すこともできるようになる。すると加害者意識も経験することになる。それが高じて罪の意識も理解できるようになる。深い反省にも陥るので原因の究明が行われる。うやむやにならない。魂の救済を必要とする人も出て来る。贖罪のための宗教 (キリスト教) も重要になる。こうしたことで浅薄な人間が思慮深い人間に変身する。だからどこの国でも高等教育に力を入れることになる。
哲学は非現実 (考え) の内容であるから、思考を停止している日本人には縁がない。日本語は現実の内容だけを話す言語である。日本式の判断だと見ることのできる内容は本当の事である。見ることのできない内容は嘘である。だから現実の言葉 (日本語) を話す人が非現実を語る学習をすると常に失敗する。嘘ばかりでは学習に力が入らない。だからわが国は英米流の高等教育の導入に失敗した。何処の国も日本に我が子の高等教育の成果を期待する者はいない。
今の地球はアングロ・サクソンの支配体制にある。哲学が相手を引き付けて人々の尊敬を得る。アフリカ系米国人はアメリカの大統領になった。インド系英国人は英国の首相になっていた。これらは高等教育のお陰である。インド人は印欧語族であるからアングロ・サクソンと相性が良い。
当の日本人の若者はいまなお序列競争にうつつを抜かしていて、教育内容の吟味などする余地はない。難関出身者が序列社会で優位に立つ話ばかりを気にしている。世界に対する注意力不足で井の中の蛙になっている。国際取引で印欧語族を取引相手にして苦戦を強いられることになる。
>今こそ日本の社会と伝統、歴史に根差した哲学を自分たちの言葉で語りましょう。
>西洋哲学が行き詰まったいま、日本人が世界をリードする時代はここから始まるのです。