数年前、ボクのヒザの上で泣いていた、幼年の男の子がいた。
可美道場にサポート指導に来ていたボクは、何週かにわたり、その子を抱き、ジッと他の生徒が稽古をしているトコロを二人で観ていた。
自分が声をかけると、いつしかその子は泣きやんでいたが、不安そうな顔は、いつも隠せないでいた。
『強くなるといいナ‥』
そんなふうに思っていたのだけれど、その数日後から2年間、豊橋道場の緊急事態もあり、指導員として浜松を離れた自分。
でも豊橋の地にいても、同じような時間に稽古をしているわけだから、
『リュウは、まだ空手を続けているだろうか?ハヤトは泣いてないだろうか? リョウガは大丈夫だろうか?白脇の子供達は‥』
そんなふうに、時々は彼らを思いだしたものだ。
そのうちボクは、浜松での指導に戻り、また彼らとの交流は復活した。その時、ずっと空手を頑張ってくれていた現実を、とても嬉しく思った。
今回、昇段出来たのも‥今まで続けてこれたのも‥本人の努力と、いちばん時間を共有してきた、可美道場の先生と、所属の仲間達のおかげだろう・・
今回、ボクの入院時にも手紙をくれ、
『次回、井口先生の前で優勝したトコロを見せたい!』
と、手紙をくれたリュウ。指導者から見ても、嬉しいくらいの厳しさと優しさを持つ、そんなご両親に育てられていることが、とくにリュウを良き方向へ導いてくれている。
だいぶ後に入会した、弟がタイヘンな時も、いつも優しくサポートをしていたし、聞いた話では、後輩達だって良い意味で引っ張ってきた。
そして武道啓明賞をも受賞し、その取り組み方だって評価をされた。
『泣いていたあの子が、ずいぶん成長したものだ‥』
所属とかに関係なく、素直に子供の成長は嬉しく思える。可美道場にはゼンガやリュウノスケのように、小さな頃からシッカリと空手に取り組める子がいて楽しみだし、ぜひリュウの背中を見て、色々と参考にしてもらいたいとも思う。
AED講習会では、久しぶりにリュウと逢った。
ボクを見た瞬間、ニコッと微笑んでくれた。
あの頃の泣き顔は、どこかで切望していた笑顔に変わり、ボク達は数少ないけれど、いくつかの言葉をかわした。
でも言葉じゃない・・その笑顔の中にある想いは、何より優しくも感じられて。
だから、あの頃の二人に伝えたい‥ただ遠くを見ていた、そんな二人に伝えたい‥
『ボク達はココに立ってるよ』
と。
☆リュウ、良く頑張った!黒帯取得おめでとう!