伊是名夏子さんのブログ記事 JRで車いすは乗車拒否されました : コラムニスト伊是名夏子ブログ (livedoor.jp)が炎上した件だが、電動車椅子ユーザーの知人も多数いて介助経験もあり介護福祉士の資格も最近得た私としては、とても気になってはいたものの、車椅子ユーザーのなかでも賛否が別れており「意見が言いにくい」ということもあって、伊是名さんのブログを引用リツーイトするだけにとどまっていた。
(Twitterの文面は以下)
行動の是非でなく問題提起としては、エレベーターのない無人あるいは少人数職員の駅における電動車椅子の乗降について、当面、差別解消法の合理的配慮をどうするか?事前連絡をもらえば対応出来るのか、それでも出来ないのか? 鉄道会社で事前協議し社内共有、外部告知しておく必要があるということか。エレベーターの設置とあわせ、周囲の人々が自然に手伝う社会の実現も一つの解決法だが、電動車椅子は男4人で抱えても大変で危険。中学高校で体験学習が必要か。 来宮駅の平面図は階段の先が点線で上り下りホームとも地下階段を使用しなくてはならないことが読み取れる。そういった知識の共有も必要か。
その後、さらに炎上しているようで、人格攻撃・誹謗中傷は論外としても、「伊是名さんや駅員さんの行動の是非ではなく車椅子ユーザ―も当たり前に移動できるよう障壁が取り除かれるべきであり、そういった観点から議論されるべきである。木を見て森を見ずではだめだ」的な大上段的な論にも違和感を感じ、「(トーンポリシングという考え方はあるものの)やはり行動に対する疑問もあるし、木も見て森も見なくてはならないんじゃないの」と思ったりもした。しかし私のTwitterの書き込みも「まさにその通りじゃん」ということで、この一件を自分なりに整理してみたいと思う。
炎上を知り、最初に伊是名さんのブログ記事をざっと読んだ感想は、コラムニストという肩書の割には、例えば「無人駅」という表現が一言もないなど「言葉が足りなさ過ぎるのでは?」というもの。一読しただけではよくわからなかったので、その後、熟読したがいろいろと疑問点や、どう理解してよいかわからない点も多かった。
順を追って、みてみたい。
まず伊是名さんが、ネットで来宮駅の構内図を調べた箇所。
ブログに添付されていた図面から、エレベーターはなく、改札口へ行くには上り下りのホームともに地下階段を通る必要があることが読み取れるが、伊是名さんはわからなかったようだ。
この時点で伊是名さんは、「下りなら階段なしなのかな」と思い、行ってから考えようとなった。この「事前の調べが足りない。事前連絡で確認していない」という点に疑問を感じた人も多かったようだ。
その後いろいろと調べてみたのだが、国土交通省で11月から「駅の無人化に伴う安全・円滑な駅利用に関する障害当事者団体・鉄道事業者・国土交通省の意見交換会」というものが3度開催されており、4月以降に中間とりまとめが示され、夏頃に最終報告が予定されている。今回のような事例が既に問題化されていたわけだ。
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_fr2_000017.html
(上記URLで、議事録や資料を読むことができる。聴覚障害者、視覚障害者への対応も話し合われており興味深い)
この議論のなかで「事前連絡に関する認識の共有」というものが一つのテーマになっており、「各社、事前連絡がなくても対応」することになっている。「ただし、要員手配やバリアフリー設備の状況により、お待たせしたり、乗車列車や乗降駅の変更をお願いする場 合がある」という但し書きはある。
また九州大分県では、脳性まひの車椅子ユーザ―が「電車に乗って好きな所で乗り降りしたい」という願いから「乗車する際の介助に予約が必要なのは差別だ」と、JR九州を訴えている。
無人駅とバリアフリーの関係性「好きに乗り降りしたい」:朝日新聞デジタル (asahi.com)
こういった流れをご存知かどうかわわからないが、ご自分の体験から「いつもJRを利用する時と同様に、連絡をせずにむかいました」(補足で書かれた伊是名さんのブログ記事より JRの合理的配慮への改善を求める補足 : コラムニスト伊是名夏子ブログ (livedoor.jp))ということのようだ。また同記事で「調べるのも、連絡するのも、手間も時間もかかることだからです。その手間と時間が障害者にだけ強制されるは、差別があるということと同じはないでしょうか」とあるように、一見してわかりやすい説明の部分までは調べるが、それ以上のことを強いられるのは差別だという思い、問題提起もあったということだろうか。また一般論として電話で問い合わせると断られるが、直接行けばOKになることはままあることから、そういう知恵もあったのかもしれない。
尚、前述の「意見交換会」でも、「障害当事者の方々への適切な案内・情報提供の実施」というテーマがあり、HP等をわかりやすくするという点は各社の努力目標となっている。
そして小田原駅に向かい、来宮駅まで行きたい旨伝えたが、その時点で駅員Aさんは来宮駅が無人駅かつバリアフリー非対応ということを認識していなかったようだ。電動車椅子ユーザ―がそういう駅に行くというイメージが無かったのか、単にうっかりしていたのかもしれない。駅員Aさんはその後、熱海駅に連絡したのか連絡する前に無人駅であることに気がついたのかはわからないが、JR側は「無人駅で対応不可能。熱海まででよいか」と伊是名さんに伝えることになる。「無人駅」という言葉がブログ記事に出てこないのでどの時点で伝えたのかわからないが、常識的に考えれば最初の時点で無人駅であることを伝えたのではないか。
前述の意見交換会では「各社とも駅が無人であることのみをもって駅の利用を制限する取り扱いは行っていない」。但し、「無人駅を有する複数の事業者において、改札からホームまでの行き来が跨線橋のみでエレベーターやスロープの 設置がない場合など、構造上車椅子のご利用が出来ない場合は、バリアフリー設備の整った隣接駅のご案内や迂回乗車のご案内を行う場合がある。」ともある。
またJR東日本は、乗車列車、乗降駅の変更について、「手前の駅で降りていただくなど、地方の駅での実例はあるが、いずれにしてもケースバイケースで可能な限り対応させていただいているところ」と回答している。
つまり小田原駅の対応は隣接駅のご案内であったわけだが、迂回乗車の案内はなかった。この時点、あるいはその後、関係各所(熱海駅、小田原駅長やバリアフリー専門の対応部署?)に問い合わせ、駅員Bさん、Cさんが登場するが、その過程で、タクシー、バス、徒歩(電動車椅子自走)の迂回乗車にあたる3択を連絡先等の情報も含めて示すことが出来れば、ケースバイケースの可能な対応、合理的配慮になったということかと思う。熱海駅から、伊是名さんが行きたかった来宮神社まで(どのくらいの割合かはわからないが)ノンステップバスが運行している。
どうなのだろうか?それでも伊是名さんは納得しなかったのだろうか。
しかし提示できたのはタクシーだけだった。それでは納得できない伊是名さんは、「駅は公共交通機関です。駅員さんを3,4人、集めてくれませんか?」と要求した。伊是名さんからタクシー会社に一応連絡したらどうなのだろうとも思うが、予約は絶対無理だと思ったのか、あえて選択肢から外したのかどうかはわからない。「タクシー会社の電話番号をもらいましたが、対応できるかは、わかりませんとのこと」とあるので、伊是名さんは、連絡は駅側がすることと思ったのか? 駅側とすれば、お客様がやることと考えたのかもしれない。今後、そういった場合、どちらが連絡すべきだという議論が必要なのかもしれない。また料金は現状では利用者負担ということかと思うが、いろいろと考える余地はあるのでないか。
ちなみに意見交換会の事例で「徒歩もしくはタクシーを使ってほしい」と伝えることはあるようで、例えば「鉄道事業者が指定した駅で降車し、タクシーで1万円近くかけて自宅まで帰宅した。」ということもあったようだ。あるいは「親族の生死にかかわる事態が発生し、電車を急に利用したい場合も断られた」「無人駅なので 1 ヶ月前までに事前連絡をもらわないと対 応できない」という事例もあり、そんなことを知ってか知らずか、伊是名さんには何とか風穴を開けなくてはならないという強い思いがあったのかもしれない。
また「無人駅は手伝いに行く駅員も高齢な人もいるため、手伝うことが難しい場合もあるがケースバイケースではっきりしたことは言えない」という場合もあったようで、手伝える体力を有する人員が必要である。
何故、伊是名さんは4人ではなく「3、4人集めてくれませんか?」と言ったのかと思ったが、3人の場合は女性のお友達も手伝うということだったのだろうか。それはともかく1時間ほどのやり取りの後、伊是名さん一行は熱海駅へ向かう。熱海駅で再交渉するつもりだったのか、タクシーか徒歩(自走)で行くつもりだったのかは書いてないのでわからない。別の記事のインタビューで伊是名さんが電車に乗ったことを「強行突破」と表現しているが、JR側は小田原→熱海はサポートするわけで、言葉の意味はよくわからない。
乗車後、小田原駅から熱海駅に連絡し、JR側の誰かが「一連のやりとりを携帯で撮影されているし、これは対応しないとヤバい!」と思ったのだろう。熱海駅では駅長も含めた4名が待ち構えていた。駅長も数に入れないと人数を確保できなかったようだ。
そして来宮駅でその4人が電動車椅子を運んだ。私自身も同様に電動車椅子を運んだ経験があるが、かなり大変だ。階段上部の人は腰を痛めそうになるし、下部の人には相当な荷重がかかる。本当ならば6名で運んだほうが良い。
伊是名さんのブログ記事に対する感想を読むと、大変な思いをして運んでくれた駅員さんたちへの感謝の気持ちが感じられない等と批判されているようだ。もちろん人と人との関係がうまく進むためには感謝の気持ちを持って接するほうが絶対に良いのだが、この点はなかなかに難しい問題だ。
伊是名さんのことを言っているわけではなく一般論として、たとえどんなにひどい性格の障がい者でも合理的配慮はなされなくてはならないし、どんなにとんでもない奴でもその人の権利は守られなければならない。障害者差別解消法における合理的配慮は、障害者にとっての権利である。
もちろん笑顔で協力しあったほうが良いに決まっているし、そうあるべきかもしれないが、「そうでなければならない」とはならない。
少し脱線するが、パラリンピックで大活躍し勇気と感動を与えてくれた障害者にも、特に何もしないで悪態ばかりついている障害者にも、合理的配慮はなされなくてはならない。“良い障害者”と“悪い障害者”に、健常者が選別し分断することはアウトだろう。ロンドンパラリンピック後、パラリンピックは障害への理解に全くつながらなかったという意見がとても多かったという。そうならないためにも。
伊是名さんのブログに戻ると、「車いすユーザーが利用者として想定されていない」と何度か書かれているが「バリアフリー対応でない駅に向かう車いすユーザーが、利用者として想定されていない」ということではないか。かなり誤解を招く表現のように感じた。
最終的には、無人駅の来宮駅の乗降で往復ともに対応したわけなので、タイトルの“乗車拒否”や「正直、ここまでの乗車拒否は初めてでした」という言葉の意味を当初は掴みかね、違和感も持ったが、1時間要求しても「はい」と言ってくれなかったのは初めてだったということだろう。JR側としては「それを乗車拒否と言われましても」とはなると思うが。
以前も「階段しかない駅では、時間はかかっても、駅員を集めてくれ、持ってくれる」ようだが、無人駅に4人の職員が出向いたのだろうか? それとも無人駅は初めてのことだったのだろうか。そのことは最初のブログ記事にも補足として書かれた記事にも書かれていないのでわからない。
また補足の記事には「熱海駅の駅員さんは丁寧、親切でしたが『今回は特別ご案内します』と言われたのを改善していきたいと思いました」とあるが、その時点では特例と言うしかないでだろう。駅側としては、通常業務を4名が離れ、隣の駅までいくということはできるだけ避けたいだろう。ただ今後、伊是名さんと同じルートを希望される方がいた場合は、バス、タクシーを即座に案内、それではどうしてもダメですという人の場合のみ、階段で運ぶということになるのだろうか。
前述の意見交換会では、鉄道サービス政策室から以下の提言がなされている。「規則では無人駅であることのみをもって利用を制限する取扱は行っていないという回答を事業者からいただいているが、実際に現場ではそうではないと指摘されているところ。こちらについても、改めて事業者の皆様には、無人駅だからというだけで適切な取扱をしない、前日までの連絡を求めるといったことはしないように教育・周知の徹底をぜひお願い申し上げる」
この先、来宮駅のみならず、無人駅を始めとする非バリアフリー駅をどうするのかというのは日本社会の課題だ。そしてこれは障害者のみならず、高齢者の問題でもある。
すべての駅、特に乗降客の少ない駅のエレベーター設置は実現がむずかしい。ちなみに来宮駅は(Twitterの書き込みによると)エレベーター設置の計画もあるようだ。観光地ということで計画が進みやすいのかもしれない。詳細はわからない。
「オリンピックに無駄な金を使うんならそっちに回せばいいのでは」という意見も散見され、そのこと自体はその通りだと思うが、全駅のエレベーター化は時間的な問題もありなかなかに難しそうだ。じゃあどうするか?
例えばホームの端をスロープにして、線路を渡って改札に通じるという改造も考えられる。実際、そういう構造になっている駅もあり、電動車椅子が改札に向かうのに同行したことがある。
ハード面でなくいかに人員を確保するかということで言えば、熱海ではなんとか4名が確保できたが、地方になると無人駅の隣駅も駅員の数が少なく、4名を確保するのはなかなかに難しそうだ。例えばどこかの私鉄は、専門要員をエリア内の各駅に配置しておき、一堂に集まるという試みをやっているそうだ。これはなかなかに興味深い取り組みである。あるいは管理を自治体にお任せしているところもあるようだ。ボランティアの活用も考えられる。
迂回乗車という観点からは、介護タクシーを保有する会社とのスムーズな連携やノンステップ路線バスとの連携。あるいは福祉車両の有効活用。例えば、高齢者施設の福祉車両をうまく活用するなど。お金の流れをどうするか等、考えなくてはならないこともあるが、可能性はあるのではないか。鉄道会社外との連携ということになるが。地域の実情にそって、業種を超えた連携が必要なのかもしれない。
その他もいろいろ考えられるのではないだろうか。
以前とある地方駅(一応その市内ではメイン駅)に行った時に、バリアフリー構造でないことが気になった。ちなみにアホみたいに重い荷物を持っていたので階段上がって改札に辿りつくまでに疲れ果てた。バリアフリー化はそんな人間にも役に立つ。そこで駅員さんに「もし電動車椅子がこの駅に来たらどう対応するのですか?」と聞いてみた。「隣の市の駅で乗降してもらうしかないです」との返答だった。「この市には電動車椅子では来れないということですね」と問うと、「はい。そうです」と、とても申し訳なさげな表情で答えてくれた。
仮にその駅や日本のどこかの非バリアフリー駅がエレベータ化されることになったとしても完成までの期間をどうするかといいう課題は残る。
「今を生きている」障害者のなかには、それまで、とても待てない。生きているかもわからない、という人もるいるかもしれない。
電動車椅子サッカーのドキュメンタリー映画「蹴る」での撮影中、電動車椅子に初めて乗った時、「自分の意志で行きたいところに行ける自由を得た」という意味合いのことを皆が語った。
ある者は手動の車椅子と悪戦苦闘する日々からの脱出。
生まれて一度も歩いたこともないある者は、自走出来る喜びに満ち溢れた。
楽し気に疾走するある者を、誰も止められなかった。
走り続ける自由を、どこまでも
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