退屈しないように シニアの暮らし

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さて何をしようか

泣かないで花を見なさい

2014-07-11 03:58:36 | 韓で遊ぶ

愛の円
海辺はが沈みかけていた。遠くの水平線の上に夕日が赤く燃え上がっていた。少年は水平線を越えて消えていく日を眺めて、うつろに海辺の砂に座っていた。
母が少年の元を去ってからすでに3年たっていた。少年はいつの間にか、恋しさと待つことが何であるかを知るようになった。
少年は父と母が別れた日のことをはっきりと覚えている。
その日は春休みが終わった2月の最後の日だった。朝から春の雨がしとしと降っていたその日、母と父は朝早く家を出て行った。そしてその日の夕方電話で、母が泣き出しそうな声で少年に言った。
「母さんと父さんは今日裁判所に行って離婚した。お前はこれから父さんと暮らしなさい。」
少年はその場から立ち上がって指で砂に線を引いた。ずっと線を引きながらその線が書かれたところに母がいる様だった。
少年はずっと線を引いた。波がかかってきて線を消すともう一度その場から線を引いた。
いつの間にか夜が深まった。満月が海辺を明るく照らしていた。
少年は砂の上に線を引くことを少しやめて夜の空を眺めた。満月がにっこりと笑いながら少年を見ていた。少年は満月が丸い顔のように思えた。少年は満月のような母の顔を書きたかった。
しかし、少年は円の書き方を知らなかった。満月のような丸い円を書きたいと思いながらも指が痛いほどにずっと直線ばかり描き続けた。
その時、少年の背中の後ろで黙って近づいてきた一人の人がいた。少年の父だった。
「おまえなぁ、円を書きたいならば書きはじめたところに帰ってこなければならないのさ。」
少年は父の言葉通り、書きはじめたところに戻ってきながら線を引いた。すると満月のような丸い円ができた。
「そうだ。本当に上手く書いたな。」
父は息子をほめてやった。息子が海辺で書いた円を眺めながら低く独り言を言った。
「あ、愛もこういうものだな。愛していたはじめに戻ることができてこそ愛の円を描くことができるんだなぁ。はじめと終わりが互いに一緒に会ってこそ本当の愛を完成することができるんだなぁ。」
コメント
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