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マガモの努力
その人は、今や、朝が明るくなってくるのが恐ろしかった。朝服を着てかばんを持ってどこか外に出かけなければならないという事実が苦痛だった。朝に子供たちと一緒に急いで家を出てもその人は、今や行くところもない。
職場を失った後初めの一ヶ月は一生懸命人に会いに通った。神は自ら助けるものを助けるというし、自らすることを探してあちこち回った。しかし、どんなに回っても適当な仕事がなかった。小さな店でもする自営業を考えてみたが、思ったより資本がたくさん必要で手も出なかった。
だからと言って虚しい日々を家の片隅に閉じこもっているわけにもいかなかった。まだ、妻と子供には職場を失った事実をはっきりと話をしないで、少なくとも以前と変らない朝の出勤が繰り返された。今は親しい友達に会って酒でも一杯やろうと思っても友達の仕事が終わる時までどこかで時間を送るかが最も大きな問題だった。
はじめはソウォルに向って南山八角亭まで歩いて上がってみたりもして、独立文化院とか、日本文化院で無料で上映されている映画を見に通ったりもしてみたが、今はそれをすることもできなかった。電車に乗って水原や安山とかオイドの方に行って野原を歩いてみることも今は飽きてきた。ただ、胸につみあがったことは世の中に対する疲労感と絶望感と流れる時間だけだった。
そんなある日、彼は偶然に鐘路街を歩いていたら宋廟を通って昌慶宮に行った。冬にしては本当に暖かい日だからそうなのか、葉の落ちた枝に止まって泣いているカササギの声さえもうれしく安らかだった。
彼は王が玉座に座って政事を行った明政殿と宋文堂などをゆっくりと回って、植物園に行って蘭の香を十分に味わった。そして春塘池と言う名前の池のほとりの岩の一方に腰掛けて呆然と池を見ていた。
水の上にマガモが何羽か静かに浮いていたが、流れに従ってあちこちに少しずつ動いていた。
「あのマガモがもはや留鳥になりましたね。初めはアヒル農場で数百羽で育てられていたんでしょう。」
誰かが声をかけてきた。ちょっと見ると彼と似たような身の上にいるような男のようだった。
「あ、そうですね。渡り鳥が留鳥になることもあるでしょう。」
彼は男が不憫に思うかと思って口を開いた。すると男が独り言のようにまた彼に言った。
「あいつら、とても平和そうにみえるでしょ。」
「そうですね。祖手も平和そうで、悠々自適、私たち人間よりも幸福に見えますね。」
彼がタバコを取り出して火をつけながら答えた。すると男も思い出したようにタバコを出して話を続けた。
「ちょっと見たらマガモが水の上でまるで休んでいるようですが、実はそうではありません。水の中では両足を必死に動かしながら泳いでいます。私は仕事が上手くいかない時、あいつらのあんな姿を見に時々ここに来ます。あいつらを見ながら世の中で努力しないで得るものは何ひとつないということをいまさらながら悟ったりします。マガモが水の上に優雅に浮いているのと全力を尽くして水をかいていることは基本的にひとつの事実でありながらも同時に2つの事実でしょ。ですが、私たちはいつもひとつの事実だけ見てうらやましがります。あいつらが水の上に浮いているためにどれだけつらいでしょうか。」
彼は男の言葉に何か答えるのができなかった。しかし、自分でも知らないうちに「私も一生懸命あきらめないで生きなければなぁ」と言う思いをしていました。