幼い葦の霊魂
川辺の葦原が風になびいた。葦は風が吹くままに全身を任せた。もう少し強く風が吹いても葦の腰は深くたわんだ。
「かあさん、私たちはなぜこのように弱いの。」
幼い葦は風の意のままに生きなければならない自信の姿がみすぼらしく感じました。
「弱いのではなく柔軟なのよ。」
母は腕を伸ばして幼い葦の頬を撫でてくれた。
「違う、弱いのさ。風が少し吹いても腰がたわむじゃないか。母さんはなぜ風のするままにしているんだ。」
「それは母さんが風を愛しているからよ。もちろん風も私たちを愛しているからだし。」
幼い葦は風を愛しているという母の言葉に一時口をつぐんで考えこみました。しかし、いくら考えてもそれは愛ではなかった。普段愛という言葉が出てくるだけでなぜか涙が出るのに今回はそうじゃないじゃないか。
「僕は母さんの言葉を受け入れることができない。愛というのは相手側に腰を曲げさせたりすることじゃない。母さん、僕は自分の意志でまっすぐに立っていたい。風が吹いてもたわまない強い葦になりたい。」
今度は母の葦が深く考え込みましたが、ゆっくりと口を開きました。
「お前、弱いということが強いことで、負けることが勝つことなんだ。お前が勝ったと思ったら、まさにその瞬間お前は負けたのであり、お前が津よりと思うまさにその瞬間にお前は弱くなるのだよ。」
幼い葦はこれ以上何も言わなかった。幼い葦の沈黙はやけに長かった。
また、強い風が吹いた。葦たちいっせいに風の吹くほうに腰を曲げた。
しかし、幼い葦はどんなに強い風が吹いてもまっすぐに腰を立てて曲げなかった。
何日か後、幼い葦の腰が折れていた。折られた幼い葦の肉体だけが風に細く干上がった。
しかし、幼い葦の霊魂だけはどんなに風が強く吹いてきてもまっすぐに腰を立てて川辺を守っていた。