イエアメガエル(Litoria caerulea) Green Tree-frog
先ほどの農道からまた移動して、今度はもっと南のとある町。
Lake Mitchell に入ろうとしたのだけれど、何やら門が閉まっていて入れそうに無かったため諦めてしまった。
そろそろ車の燃料が尽きそうだったので、いかにも「荒野のガソリンスタリンド」といった感じの雰囲気の良いガス・ステーションに立ち寄った。
給油をしたついでに、最近日本でも売っているグラソービタミンウォーターを買った。パンだけの食事で偏った栄養状態を気休め程度に補正しようという魂胆である。ヤブツカツクリのモニュメントをなでながら日陰で休んでいると、ここの店員が話しかけてきた。
どこから来たのかという話に始まり、何しに来たという話になった時に私が「鳥と、あと生き物なら何でも見たいんです」などと言うと、その優しい店員は言う、「じゃあちょっと来てみて」。
ガソリンスタンドには、給油のついでに自分で簡単な洗車ができる小さなブラシとそれが浸かっている水桶があるのだけれど、店員はその水桶の棚にある赤いポリタンクをどけて見せた。
「ほら、こいつはどうだい?いつもここにいるんだ。」
店員が指差す、赤いポリタンクをどけた空間を覗き込んだ私達は、とても喜んだ。
イエアメガエルが、棚の隅っこにうずくまっていたのだ!
私が笑顔でお礼を言うと、店員は「かまわないさ☆」と爽やかに言い放って店内に戻っていった。
イエアメガエルが居る空間以外は日照りにより果てしなく乾燥していて、イエアメを誤って飛び出させでもしたらたちどころに干物が出来上がってしまいそうだったので、驚かせないよう1、2枚写真を撮った後にまたポリタンクをこの棚に戻してやった。
イエアメガエルの学名の種小名は「カエルレア」、カエルだけに。
【2010/03/05/オーストラリア Cairns,Australia;Mar. 2010】
モリショウビン(Todiramphus macleayii incinctus) Forest Kingfisher
次々に出現する鳥達に夢中になっていたら、うっかり昼過ぎまでキャンプ場で過ごしてしまった。
昨晩にスーパーマーケットで買った巨大で安いレーズンパンは昨日の晩御飯にしたけれど、この辺りには店の1つも存在しないので仕方なく今朝も、そしてランチにもこのパンをもさもさと食べた。ミネラルウォーターがなければ喉も通らなかったろう。
私達はキャンプ場の南にある平原を適当に見繕って、そのだだっ広い草原を通る一本の狭い農道に入ってみることにした。
道路沿いに林がまだある辺りにはベニカノコバトやフヨウチョウがいて、名前通りハチマキをしているみたいに目の後方からの白いバンドが後頭で繋がるノドジロハチマキミツスイも木々の間を動き回っていた。
田んぼ3枚分ほどもある湿地に差し掛かる頃、草原の草の切れ目に、全身真っ黒で虹彩とアイリング、それから脚が赤いミナミクロクイナが姿を現した。ミナミクロクイナは、次の瞬間にはすぐにまた体が隠れるほどの草の中に入っていった。他には、2羽のカササギガンとミナミクロヒメウ、それからチュウサギが水辺の木にとまって休んでいる。
道路沿いの木にはモリショウビンがとまっていた。この出逢いはこれまでに無いくらい近かったので、背面の絶妙な青色グラデーションを目に焼き付けるのには十分なほどの間、じっくり見入らせてもらった。
広い空の牧草地には、オージー牛がのびのびと放牧されていた。何か羨ましくなる環境だな、なんて思ったり。
草原の中に流れる小川に差し掛かった時、友人が魚屋に変わった。
車を停めてこの小川を覗き込むと、にわかに何やらトカゲがバシリスクばりに水面を走ってあっと言う間に対岸の木立へと姿を消した。これは速すぎて残念ながら影しか見えなかった。
川の畔には小さな水溜りが出来ていて、その周りの泥地には翅上面に小宇宙を描いたようなリュウキュウムラサキが数羽、吸水に来ていた。また、キャラメルバニラのミックスアイスにチョコレートのトッピングをしたみたいな色をしているアフィニスカバマダラは水辺に咲く花にとまっていた。
それから川岸の木の樹冠に咲いた小さくて白い花には、嘴が黒黄バンドのキスジミツスイと茶色で地味なコゲチャミツスイの混群が吸蜜に来ていた。
レインボーフィッシュの仲間
しばらくしてこの小川で「ガサガサ」をしていた友人を見に行くと、控えめな配色のレインボーフィッシュの仲間と、もう1種グラス・エンゼルみたいに魚体が透明の魚が採れていた。
広い、広い平原。
よく見ると、平原の上を地面すれすれにオーストラリアツバメがたくさん飛び交っていた。
平原を言葉もなく眺めていると、目の端に1頭の哺乳類が映った。
スナイロワラビー(Macropus agilis) Agile Wallaby
野生のワラビーを見るなんて初めてのことなものだから、私は相当はしゃぎ喜んだ。
具体的にどのぐらいかというと、例えば少なくとも初めてホンシュウジカを見た時の5倍は嬉しかったと言える。
スナイロワラビーは見つけた時には既にこちらに気付いていて、二足で立ち上がって耳をピンと立ててこちらの様子を伺っている。私達とは50m以上は離れていようというのに、しばらくするとピョンピョンと跳ねて行ってしまった。
【2010/03/05/オーストラリア Cairns,Australia;Mar. 2010】
アオツラミツスイ(Entomyzon cyanotis griseigularis) Blue-faced Honeyeater
お昼頃になり、森の中にあるこのキャンプ場でも日向を歩いていれば平原を歩いているのと暑さ的には何も変わりないことに気付き始めた私は、この気だるい暑さにいよいよ参ってきた。
そこで名案。受付事務所の裏側の木陰に、見れば備え付けの椅子が森に向って置いてあるではないか。それにここには鳥も多い。そこで私達はこの椅子にどっかりと座って、涼しい日陰で座りながらの鳥見と洒落込むことにした。
例え動かなくても、蚊を心配することはもうない。何故ならば、昨晩スーパーマーケットで買ったオーストラリア名物の虫除けスプレー、DEET20%配合の「ブッシュマン」といういかにも効力の強そうなヤツをしこたま体に吹き付けたからだ。ただ欠点を挙げるとすればこの虫除けスプレー、噴射すると鼻を突く刺激臭がして、度々顔をしかめずにはいられないほどであった。後にこの虫除けスプレーを冗談で友人に向って吹き付けたら、しばらく口を利いてくれなくなってしまった。
「におい」というのは記憶に繋がっているもので、この強力な虫除けスプレーの臭いは、後に「DEET臭」「オーストラリア臭」として私達の間で懐かしまれることになるのであった。
この場所にやってきた鳥の中で最もインパクトのあるものは、大型のミツスイであるアオツラミツスイ。このミツスイは全長およそ30cmほどもありながら、木々がよく茂った場所でもサクサク動く。明るい場所ではすっとんきょうな顔をしているけれど、暗い林内では写真のよう瞳孔が広がってやや優しい表情になる。何より名前にもある通り、この顔にある皮膚の裸出部が青色、というのがすごい、顔が青ざめたヤツである。写真の個体は若鳥の証である黄緑色が皮膚裸出部後方上部にまだ少し見られる。
コキミミミツスイ(Meliphaga notata mixta) Yellow-spotted Honeyeater
このコキミミミツスイはアオツラミツスイに比べて体も小さければ性格も控えめで、枝にとまってしばらく動かずにいた。
キミミミツスイ、コキミミミツスイ、ハシボソキミミミツスイのそれぞれ似た3種は、体の大きさや嘴の太さ、虹彩の色などがそれぞれ異なる。
コキミミミツスイなんて名前はもはや早口言葉で、連続する「ミ」をうっかり多めに言ってしまいかねない。
シラフミツスイ(Xanthotis macleayana) Macleay's Honeyeater
ちょうどムクドリほどの大きさのシラフミツスイはミツスイの中でも1番警戒心が薄いようで、花の蜜を夢中で飲んでいるシラフミツスイが気付いたときには1m以内に居た、ということが度々あるほど。
ミツスイの仲間には口角が淡色のラインになるものがいるけれど、例えばこのシラフミツスイは巣立ったばかりというわけではない。
ベニカノコバト(Geopelia humeralis humeralis) Bar-shouldered Dove
このベニカノコバトは、チョウショウバトやカノコバト同様に尾が長くて、飛翔時に尾を開くと葉型になった。羽先が黒くて鎧のように見えるのは背面のみで、体下面はほのぼのしたパステルカラーをしている。
【2010/03/05/オーストラリア Cairns,Australia;Mar. 2010】
イワトカゲの仲間(Bellatorias sp. ?)
日向はとてつもなく眩しいけれど、日陰はとてつもなく暗い。森の中に一筋の光が差し込んだ部分はこの明暗がより顕著に見える場所だ。こんなスポットライトを当てたような舞台で、1匹のスキンクがバスキングをしていた。このスキンク、体の太さが恵方巻きか、それ以上ほどもあり、初めは丸太でも転がっているのかと思ってしまった。しばらくスベスベな体表を反射光でピカピカに光らせていたけれど、私の接近に気付くと面倒くさそうにのそのそと歩き出した。
顔や背面に黒い(鳥でいう)軸斑が乏しいことや側面の赤味が強く黒味が弱いことを除けばMajor Skink(Bellatorias frerei)が最も妥当なのだけれど・・・。
このキャンプ場の受付事務所にはちょっとした売店もあり、物色しているととある本が目に付いた。
“ Freeze! ”
ハードボイルドなオジサマがアカビタイサンショクヒタキを格好良く構えてる!
この本を見つけた瞬間、私は目尻に涙を浮かべながら腹がよじれるほど笑い転げた。
このグッジョブな表紙デザインを考えた人と是非ともお友達になりたいものである。
ベニカノコバト(Geopelia humeralis humeralis) Bar-shouldered Dove
街にはチョウショウバトやカノコバトが多いけれど、森に隣接したこのキャンプ場にはベニカノコバトが多い。羽の先端が黒いので、特に後頸なんかは鱗を纏ったように見えるところが格好良い。
フヨウチョウ(Neochmia temporalis temporalis) Red-browed Finch
群れでやって来て一斉に採餌を始めたこのフヨウチョウは、嘴と眉斑、上尾筒と腰が赤い蛍光マーカーで塗り潰したような色をしている。この鳥もまた街にもいるシマコキンやシマキンパラと違って森林棲の鳥。手前の、眉斑がなく嘴も黒い個体は幼鳥。
【2010/03/05/オーストラリア Cairns,Australia;Mar. 2010】
シラオラケットカワセミ(Tanysiptera sylvia) Buff-breasted Paradise-Kingfisher
オーストラリア3日目。
オーストラリアの森の朝は鳥の声でとても騒がしい。この鳴き声の数だけ鳥がいるのか!と圧倒されてしまうほどに。
その中でもキバタンの声は特に目立つ凶悪な声で鳴いている。また、私がキャンプ場内を歩いていると、シャイなチャイロモズツグミが地面で地味に採餌していた。小さな池のほとりの暗がりには、頭から胸にかけてが明るい茶色で美しいミナミオオクイナがジッと潜む。
後頸がオレンジ色のベニカノコバトは、雄が羽毛を膨らませ尾を広げて立ててディスプレイしながら雌に走り寄っていたけれど、雌はお気に召さない様子で逃げ回っていた。
同じくヤブツカツクリの雄も雌を追いかけまわしていたけれど、こちらも逃げられ放題。
両者共に、想いにまかせて雌を追いかけすぎなのではないだろうか。
対してジェントルマンなフヨウチョウの雄は、雌の前で小さな葉っぱを嘴に加えて斜め上方を向き、なんとその場でヒョコヒョコと上下に伸び縮みを始めたではないか。
フヨウチョウの雌は雄のこのアピールが気になるのか、隣でジッとみつめていた。
なんと微笑ましい光景だろう・・・!友人と2人で見ていて、思わず顔が緩んでしまった。
ベニカノコバトやヤブツカツクリもフヨウチョウの雄を見習ったらどうだろう、なんてお節介な事を思う。
そう言えば今朝がた、暑くて寝苦しいため真っ暗な早朝に一度目を覚ました時、寝ぼけ耳に「アカショウビンが酔っ払ったような」鳴き声が聞こえていた。けれども、もしかしたらそれは夢かもしれないと思っていた。
ところが今もまた、その「アカショウビンがお腹を壊したような」声が森の奥から聞こえるではないか。
次の瞬間、声の聞こえた森の暗がりから白くて長い中央尾羽をたなびかせながらスーッと直線的に飛び、林縁にある木の枝の低い位置、明るみに出てきた世にも美しい鳥がいた。
そう、それは今回の旅の目標の1つでもあった憧れのシラオラケットカワセミだったのだ!
ずっと遭いたかった!夢にまで見た天使のような鳥が、目の前にいた。まるでデイドリームでも見ているような心地だ・・・。
シラオラケットカワセミは枝にとまると、長い尾をピコピコと上下に振る。茂った場所でも構わずテイルフリックするものだから、たまに尾が枝につっかかっていた。これではそのうち引っかかって尾羽が切れかねない。
そう言えば、鬱蒼とした森の中を歩くと、林床にはバスケットボール大ほどの丸いシロアリのアリ塚がいくつもあった。リュウキュウアカショウビンがタカサゴシロアリの巣を利用するように、シラオもまたこのアリ塚を穿孔して、中で子育てをする。例えば別の個体のシラオがアリ塚に入る様子を何度か見た。
雨季も終わりに近づき、繁殖期をほぼ終えた彼らは、もうすぐパプアニューギニアへの渡りの時期を迎える。
この個体は、木の低い位置にとまっては地表を見つめ、何度も地面に降りては虫を食べていた。海を渡るための体力補給に忙しいのだ。
【2010/03/05/オーストラリア Cairns,Australia;Mar. 2010】