暗闇の舞台と夜行生物

2011-02-12 17:23:34 | 哺乳(Mammals)


ワライカワセミ(Dacelo novaeguineae) Laughing Kookaburra


ワライカワセミと思う存分遊んでいたら、いつの間にかもう写真が撮れないほど真っ暗になっていた。夏休み中の子どもが時間を忘れて遊び、気が付かないうちに日が暮れてしまうような感覚だ。

夜。
そうでなくても歩こうと思っていたので、キャンプ場のオーナーからナイトハイクをしないかと言われた時には是非、と二つ返事で答えた。




ハナナガバンディクート(Perameles nasuta) Long-nosed Bandicoot



黒い森の茂みでガサガサと音がしたと思えば、ハナナガバンディクートが林床を歩いていた。私達の気配に気が付いた鈍くさいハナナガバンディクートは、ぴょんと残念な跳躍力で跳ねて闇に消えた。
先程ワライカワセミと遊んだ開けた果樹園のあたりには、灰色味の強いシモフリバンディクートもいた。霜降りだなんて、なにやら高級食用肉になりそうな名前をしているものだ。




メンフクロウ(Tyto alba delicatula) Barn Owl


背の高い樹の、上の方にある洞には、世にも可愛らしいメンフクロウがすっぽり収まっていた。メンフクロウはその美白顔でくるくる首を動かして辺りを伺っている。

私達の接近に驚いてか、樹冠に枯れ草で作られた塒に寄り集まったオナガテリカラスモドキが騒ぎ出し、黒いテリオウチュウが2羽ひらりと飛んだ。また、立ち枯れた古い木には小さなオーストラリアズクヨタカもいる。
遠くではアオバネワライカワセミが怪しい声で夜鳴きしていた。

車中泊をするにあたり、車の窓を開ければ私達が蚊の豪華ディナーになるし、窓を閉めればサウナ地獄になってしまう。どうしたもかと悩んでいると、KFPキャンプ場の優しいオーナーが「蚊帳」を貸してくれた。とてもありがたい。
この蚊帳と、蚊取り線香を駆使することで、一度も蚊に刺されずに熟睡することが出来た。何より嬉しかったのは、飢えた吸血鬼達の嫌な羽音を聞かずに済んだことである。

※オーストラリアでは、決められた場所以外での車中泊は違法であり、5万円相当の罰金が科せられるので注意が必要です。



【2010/03/03/オーストラリア Cairns,Australia;Mar. 2010】


モスキート・シュトゥルム

2011-02-11 13:09:27 | 鳥(Birds)


ワライカワセミ(Dacelo novaeguineae) Laughing Kookaburra



先ほどまで低い丸太の上から餌を探していたワライカワセミが、バサリと飛び立ち今度は私のすぐ真上の樹にとまった。
人が居ようと居まいと、ワライカワセミはあくまでもマイペースに行動を続けるのだ。

この間にも、軽く100匹は居ると思われる吸血性の蚊が私を取り巻き、手加減無しで刺しにかかってくる。100匹という数字は決して大げさなどではない。私を中心に蚊の嵐、モスキートサイクロンが渦を巻いていた。
私は考えた。蚊に気を取られて、ワライカワセミを堪能出来なければここまで来た意味がない、と。
ワライカワセミはその無垢な微笑みをこちらに向けている。
そして私は遂に、無我の境地に達した。
膝に、顔に、腕に手に、全身に、無数の蚊がとまり、服の上からでもお構い無しにその尖った口吻を私の肌に突き刺したが、私は御仏のような穏やかな心持ちを保ちつつ、意識の全てをワライカワセミだけに向けていた。







【2010/03/03/オーストラリア Cairns,Australia;Mar. 2010】


クカバラのディナー

2011-02-10 06:46:04 | 鳥(Birds)


ワライカワセミ(Dacelo novaeguineae) Laughing Kookaburra



オーストラリアでは、灼熱の日差しが照りつける真昼間に活動すると、すぐに半熱中症状態に陥ってしまう。ヨーキーズノブを後にしてから何もしていないというのに、パームコーヴ(Palm Cove)あたりでまたどうしようもなく体が重くなってきた。
そこで私達は、今度は大型スーパー「Coles」に入ってみることにした。
このColesは、先ほどの小さなスーパーに比べて品物の価格が格段に安かった。Colesでは日本のカップラーメンやらマレーシアに行った時に見つけて気に入った炭酸飲料「100plus」まで置いてあり、品揃えが豊富で嬉しくなる。

Colesスーパーで喉を潤し、備え付けのベンチでしばしの休息の後、私達は本日宿泊予定のKFPキャンプ場を目指して一路北上した。
途中、キジバンケンやオオオニカッコウが前方の道路を飛んで横切る。
オオオニカッコウなど名前からして物々しいが、名前の通りゴツく、見た目はまるでサイチョウ類のような風貌をしている。
キャンプ場をいつの間にか通り過ぎていたことに気づいた頃、道路沿い、民家の電線に何かがとまっているのに気が付いた。
はじめ、何か猛禽かと思ってしまった。そのくらいのガタイの良さをしている鳥がいたのだ。






双眼鏡で確認すると、なんとそれはワライカワセミであった!
まずその大きさに驚いた。想像していたより遥かに大きいではないか。そして、民家の小さな庭の電線などにとまっているという意外性にもまた驚かされた。

またその民家の横の木立にはちょっとした水場があり、よく見るとそこに色んな小鳥が来ていた。
コキミミミツスイ、ナマリイロヒラハシの雌、そしてキスジミツスイも交代制で水浴びに興じている。


もうかなり薄暗くなった頃、やっとこさキャンプ場に辿り着くと、そこは鬱蒼とした森の中であった。
私が車から外へ一歩踏み出すと、顔にもモヤッとした小虫の群れが当たる。それは蚊柱だった。
日本の渓流沿いなんかでよく見られる蚊柱は往々にしてユスリカの仲間で構成されていて、気管に吸い込んでしまう危険性を除けば、吸血性もないから無害だ。ところがここオーストラリアではそんな常識は少しも通用しないみたいである。なんとその蚊柱全体が私めがけて襲い、吸血しにかかってきたではないか!
私は「冗談でしょ?」と驚嘆と恐怖の入り混じった声で叫びながら走ってその場から離脱した。

ただでさえ鬱蒼として薄暗いのに夕暮れでより暗くなったキャンプ場内を歩くと、シラフミツスイ、コキミミミツスイ、フヨウチョウ、ベニカノコバト、モリショウビン、メンガタカササギビタキなどが顔を見せる。
ひとたび立ち止まると蚊の餌食になるため、歩き続ける他に選択肢は存在しないのだ。
キャンプ場裏、少し開けた牧草地に出ると、高い木の上ではキバタンが世にも心地悪い声で鳴いている。
ナツメヤシの実には、信じられない数のオナガテリカラスモドキの群れが集まっていて、あっという間に群れ全部が飛んでいった。飛んでいった先には木の枝にかけられた巣があり、そこを塒にしている様子である。

キャンプ場の奥へ行くと、林道の入り口に短い丸太が門のように2本立っていた。
そしてその2本の丸太の上には、2羽のワライカワセミが向き合ってとまっていたのだ!まるで門の番をするガーゴイルのようであった。
しばらくすると1羽はどこかへ飛んでいったけれど、もう1羽は私のことは特に気にしていない様子に見える。
観察をしていると、ワライカワセミは丸太に乗ってしばらく地表を見下ろして、時折ぱっと地面に舞い降りては昆虫を捕まえて食べていた。
さっきまで賑やかだった夕方の森の喧騒も静かになる頃、地面に降りたワライカワセミの背後を、静かにオーストラリアツカツクリが歩いていった。











【2010/03/03/オーストラリア Cairns,Australia;Mar. 2010】


灼熱の昼下がり

2011-02-09 21:43:53 | 鳥(Birds)


ズグロトサカゲリ(Vanellus miles miles) Masked Lapwing



―モリショウビンやアオマメガンを見ていたら、いつの間にか昼になっていた。

あまりの暑さに絶えかねて慌ててスーパーに駆け込んだところ、物価の高さに驚いた。
何の変哲も無いジュースやビスケットが日本円にして1つ400円相当もするのだ・・・。このままではいづれ所持金が足りなくなるのではないかとゾッとした。
空腹と喉の渇きに耐え切れずに高価なジュースとバナナ、それにオーストラリア名物のTimtamを買い込んで日陰でほおばっていると、大きな声で鳴く鳥がいた。街路樹を見上げると、それはとんでもなく派手なチャートリュースカラーをしたメガネコウライウグイスの雄だった。

民家の近くでは鳥の巣が目立つ。
例えば鉢植えにキバラタイヨウチョウのものと思しき「釣り巣」型をした巣がぶらさがっていたり、植え込みにいくつもの使い古しの巣があったり。探せばいくらでも見つかるのではないかというほど、そこら中に鳥の巣があった。この巣の多さが、オーストラリアの鳥の多さを物語っているようだ。




インドハッカ(Acridotheres tristis) Common Myna


暑さをしのぐため、限られた日陰で休むインドハッカ。
店の裏の植え込みには、スズメみたいにぱらぱらとシマコキンの群れが降りてきた。
写真の個体は若鳥だけれど、シマコキンの成鳥は明るい茶色の胸と黒い顔、クリーム色の腹がチョコレート菓子のようでなんともお洒落。




シマコキン(Lonchura castaneothorax) Chestnut-breasted Mannikin


両側に牧草地や農耕地の広がる広い道沿いでは、トラクターの車輪跡に雨水が溜まってできた小さな湿地で数羽のズグロトサカゲリと無数のインドハッカが採餌していた。
ズグロトサカゲリは接近する私達の存在に気が付くとケリのように「ケケケッ!」と鳴くけれど、鳴くばかりで全く逃げようとはしなかった。




ズグロトサカゲリの翼角から生えた爪はとても鋭い。実は本気になったら恐い?


車を路肩に停めて、道路から少し歩くと、サトウキビ畑に隣接したユーカリ林があった。その林の上には、美しいハチクイの群れが翼を殆ど動かさずグライダーのように飛ぶ。林の中にはグレーでシックな羽色のパプアオオサンショウクイや黒くて地味なテリオウチュウがいた。

この辺りで、本当に体が動かなくなってきたことに気がつく。
あまりの暑さで、頭は朦朧となり汗は滝のように流れる始末。
毎回、暑さに限界を感じた時にやっと見てみる友人の温度計は38℃を指している。これはマズイ。
思えば、この時間帯に日向で作業をしている現地人はほとんどいなかった。そして鳥達は暑さのあまり口をあんぐりと開きっぱなしなものが多い。
これ以上活動するとぶっ倒れると本能的に思い、可及的速やかにその場を後にした。







【2010/03/03/オーストラリア Cairns,Australia;Mar. 2010】


ユーカリ林の宝石

2011-02-08 21:15:17 | 鳥(Birds)


モリショウビン(Todiramphus macleayii incinctus) Forest Kingfisher


営巣中のヨコフリオウギビタキにトリッキーな飛行でモビングを受け、仕方なくとまる場所を移したモリショウビン。
深い蒼に、淡いカワセミブルーを重ねた美しい背面をしている。






このモリショウビンには、明瞭なマロマユ(麻呂眉)が確認できる。マロマユとは、柴犬の眉斑をイメージすればお分かりいただけるだろうか。その眉は、オーストラリアに在りながら日本の古都、平安京を彷彿とさせる。

地面に座り込みモリショウビンを観察していると、透明感のあるオリーブグリーン色の腹部をしたツムギアリが、てけてけと私の腕を歩いていた。私が眺めていると、ツムギアリはおもむろに私の腕に咬み付いた。気付けば何匹ものツムギアリが私にとりついており、次々にあちこち咬まれてしまった。
ユーカリの木よく見ると、たまに葉を汚らしくまとめたボールのようなツムギアリの巣が付いている。



【2010/03/03/オーストラリア Cairns,Australia;Mar. 2010】