NATO首脳会談で米仏が激突 「NATOは脳死」のフランスと「脱退」のアメリカ
2019.12.05(liverty web)
写真は昨年のNATO首脳会議の様子。写真:Alexandros Michailidis / Shutterstock.com
《本記事のポイント》
- NATOで米仏首脳会談が行われるも、対立が目立つ
- トランプ氏はNATO離脱を示唆するも、NATOの戦力拡大に貢献
- NATOは歴史上初めて、中国の脅威を議論
北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が3~4日にかけて、英ロンドンで開かれた。会議は、NATO創設70周年を記念して開かれた。それに合わせ、米仏首脳会談が個別に開かれたものの、両国は重要なテーマでことごとくすれ違い、立場の違いが浮き彫りとなった。
対立を加速させたのは、マクロン仏大統領が英誌エコノミストのインタビューで語った「NATO加盟国を守るのに、アメリカを頼りにすることはできない。現在、私たちが経験しているのはNATOの脳死だ」という発言。国防費の増加などを求めるアメリカは、NATOを機能不全に追い込んでいると批判した。
これにトランプ米大統領は、「マクロン大統領のNATO脳死発言は侮辱的で不快だ。フランス以上にNATOを必要としている国はないのに、彼はNATOを去ろうとしている」とこき下ろした。だがマクロン氏は、「発言は改めない」と息巻いている。
NATOの戦力は強化されている
米仏の対立は、軍事支出の増加以外に、気候変動や、フランスが導入した「デジタル課税」などでも見られる。それでも「両国の絆は固い」とアピールするが、隔たりは大きい。
欧州各国に国防費の増額などを迫り、「不協和音をもたらしている」と批判されるトランプ氏。同氏は「NATO離脱」を示唆したことがあるため、「史上最強の同盟」と評されるNATOを崩壊に追い込んでいると見る向きもある。
しかし、トランプ氏のショック療法的な改革により、NATOはむしろ格段に強化されているという見方もできる。
トランプ氏の圧力により、NATOの加盟国は、2019年の国防支出の合計額が前年より4.6%増える見通しで、5年連続のプラスとなる(アメリカを除く)。国内総生産(GDP)比で2%以上の国防費を達成する国は、全加盟国29のうち、9カ国に増えた。
トランプ氏は「私のおかげで、アメリカが守っている他の加盟国の国防費負担は、1300億ドル(約14兆1500億円)増えることになった」と自画自賛している。
NATOは国防費を増やしたことで、即応能力を高めることができる。NATOは、米ソ冷戦の終結で生じた「平和ボケ」から目を覚ましつつあるとも言える。
NATO史上初、中国の脅威を議論
さらに、ロシアやテロへの脅威に備えてきたNATOの役割に、「中国の脅威」を付与する方向に舵を切りつつある。今回の会議に先立ち、NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長はこう述べた。
「NATO史上初めて、我々はNATO加盟国の首脳らと中国の増大について協議する。これには可能性と挑戦が含まれる。我々は防衛力への投資を含む中国の成長を目にしている。(中略)今や中国の軍事予算は、アメリカに次いで2番目だ」
中国に対する脅威の認識が、5Gをめぐる中国企業ファーウェイの排除につながっている。
確かにトランプ氏は、NATOを崩壊させているかもしれない。だが、それは"伝統的なNATO"の役割を放棄するという意味だろう。中国の脅威に備える強大なNATOに生まれ変わるのなら、話は別だ。そしてトランプ氏は、恐らくそう考えているのではないか。
(山本慧)
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