イーロン・マスク氏は、同じ実業家のビベック・ラマスワミ氏とともに、二期目のトランプ政権で、新設された諮問委員会である「政府効率化省」(Department of Government Efficiency、DOGE)のツートップに就く。

 

政府支出の2兆ドル(約316兆円)削減という"非常識な目標"を掲げる同氏の動向に、アメリカ国民ならず、世界の人々が注目している。

 

本誌2025年1月号の「霊的で宇宙的なイーロン・マスクとは何者か」では、火星を目指す志や、まるで「宇宙人」のような個性的な人物像を紹介した。

 

本欄では、マスク氏の心の中に描く「ビジョン」とリーダーシップの源泉に迫る。

 

 

「感動的な価格の感動的な製品がない会社は、たいした会社ではない」

マスク氏は、再利用可能な宇宙ロケットである「ファルコン」シリーズや美しいデザインと高性能を備えたEV(「モデルS、X、Y」「モデル3」)を世に送り出してきた。

 

スティーブ・ジョブズ氏がマッキントッシュ(PC)やiPhoneやiPadなどを生み出したように、創業者が自ら新製品のビジョンを描き、道を拓いた成功例でもある。

 

「無理だ」と言う技術者の尻を叩いて「不可能」とされてきた限界に挑戦し、新製品を生み出したところが、マスク氏とジョブズ氏とでは共通している。

 

マスク氏は、「基本的に、感動的な価格の感動的な製品がない会社は、たいした会社ではない」と語る(ジェシカ・イースト編『イーロン・マスクの生声』)。

 

例えば、マスク氏がロケットの自作を思い立ったのは、技術者から当時のロケット製造に関する情報を集め、完成品の値段が原材料費の50倍にもなることを知った時である。

 

この時、マスク氏は「いくらなんでも高すぎる」と思った。当時、宇宙工学や物理学について独学で何カ月も勉強していたので、技術者から聞いたコストを一覧表にして、自分でその一つひとつをどれぐらい節約できるのかを計算した。すると、その累計が自己資本(当時、120億円程度)と借入金などで実現可能な規模になった。この発見が事業構想の原点となる。

 

31歳頃、マスク氏は仲間と共に創業したオンライン決済企業「PayPal(ペイパル)」を追われ、新しい事業を始めるべく、読書と思索にふける日々を続けていた。そうした地道な努力の中で、自分のつくるロケットの姿が見えてきた。そのビジョンを元に、全てのコストを記入した一覧表を見せられた技術者は驚愕する。

 

そこにはロケットの製造、組み立て、打ち上げに必要な材料コストが網羅されていた。小型人工衛星や実験用搭載物の打ち上げを専門にすれば、既存の打ち上げ会社よりもはるかに安くミッションを達成できることが示されていたのだ。

 

さらに、「火星を目指す」という念願から逆算すると、ロケットを使い捨てにしていては、何度作って打ち上げても、目標にたどりつけないことに気づく。マスク氏がつくった再利用可能なロケットは、繰り返し使えば使うほど、使い捨ての頃よりも投資の効果が倍増する「感動的な価格の感動的な製品」である。

 

最終的には、NASAの10分の1以下の開発コストでそれをつくってしまった。

 

 

「5~6歳の頃、外界と断絶して1つのことに全神経を集中させる術を身につけた」

こうした天才的な構想力の起源は、幼少時にまでさかのぼる。

 

マスク氏は少年時代に「ときどきボーっとなって心ここにあらずといった状態に陥る」ことがあったが、実は、その時に白昼夢を見ていた。