トランプ大統領はなぜサプライサイド経済学を支持するのか(2)「世界は奇跡に満ちている」トランプ大統領の軍師ラッファー博士の世界観
2020.09.04(liverty web)
画像はラッファー博士提供。
《本記事のポイント》
- 経済は神様からの贈り物
- 宇宙の神秘と美とを維持することが私たちの仕事
- 生かされていることを知った人がつくった「サプライサイド経済学」
前回は、サプライサイド経済学は、ものづくりなどに従事する生産者側に従事する供給側のインセンティブを高め、彼らの「やる気」を引き出すことを主眼に置いていたものだと伝えた。それは民間の活力を高め、依存よりも自立を促す。その結果、自分の人生に責任をとれる人々を増やし、国民の自尊心を高めるものだということを見てきた。
さらに現トランプ政権下で行われている「オポチュニティー・ゾーン」は、ラッファー博士がシカゴ大学の博士課程時代に考案した政策だ。全米1500カ所で行われているこの構想は、集中的な減税政策や規制緩和で、貧困地域に投資や仕事を呼び込むことを企図した。
サプライサイドは、富裕層に有利で「おこぼれがない」と左派からの批判があるが、自由主義的な福祉政策で、スラム街に住む貧しい人々をも救う政策もあることを第1回で指摘した。
サプライサイドが実践されたレーガン政権時代や、コロナが流行する前のトランプ政権時代は、アメリカで生産性が高まり、高い経済成長を記録。魂の創造的な面に着目し、「与える側」に立つ人を増やす経済学が採用されたからこその成果であった。
今回は、そんなサプライサイド経済学の背景にあるラッファー博士の哲学にもう一段、迫ってみたい。
「経済は神様からの贈り物」
博士の考えの前提にある世界観について、取材時に教えてもらったことがある。以下、当時のやり取りを詳しく紹介する。
記者(以下──)あなたは、本当に才能に恵まれています。
ラッファー博士: 私が才能に恵まれていると言えるとしたら、次の点にあると言えるかもしれません。
私はお金を得たり、権力を満たそうとしたり、他者の人生をコントロールするためではなく、純粋に経済に対する興味関心から経済学の研究を始めました。そして分かったことがあります。それは、私たちを取り巻く世界は、奇跡に満ちているということです。
例えばここにある椅子を見てください。多様な人がいて生産が行われたからこそ、椅子がここに存在するわけです。それ自体が驚くべきことです。私たちが経済と称しているものは、本当に「神からの贈り物」なのです。
───アダム・スミスのようですね。
ラッファー博士: まさにアダム・スミスです。(博士の事務所にある彫刻を指さして)そこにある彫刻はどうやってできたのでしょうか。なぜレストランに食品は滞りなく届いているのでしょうか。そんなことを考えたときに思い出すのは、ミルトン・フリードマン博士の「鉛筆」のたとえです。博士は、何千人もの、同じ言語を話すわけでも、同じ宗教に属するのでもない1000人もの人が、中央政府の指示命令もなく、鉛筆の製造にかかわっていると話していましたね。
経済を前にすると畏怖の思いに打たれる
ラッファー博士: 彼と同じく、私も経済を前にすると畏怖の思いに打たれます。私がここに存在するのは経済をコントロールするためというよりも、理解するためだといってよいでしょう。
それはちょうど宇宙のようでもあります。どうやって宇宙が始まったのでしょうか。それ自体が驚きに満ちています。ほかの遺伝子と出会ったら、あなたはその特徴を次の世代に引き継ぐことさえできます。でもどうしてそんなことができるのでしょうか。そもそも進化はどうして起きたのでしょうか。この世界は、奇跡に満ちた宇宙なのです。
神様は親切なことに、私が「世界で何が起きているのか」を理解しようと試みるに十分な大きさの頭脳を与えてくれました。他の人をコントロールするためではなく、ダーウィンやハクスリーのように「宇宙とは何か」を探究したのです。イエール大学やスタンフォード大学でMBAや博士号を取得するなどしましたが、これまでの教育はそのためにあったといえます。その教育が、私にこの宇宙を理解する力を与えてくれたのです。
宇宙の神秘と美とを維持することが私たちの仕事
──それがポール・クルーグマンとあなたとの大きな違いですね。
ラッファー博士: そうです。彼は権力、お金、名声を得ようとしています。すべて間違った動機です。
あなたとは世界観をシェアできると思っていますので、他の人にはお伝えしないお話をしましょう。
この宇宙はそもそも私たちがいなくてもうまく回っています。この地球ができてから45億年の歳月が経ちました。あなたと私の仕事は、この宇宙の美と神秘とを維持することにあるのです。ちなみにクルーグマンは、ビックバンのときにいませんでしたね(笑)。
「Primum Non Nocere」(害するなかれ)
ラッファー博士: 身体の機能には、人間の免疫機能がありますね。外科医が手術をする際には、この免疫システムを妨げない形で手術するのが大事です。
私の人生観もこれと同じです。それはラテン語の"Primum non nocere″という言葉で表されます。「害するなかれ(Do no harm)」という意味です。すべてのものにはラテン語の"Vis medicatrix naturae″が意味する自然治癒力があるからです。
レーガン政権下では、他の誰とも異なる政策が行われました。「介入して立ちふさがるのではなく、介入を取り除く(Don't just stand there, Undo something)」ということをモットーに、税を取り除き、規制を取り除き、自然の宇宙から政府を取り除いたのです。
するとその間、繁栄がやってきました。
これが私の世界観であり人生観であり、物理や科学、家族すべてを見るときの原点になっています。このような見方をする場合、この異なった世界観を持つと、異なった解に導かれるのです。(『ザ・リバティ2019年3月号』参照)
生かされていることを知った人がつくった「サプライサイド経済学」
記者が今回のコロナ不況に対する対策としてラッファー博士に対応策を聞いた際、「私なら何もしない」という返事をくれた。そして「でも政府はあっという間に数兆ドル(約数百兆円)を使うだろうから、そうするぐらいなら給与税の減免をする方がいいとトランプ大統領にアドバイスをした」という。
この言葉の背後にあるのは、上のインタビューでも紹介した「害するなかれ」という哲学だ。
インタビューを行った後に、博士は著書の裏表紙にサインと、ラテン語で「Premum non nocere」と書いて手渡してくれた。「害するなかれということが大事なんだよ」という博士の嬉しそうな顔は忘れられない。ラッファー・カーブの前提にある世界観である。
政府の介入に抵抗し、どんな時もぶれずに小さい政府を実現しようとする博士には、「世界は奇跡に満ちて見える」という感謝に満ちた眼差しがあった。それは博士の「経済は神様からの贈り物なのです」という表現に、よく現れていると言えるだろう。
自由は幸福の基で、それはとりわけ失われやすい。だが博士は、そういった次元のみから議論を展開しているわけではない。
「宇宙の神秘と美とを維持することが私たちの仕事なのです」。そんな博士の言葉を聞くと、政府の介入によって、本来そこにあった宇宙の神秘と美とが失われてしまうという悲哀に満ちた切迫感と呼んでもよいものがあることが感じられる。またそのような切迫感を持ちえない経済学者は、傲慢さがつきまとうケインズ経済へと流され、大きな政府を目指す福祉国家論者となってしまう。
遠い過去から現在に至るまで、神の見えざる手によって生かされ導かれ、政府がコントロールするよりも素晴らしい世界を人類は享受してきた。そんな悟りからサプライサイド経済学は誕生し、今も世界を繁栄へと導く道標となり、その使命を果たしている。
(長華子)
【関連書籍】
『仏陀は奇跡をどう考えるか』
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『トランプ経済革命』
スティーブン・ムーア、アーサー・B・ラッファー共著
藤井幹久 訳 幸福の科学出版
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