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想像の旅---船乗りのホームポート

2017-06-25 | 地球の姿と思い出
脳梗塞とリハビリ(5)から続く。

1.想像の旅
今年1月5日に退院してから早や半年、今はリハビリ代わりに家内と二人で近くのコーヒーハウスでくつろぐ日々を過ごしている。昨年の今頃はヒューストン旅行を目前に多忙な日々だったが、現在との差は大きい。

過去の人生はエンジン全開(Full Ahead)、今後は出力70%程度の巡航速度で、のんびりとメンタル・タイム・トラベルを楽しもうと思う。その出入り口はコーヒーハウス、そこには過去の記憶と未知の想像が背中合わせで同居する。ファミレスのコーヒーハウスがいつの間にか、アドリア海やカリブ海に面したコーヒーハウスに変化する。

たとえばトリエステ、ベージュ色の建物が並ぶ海岸通り、その先に岸壁がある。トリエステはベニスの東方約120km、スロベニアに接する人口20万人ほどの静かな貿易港である。筆者の書棚に飾る小さなガラスのピエロはトリエステで買ったものである。その隣は、ウィーンで使用していた手巻きの目覚まし時計、その隣はブダペストの木製の花瓶、その後ろは著者のサイン入りの童話、海岸で拾った貝々・・・書棚は過去への入口だらけである。

            トリエステの港(絵はがき)
            

筆者はトリエステに詳しいわけではないが、人びとはフレンドリー、静かな落ち着いた街である。街の歴史は古く、紀元前(BC)のローマ時代から政治的な変遷があったが、今はイタリアである。路面電車やカフェや坂道、その雰囲気は神戸、サンフランシスコ、ウィーンに似ている。ハプスブルク家ゆかりのカフェは有名らしい。

あるときイースター休暇でベニスにホテルが取れず、代替のホテルをトリエステにした。毎日、トリエステとベニスの往復、長い編成の夜行列車がトリエステに近づくとき、右に張り出した海岸を走る。車窓の右数百メートル先を走る列車の明かりを別の列車と思ったが、さにあらず、筆者の列車の先頭部分だった。

銀河鉄道が空に昇るような光景、その記憶がトリエステという言葉と共に今も目に浮かぶ。ホテル近くに市場があり、夜間営業の食堂も良かった。電灯に煙る料理の匂いと人びとの姿、言葉は通じないが味は良かった。舌平目や貝料理を覚えているが、今でもイタリアといえば魚介類の料理を思い出す。

トリエステに関するもう一つの思い出。それはホテルのチェックアウトだった。勘定を終えた時、マネージャーに呼び止められた。予約で払ったホテル代が過大だったという。ウィーンに帰ったら差額を旅行社に返還してもらいなさいとのことだった。ホテルの部屋、食事、サービスに問題はなかったが、マネージャーの親切心に感謝した。ウィーンで差額の返還はあったが、担当者は退社していた。日本ではあり得ないが、外国ではいろいろなことがある。

2.船乗りのホームポート(母港)
コーヒーハウスがある岸壁は、筆者を想像の旅に連れだす「ほのるる丸」のホームポート(母港)でもある。1960年代の高速貨物船「ほのるる丸」は、今では時空を超えて世界を旅するまぼろしの船に変身した。

下の写真は、筆者が切り張りした想像の港である。写真中央の黒い船は「ほのるる丸」、右手前は想像のコーヒーハウスである。(実は、この写真の「ほのるる丸」は横浜山下公園の氷川丸(NYK客船)の映像である。)

            船乗りのホームポート(母港・・・合成写真)
            
            注:上の写真は複数の写真を切り張りした空想の港である。

過去・未来の天測歴を備えたまぼろしの「ほのるる丸」は、太陽系の空間を航行できる船である。【天測歴:太陽、月、惑星と45個の(航海)常用恒星の位置を日付別に収録した天文航法用のデータベース、天体の位置と時計に狂いがなければ電波を利用する計器航法より精度は高い。アポロ計画の飛行士が使用した航海用のセキスタント(六分儀)はNASAに展示してある。】

航行中の「ほのるる丸」の食事風景は昔とおり、サロンの席順も変わりなくキャプテン以下航海士・機関士・通信士・事務職員は制服、黒服のウエイターは右腕に白いナプキン&左手に丸盆を持って控えている。船が大きく揺れても、ウエイターたちが厚手木綿の白いテーブルクロスに水差しで水を打てば、食器が滑ることもなくサロンに混乱はなく整然と食事は進む。「お笑いテレビ」のワーワー・キャーキャーとは別の世界である。なお、日の丸を掲げる船舶や航空機は日本の領土、刑法・民法なども日本の法律、大切な祝日にはサロンに紅白の幕を張り、特別料理が出る。
【参考:「ほのるる丸」の食事風景、日本の将来---5.展望(18):日本の食品・サービス

上の岸壁は、筆者が好きなハイビスカスやブーゲンビリアなど、色鮮やかな花が咲き乱れている。気候は、短時間のスコールを除き気温はやや高めで湿気はなく、透明な青空が広がる。当分、この架空の港を筆者と「ほのるる丸」のホームポートとして、想像の旅に出かけたい。

昨年は、ヒューストン大学の次はアレクサンドリアの図書館と決めていたが、脳梗塞で海外旅行を断念した。その無念さを晴らすために時計を巻き戻して、次回(来月)はかの有名なアレクサンドリアの“古代図書館”を訪ねることにした。

アレクサンドリアの古代図書館について、筆者が書籍やインターネットで収集した情報は、おおむね次のとおりである。

1)紀元前300年頃~BC47年頃の戦争までアレクサンドリアに存在した図書館。
2)当時のプトレマイオス朝が支援した大規模な図書館。学術研究機関(ムセイオン)と薬草園も併設。
3)文学、地理学、数学、天文学、医学などの書籍70万巻を所蔵、ヘレニズム文化が栄えた。
4)アルキメデスをはじめ古代の有名な科学者が滞在した。人材も育成した。
5)アレクサンドリアに入港した船から書物を没収、原本を蔵書、写本を返還。これを船舶版と云った。
6)当時の社会生活のレベルを推察するに必要な情報が存在した筈。
7)BC47年の戦禍と再建、虫害と数次の戦禍、AD391年にキリスト教徒の破壊で消滅した。

以上の情報で高度な学術都市が浮かび上がる。しかし、歴史ものには「講釈師、見てきたような嘘をつき」や「また聞き」と「勝手な想像」による情報の変質もある。この点に注意したい。

さらに、図書館とは直接的な関係はないが、次の情報も興味深い。

前回に紹介した「世界の文字とことば」(町田和彦編、執筆者100名、河出書房新社、2014/8)の「世界の文字分布地図」は、下の図に示すとおりである。なお、言語は専門性が高く執筆者も多くなる。

 世界の文字分布

 出典:「世界の文字とことば」(町田編)の表紙裏見開きページをコピー。
 筆者の追加情報:文字の分布を分かり易くするため、赤色楕円形と四角形を追加した。
  赤色の楕円形⇒ラテン文字(欧州、アフリカ、南アジア、豪州、南北米州6地域)
  赤色の四角形⇒ギリシア文字、アラビア文字、キリル文字、漢字、漢字&かな文字(日本)
  その他の文字⇒ヘブライ、グルジア、エチオピア、ペルシア、ウルドゥー文字など20文字

上の図を補足すると次のようになる。
1)ヨーロッパ地区はラテン文字となっているが、英語、仏語、独語、西語、伊語、ポル語、、、の文字の発音、文法には違いがある。また、各言語にはそれぞれ固有の文字がある。たとえば、仏語のç(
cédille:セディーユ)や独語のß(Eszett:エスツェット)。
2)今日、世界の現用文字(日刊紙が使用する文字)は28種【参照:中西印刷株式会社のHP】、他方、世界の言語の数は5,000~7,000だが、正確な数は把握できないと云うのが定説。
3)したがって上の図が示唆することは、新聞・情報誌・インターネット記事の情報は氷山の一角に過ぎず、世界には隠れた情報が計り知れないほど多い。ただし、知る必要があるか否かは別問題。
4)すでに消滅した多くの文字や言語や文明・帝国、たとえば中南米のオルメカ、マヤ、インカなどは、上の図に表れない。「滅びたもの」と「滅ぼされたもの」を両極端に、変化し続ける人類の歴史は複雑である。日本語がこの分布図から消えないことを祈る。

以上のことを参考に、まずは、アレクサンドリアへの“想像の旅”をスタートする。その旅はありきたりの観光でなく、自分の英語力を確認する旅になる。

続く。

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