幻のコンパクト・シティー(2)から続く。
ときどき丸い地球を遠くから眺めると、その球面にバーコードのような縞模様が浮かんでくる。日本列島の縞模様の左側は奈良・平安時代らしい。よく見るとその縞模様は超LSIらしく、いろいろなデータが見え隠れする。
奈良時代の縞は緑色、遠足で行った若草山の色である。平安時代はサクラ色、女流作家たちに由来する色だが牛車や“丸干しイワシ”も見える(紫式部の好物?)。江戸時代には大店と大福帳が見える。店先で番頭や丁稚・女中たちが甲斐々々しく働いている・・・バーコードを辿るメンタル・タイム・トラベルは楽しく、時を忘れる。
(3)大福帳からデジタル・データベースへの脱皮
2020年代初頭の日本では、行政のデジタル化が大きく遅れていた。ペーパー(紙=書類)を中心とするシステム、たとえば住民台帳は江戸時代の大福帳*とそっくりだった。大福帳という言葉で思い出すが、1970年頃の“時代遅れの生産管理システム”は“大福帳システム”と揶揄された。いま思えば、製造業と行政には同じ日本でも50年ほどのギャップがあったと云える。
【参考*:大福帳=江戸商家の売買勘定元帳、それは近代簿記の総勘定元帳(G/L:General Ledger)に該当する。近代の複式簿記では決算時にはG/LからB/S(貸借対照表)、P/L(損益計算書)、C/F(キャッシュ・フロー計算書)などの財務諸表を作成する。G/L、B/S、P/L、C/Fは中高校生レベルのエクセル(表計算ソフト)でほぼ自動的に作成できる。】
さらに余談になるが、あの頃はコロナ対策の一つとして"持続化給付金”があった。コロナ禍に苦しむ事業主を救済する給付金だったが、申請から支給までのペーパー・リード・タイム(paper lead time=書類処理時間)が月単位の遅さだった。中には資金繰りが付かず無念の廃業もあったと聞いた。その理由は、申請内容を書類の山に埋もれて人手で精査、担当者たちの激務も空しく時間を浪費した。もし、適切に整備されたコード体系とデータベースがあれば、数秒で済むような作業に思えた。
このような苦い経験を踏まえて、現在(2030年代初頭)では行政システムの再構築も進んだ。即時性に優れたオンライン・データベースを中心とする行政手続きが実現、日本もようやく世界の平均に追いついた。歴史を振り返ると、日本の2020年代は大福帳からデジタル社会への転換期だった。
(4)デジタル・センター(Digital Center)
ペーパーからデジタルに脱皮した国政は、全国数千ヵ所に展開するコンパクト・シティーにデジタル・センター(Digital Center)を開設した。ここに言うコンパクト・シティーは差し渡し500mほどの広場、そこでは大概の用事を徒歩で済ませることができる便利な場所である。
広場の一角を占めるデジタル・センター(DC)では行政、ATM、郵便、公共サービスの手続きをワン・ストップ(one-stop)で済ませることができる。もちろん、事前予約は不要、多少の制約はあるが年中無休である。デジタル・センター(DC)の1階にはコーヒーや軽食のフード・コートがある。人が出入りするところには必ず“食”があるのは有史以来の習わしである。
2階には数十台のオンライン画面が並び、だれでもその画面を利用できる。もちろん、画面操作が不慣れな人はヘルプ・デスクに助けを求め、また手続きの相談もできる。当然のことだが、ヘルプ・デスクは有資格者、秘守義務を負う人たちである。
行政手続きでは、昔は人が役所に出向いたが今は人が画面に役所を呼び出す形に変化した。見かたにもよるが、日単位の仕事が今ではエラー・チェックを含めて数十秒から数分で完結する。当然だが、手続きをする人と役所双方にとってこの変化は画期的、特に役所の機能、陣容、立地の見直しの切っ掛けになりそうである。
役所でコンピューターが人に代わって動(働)き始めた・・・デジタル化で先行する工場、倉庫、車両運転では無人化は稀ではない。
多くの公務員(2018年、国家&地方計約330万人)が働く役所のデジタル化は、単にそこに働く人の問題だけでなく、法制度、国家資格の見直し、さらにはその日本社会への波及効果が大きい。その様子は、山肌のあちこちに起こる小さな雪雪崩(ユキナダレ)が誘発するであろう次の変化には未知数が多い。
その一部は次のような形で顕在化する:
◇ペーパー・ワークのデジタル化:手作業の減少と人口減少の補てん効果、余裕時間の増加
◇オフィスの省スペース化:テレワークによる組織のコンパクト化、不要事業所・什器の整理
◇オフィス・アワーの変化:通勤客の分散と流れ、都市機能(オフィス・店舗街)の変化
◇専用/汎用各種ロボットの導入:ロボットの役割広範囲化とロボット言語の標準化
◇都市機能と交通網の見直し:人/日用品の混載移動ネットワークの構築
◇進出先とのテレワーク促進:国内外スタッフ間の協業(経営視界の即時性/高密度化とコンパクト化)
・・・
続く。