小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

タックスヘイヴンとグローバル資本主義のゆくえ(その1)

2016年06月02日 18時44分31秒 | 経済
      



2016年4月、ロンドンで行われた、反緊縮財政デモ。10万人が参加したと伝えられる。


以下の文章は、パナマ文書のリークによってにわかに世界的話題となったタックスヘイヴン問題をめぐって、フェイスブック上で美津島明氏との間に交わしたやりとりを転載したものです。まず私が4月25日、パナマ文書に関する新 恭氏の「日本政府がタックスヘイブン対策に消極的な理由」という論考http://www.mag2.com/p/news/181248?utm_medium=email&utm_source=mag_news_9999&utm_campaign=mag_news_0425 をめぐって、次のようなコメントを投稿しました。

タックスヘイヴンについての新恭(あらた・きょう)氏の以下の記事は、実態をよくとらえており、消費増税などによる国民へのしわ寄せを批判している点で、基本的に共感できるものですが、次の引用部分に関しては、抽象的で納得がいきません。タックスヘイヴンにため込まれている資金は単なる内部留保であり、何ら生産活動に寄与していないのですから、これに対して一国の政府が自国企業の所得や資産として課税を強化することが、どうして「世界経済戦争にのぞむ自国の企業の不利」に結びつくのかよく理解できないのです。どなたか経済に明るい方、この人の指摘が正しいかどうか、教えていただけないでしょうか。
【以下、新恭氏の論文からの引用】
「節税でも脱税でもなく、いわばグレーゾーンにある租税回避は、いまやグローバル資本主義になくてはならないものとして組み込まれている。それだけに、各国政府としても、税収奪還を厳しくやれば世界経済戦争にのぞむ自国の企業に不利というジレンマに悩んでいるのが実情だろう。」

それに対して美津島氏から、次のようなコメントをいただきました。その後、氏との間でパナマ文書やタックスヘイヴンをめぐるやり取りが続きました。美津島氏が私にバトンタッチしたところで中断していますが、これは、論題が、行き着くところまで進んだグローバル資本主義のゆくえという大変大きな世界史的テーマに及び、よくよく考えた上でないとヘタなことは言えないという感想を私が抱いたからです。とりあえず、現段階までをここに掲載することにいたします。

●美津島→小浜
別に、経済にそれほど明るいわけではないのですが、小浜さんの疑問に関して自分なりに分かっていることを申し上げます。まず、「内部留保」の解釈について。これは、会計学上のいわば俗称のようなもので、貸借対照表(いわゆるバランスシート)の借方の「資産」から貸方の「負債」を差し引いた「資本」から税金・出資者への配当金・役員賞与など外部に支払われる金額を控除した残高を「内部留保」と言っています。単なる計算上の数値ですから、とても抽象的な概念なのです。別に企業の金庫にそれだけの金額が貯め込まれている、というわけではないのです。それゆえ「内部留保」が、具体的に資産としてどう運用されているかは、特定のしようがないわけです。つまり、現金預金として貯め込まれているのか、有価証券に化けているのか、設備投資に回ったのか、あるいは、タックスヘイヴンでぬくぬくと太っているのか、特定のしようがないわけです。だから、小浜さんがおっしゃるように「何ら生産活動に寄与していない」とは言い切れないというか、もともとそういう言い方となじむ概念ではない、と言えるでしょう。長くなりそうなので、まずここまでよろしいでしょうか。腑に落ちない点があれば、なんでもおっしゃってください。

●小浜→美津島
ご回答ありがとうございます。なるほど、「内部留保」が設備投資などのかたちで生産活動に寄与している可能性があることは理解できました。もしその部分が大きいことが確証されるなら、グローバル競争に直接関与していることも考えられるわけですね。しかし、依然として、一国の政府がタックスヘイヴンにプールされる資金への課税を強化することが、そのまま自国企業の海外での敗北に結びつくという論理がすっきりと理解できません。国際競争に勝つために大切なのは、あくまで世界の需要に応えるべく、良い品やサービスを安く提供するための生産活動そのものだからです。一国だけ突出して課税強化に手を付けると企業の資本が逃げてしまうと「何となく」「みんなが」思っているために、思い込みが常識となって力をふるっているのではないでしょうか。考え方によっては、他国(この場合はタックスヘイヴン)の法人税と自国のそれとに差がないならば、企業は海外展開にそれほどうまみを感じなくなって、国内需要のために生産拠点を自国に移そうとするというシナリオも想定できるように思うのですが、ちがうでしょうか。もっとも、タックスヘイヴンに合わせて自国の法人税を無条件に下げるというのでは、かえって法人税低下競争が起こり、よけい税収を確保できなくなるわけですが。重ねてご教示いただければ幸いです。

●美津島→小浜
ご返事、ありがとうございます。「依然として、一国の政府がタックスヘイヴンにプールされる資金への課税を強化することが、そのまま自国企業の海外での敗北に結びつくという論理がすっきりと理解できません」。小浜さんのこの疑問を意識しつつも、しばし遠回りをすることをご容赦ください。というのは、ここには現代資本主義の行く末を考える上でとても大きな問題が潜んでいるような気がするからです。端的な物言いをして溜飲を下げてみてもしょうがないと思うのですね。さて、内部留保の抽象的な性格については、ご理解いただけたものとして、次に、グローバル企業の内部留保が拡大傾向にあることについて、どう理解すべきかを考えてみたいのです。内部留保の拡大とは、マルクス経済学の用語を使えば、「資本の自己増殖運動」そのものです。マルクス(あるいは、宇野経済学の目を通してみたマルクス)は、資本主義の本質は、労働力の商品化によって剰余価値を獲得する「資本の自己増殖運動」であると述べています。その指摘が正しいとするならば(私は正しいと思っています)、内部留保の拡大は、資本主義の本質がむき出しになったものであると言っていいでしょう。分かりやすく擬人法を使えば、内部留保の拡大は、資本主義の本能の表れである。で、そのような資本主義の本能の露出を許したものは、1980年代からの、デフレの招来を不可避的に伴う規制緩和という名のグローバリズムである。と、ここで生徒が来てしまいました。とりあえずここまでで投稿してしまいます。なにかあれば遠慮なくおしゃってください。

(ここで、一日、間が空きます)

続きです。前回申し上げたことをまとめると、規制緩和という名のグローバリズムは、宇野経済学の用語を借りれば、「資本主義の純粋化」をもたらす。すなわち、資本の自己増殖運動という資本主義の本質を鮮明化する。言い換えれば、資本主義の本能を解き放つ。以上です。ここで、タックスヘイヴンにご登場ねがいましょう。グローバル企業は、タックスヘイヴンの守秘法域という性格と避税機能とを活用することによって、資本の自己増殖過程への国家権力の介入を能う限り遠ざけることができます。そうすることで、グローバル企業は、グローバリズムの「意思」を体現することになる。で、グローバル企業間の競争の本質を、「資本の自己増殖の度合いの競い合い」ととらえるならば、「一国の政府がタックスヘイヴンにプールされる資金への課税を強化すること」は、明らかに、国家権力による資本の増殖過程への介入を意味し、資本の自己増殖の度合いの競い合いというゲームに興じているグローバル企業の足をひっぱることになるのは間違いない、ということになります。一国が、グローバリズムを国是としているかぎり、そういう事態は避けるべきもの、危惧すべきものである。そのような「グローバル国家」が、法人への課税強化を「自国企業の海外での敗北に結びつく」と認識したとして何の不思議もありません。で、国家権力を担う政党は、グローバル企業がタックスヘイヴンを活用して資本の自己増殖ゲームに興じるのを認めるかわりに、巨額の政治献金を受け取ることに甘んじる、というスタンスに落ち着くことになりましょう(日本を含む欧米諸国の有力政党は、左右を問わず、そうなっているようです)。勢い、法人が払わなくなった税金は、消費増税という形で、一般国民からせしめる。本当のことを言ってしまうと国民が暴れだすので、あの手この手でだまくらかして、消費増税をしぶしぶ認めさせる。おおむね、そういうことになっているのではないでしょうか。そうして、行きつく先には、ハイテックなスーパー人頭税国家が待っている。それが、グローバル企業バンザイの新自由主義者が夢に描いている国家の未来像のようです。その場合、国家権力は、グローバル企業のために、一般国民に重税を課す大番頭のようなものに成り下がることになります。マルクス経済学において、労働者は、産業資本と契約を結ぶことで自分の労働力を搾取の対象とされることを余儀なくされます。でも、一応「契約」が介在しているわけです。しかし人頭税国家において、一般国民は「契約」の手続き抜きに、国家権力という大番頭を介して、グローバル企業から税金を搾取されることになるのですね。21世紀の純粋化された資本主義が、19世紀の産業資本主義の退廃形態という一面を有するゆえんです。

●小浜→美津島
恐ろしいシナリオをまことに「生き生きと」描き出していただきました。「資本主義の本能」にそのまま添うかぎり、国民国家としての防壁(民主主義もその重要な要素)は次々に崩され、国家はグローバリズムの奴隷と化していくわけですね。これは、柴山桂太氏が『静かなる大恐慌』(集英社新書)の中で紹介していた、ダニ・ロドリック教授のいう「国家主権、グローバリズム、民主政治」のトリレンマのうち、前二者が最後のものを駆逐してしまう状況を意味しています。タックスヘイヴンについては興味本位の陰謀論が飛び交っているようですが、ことの本質は、国家権力がグローバリズムに全面的に加担し、格差を極大化して中間層、一般庶民を奈落に突き落としてゆく、その過程にどのようにブレーキをかけるかという問題です。これは近著『デタラメが世界を動かしている』(PHP研究所)でも触れたのですが、世界の富裕層80人の資産が世界人口の半分、36億人のそれに匹敵するそうです。さてどうするか。マルクスの剰余労働価値説は私も正しいと思いますし、彼の分析した資本主義の末期症状が今まさに当てはまる状態になってきたと考えられます。しかし彼は私有財産の否定と暴力革命の肯定とを二つの大きな思想理念としていましたから、現在これをそのまま受け入れるわけにはいきません。彼は生まれてくるのが早すぎた思想家だったと言えるでしょう。資本主義と法治主義を守りながら不当な格差の問題をどのように解決するか。私たちの時代の難問はここにあります。トマ・ピケティ氏が提案した富裕層への累進課税率の引き上げも、彼自身が実現困難と認めています。多極化した現在の世界で「せ~の!」でやるわけにはいかないからですね。グローバリズムに対抗するには、まさにグローバリゼーションそのものへの規制ルール、特に資本移動の過度の自由を規制するルールを、問題意識を共有する有力国家群が一致協力して決める以外にはないと思います。ところで、4月30日放送の「チャンネル桜」で、高橋洋一氏が大蔵官僚としてのかつての経験を踏まえて、合法的である租税回避を摘発することはたいへん難しく、訴訟になるとかえって国が負けてしまい、何千億も取られてしまうと語っているのが印象的でした。節税と脱税の間に線を引くのは困難で、しかも大企業や顧問弁護士は自分を守るために何百億もかけて必死で抵抗するからだというのです。これはおそらく正しいでしょうね。感想も含め、お返事いただければ幸い。
http://www.nicovideo.jp/watch/1461917084
1/3【討論!】パナマ文書と世界経済の行方[桜H28/4/30]
◆パナマ文書と世界経済の行方パネリスト: 有本香(ジャーナリスト) 川上高司(拓殖大学海外事情...

●美津島→小浜
上記の討論会を拝見しました。元大蔵官僚の高橋氏の話は、おっしゃるとおり、現場感覚にあふれていて大変参考になりますね。タックスヘイヴンを利用した、大企業や富裕層の避税に関して、金融機関や会計事務所や弁護士が知恵を絞っているので、いくら疑わしくても、裁判で勝訴して税金をぶんどるのは極めてむずかしいというお話など、なかなか説得力がありますね。しかし、討論の全体的な印象としては、パナマ文書をめぐってのアメリカの陰謀説、アメリカによる中共政府叩き、などに話が偏っていて、パースペクティヴがやや狭いという感じがしました。そこで、と言っては何ですが、『アングラマネー』や『世界経済の支配機構が崩壊する』などの著者・藤井厳喜氏の、タックスヘイブンをめぐってのロング・インタビューがあり、それがタックス・ヘイヴン問題をめぐっての見通しの良いパースペクティヴを与えてくれるよう気がしますので、その写しを小浜さんにお送りし、情報の共有を図ったうえで、改めてお話しを続けるというのでいかがでしょうか。

(以上の手続きを経たうえで)

話しを続けましょう。藤井氏によれば、タックスヘイヴンは、米ソ冷戦のはざまで生まれました。石油・天然ガス・金・材木などの一次産品を売った代金としてのドルを(国家間の貿易は通常ドル建てで行われます)、当時のソ連は、アメリカに預けていました。しかし、冷戦が先鋭化するにしたがって、ソ連は、それをアメリカから凍結される危惧を抱くようになりました。それで、そのお金をロンドンのシティに持っていきました。それが当時は、正体不明のユーロ・ダラーと呼ばれました(昔、新聞記事に登場するユーロ・ダラーなるものがよく分からなくて苦慮したのを覚えています)。シティは、もともと歴史的に治外法権の地で、女王陛下でさえも当地区に入る場合、シティの市長の許可を得なければならないほどです。その特権をフル活用して、シティは、ユーロ・ダラーをイギリス国内法の規制を逃れるものにしてしまいました。イングランド銀行もそれを黙認するほかはありませんでした。で、シティは、イギリス王室属領(ジャージー島など)・英国海外領(ケイマン諸島など)・旧英国植民地(香港など)を取り込んで複雑化な蜘蛛の巣状のタックスヘイヴン・ネットワークを構築しました。アメリカは、それを後追いした形なのです。つまり、イギリスは、タックスヘイヴン先進国であり、タックスヘイヴン立国であるといえるでしょう(これは大きなポイントです)。タックスヘイヴン問題の転機が訪れたのは、2001年の9.11事件です。アメリカは、当事件をきっかけにテロ対策に本腰を入れ始めたのです。テロを撲滅するには、その資金源を断たねばなりません。そこでアメリカ政府は、アルカイダなどのテロ組織の資金源としてのアングラマネーを追跡し、それをロンダリングするタックスヘイヴンに着目することになります。ところが、タックスヘイヴンには、テロ組織のみならず、名だたるグローバル企業や大富豪の巨額のマネーが行き来していることが判明したのです。それは、1980年代以来の規制緩和の敢行によって、日本を含む欧米のグローバル企業が「資本主義の本能」を解き放たれ、資本の自己増殖過程を貫いた結果である、と言っても過言ではないでしょう。で、アメリカは、タックスヘイヴンそれ自体を規制の対象にし、その縮小を図ることでテロ資金の撲滅を実現しようとしてきたし、している。その延長上にFATCA(ファトカ)があり、さらには、パナマ文書流出問題がある。これが、一番大きな文脈でパナマ問題をとらえた言い方なのではないかと思われます。その場合、まっさきに追い詰められつつあるのは、テロ組織は当然のこととして、タックスヘイブン立国のイギリスなのではないかと思われます。アメリカ主導でタックスヘイヴンの規制が進めば進むほど、イギリスは行き場を失くし、危険な賭けに出る危険が高まる。その現れが、人民元帝国構想の一環としてのAIIBへの参加であり、ウクライナ紛争への資金供与である。藤井氏の論にしたがえば、そんな風にとらえることができるのではないでしょうか。

●小浜→美津島
藤井厳喜氏のインタビュー記事、ありがとうございます。たいへん参考になりました。ここで言われていることは、おおむねそのとおりと思いますが、FATCAに対する期待感が少し楽観的に過ぎるのではないかと感じました。というのは、FATCAは明らかにアメリカ政府が自分の国益のために設立して他国(スイス、ロンドンのシティなど)の合意を半ば無理やり取り付けたもので、これが真の意味の公共精神に根差しているとは思えないからです。FATCAの場合、アメリカ本土以外のタックスヘイヴンに対しては、たしかに守秘法域と租税回避を解除させるために、企業名や金額を教えないとアメリカに投資させないという脅しをかけ(これは一定程度成功したようですね)、また「教えてくれればウチに投資しているお宅の企業情報も知らせてあげるよ」という交換条件で各国政府に協力を呼びかけたわけですが、これが果たして税の公正な徴収や貧富の格差の是正に結びつくのかどうか。というのは、ご存じのとおり、第一に、パナマ文書は、アメリカの政治家やグローバル企業の名前が今のところ発表されていません。第二に、アメリカ国内には、すでにサウスダコタ州、ワイオミング州、デラウェア州などにタックスヘイヴンが存在すると言われています。以上の事実を素直に受け取るなら、アメリカ政府のFATCA実施の目的は、行き過ぎた資本移動の自由やその結果としての極端な貧富の格差に規制をかける所にあるというよりは、むしろ他国に流れている資本を本国に呼び戻す所にあると考えられます。これはたとえて言えば、横に広がっているものを自分中心の縦軸に集めるということです。そうすることによって経済的覇権を取り戻すわけです。もしそうだとすると、美津島さんがいみじくも「グローバル国家」と呼んだ(私の知るかぎり、グローバリズムと国家とを対立項としてでなく一つに結合して見せたのは美津島さんが初めてではないかと思います)事態がまさにアメリカという超大国において実現しつつあることになるわけで、政府はグローバリズム資本と癒着して国家はグローバリズムの奴隷(つまり「大番頭」)になり下がるわけですね。そこでは官許アングラマネーもさぞかし跋扈することでしょう。OECDの建前上の努力も、しょせん先進国政府と国際金融資本によっていいように操られるのではないでしょうか。国際金融資本は世界に冷戦や紛争などの不安定要素を作り出すことによって利益を生み出すというのは、今日ほぼ常識となっていますから、彼らが金の力にものを言わせるかぎり、当分世界平和の維持や公正な所得の実現などは夢のまた夢。産業資本主義時代に生きたマルクスの、「生産力と生産関係の矛盾が極限に達して桎梏に変じた時、必然的に矛盾の止揚としての革命に発展する」という予言は、この金融資本主義の時代においてこそ不気味なリアリティを持ってきます。アメリカ大統領予備選でトランプ氏が共和党候補として確定し、サンダース氏が大健闘しているのも、この経済的矛盾を最も体現しているのがアメリカだからと言えそうです。どちらもウォール街に反感を持つ貧困層の圧倒的な支持を受けているからです。今後もし革命が起きるとしたら、まずはアメリカか、はたまた中国か。

●美津島→小浜
興味深い論点をたくさん提示していただきながら、すぐに返事ができなかったことをお詫びいたします。さて、一点目。パナマ文書がアメリカの国益を体現する勢力によって漏えいされたと仮定したうえで、その目的は「他国に流れている資本をアメリカ本国に呼び戻す所にある」のかどうか。小浜さんは、そうではないかとおっしゃっていますね。私としても、格別それに異を唱える理由はありません。というより大いにありえることでしょう。なぜか。その理由の核心は、国際関係ジャーナリスト・北野幸伯氏が言うように「いまのアメリカの最大の課題は、いかにして低下しつつある覇権国の地位を維持するかである」ということに深く関わります。覇権を維持するうえでの最大のポイントは、なんでしょうか。世界最強の軍事力を維持することはもちろんでしょうが、そのためにも、ドルは基軸通貨(国際通貨)であり続けなければなりません。ドルが基軸通貨であるかぎり、アメリカは、いくら双子の赤字で苦しもうとも、いくらでもドルを刷って他国から好きなだけ物品を輸入することができます。つまり最強の経済力を維持することができます。で、逆に、ドルが基軸通貨でなくなれば、双子の赤字は、いまのギリシャのように、アメリカ経済の首根っこを締め付けることになり、GDPは激減を続け、アメリカは覇権国家の地位から陥落することになるでしょう。では、いかにしてドル基軸通貨体制を維持するか。それは、世界の金融資本地図においていまだに大きな(隠然たる)力を保有し続けているイギリスはロンドン・シティの世界大のタックスヘイブン網を潰し、そこに滞留している巨額のドルを自国内のタックスヘイヴンに流入させることによってでしょう。つまり、イギリスから金融立国の地位を奪い、ウォール街を世界金融資本の唯一の中枢にすることによって、ドル基軸体制はとりあえず保たれる。アメリカの権力中枢がそう考え、ウォール街がそれに加担したとしてもなんの不思議もありません。それは、中共に傾斜し経済における事実上の同盟関係を築きつつある英国の国力を衰退させ、英中の絆を分断することで、中共をけん制する、という安全保障面からも理にかなった考え方でしょう。米中新冷戦時代において筋道の通った意思決定であるといえるでしょうね。しかし他方で、5月10日の「ヴォイス」にコメンテーターとして出演した藤井厳喜氏によれば、オバマは、デラウェア州・ワイオミング州・サウスダコタ州などの国内タックスヘイヴンに介入すると言明してもいます。https://www.youtube.com/watch?v=MFieATtz5X4&app=desktop タックスヘイブン情報を他国と共有・交換するFATCAの実施に至る、アメリカのタックスヘイヴンとの長い闘いのきっかけが、2001年9.11事件にあることを思い起こせば、それもむべなるかなと思われます。もしも、覇権国維持のためにアメリカが世界で唯一のタックスヘイヴン国家になってしまうと、アメリカは、イスラム原理主義のテロ勢力にタックスヘイヴンを通じて巨額の軍資金を与える最有力・テロ支援国家になってしまうわけです。それは困る、というわけで、オバマは「国内タックスヘイヴンに介入する」と言明するのでしょう。ここには、明らかに矛盾があります。つまり、アメリカは、衰退する覇権国であるがゆえの大きな矛盾を、タックスヘイヴンをめぐって抱えこんでしまっている。この矛盾をどう昇華するか、という問題は、おそらく、今後の世界史に大きな影響を与えてしまうことでしょう。ここをもう少し引き延ばすと、小浜さんの「今後もし革命が起きるとしたら、まずはアメリカか、はたまた中国か」というもうひとつの論点につながるような気もします。しかし、ひとつの論点をめぐって、字数をたくさん費やしてしまいました。とりあえずここまでで、バトンタッチします。