小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

水道の民営化を阻止せよ

2018年01月17日 11時26分17秒 | 政治



いよいよ、「水道民営化」法案(水道法改正)が、1月22日から始まる通常国会に上程されます。
この法案がいかにひどい考え方にもとづいているかは、すでに「三橋経済新聞」で、三橋貴明さんや島倉原さんが詳しく指摘しています。
https://38news.jp/economy/11490
https://38news.jp/economy/11500

要するに、地方財政が逼迫しているために、民間企業に上下水道の運営権を売却し(コンセッション方式)、その売却益を、自治体が政府から借りている負債(財政投融資)の返済に前倒しで充当させるというものです。
しかもそのお金も、政府は支出の増加に充てるのではなく国債の償還に充てるのだろうと、島倉さんは鋭く見抜いています。
そうに違いありません。

この法案では、
運営権売却に際して地方議会の議決が不要となるほか、
運営企業の利用料金設定も届け出制にする
と謳われています。
つまり、民間企業が勝手に料金を決め、勝手に管理運営を行うわけです。

財政が逼迫していない東京都までも売却を構想中です。
また、すでに多摩地域では、昭島市、羽村市、武蔵野市以外の市町では水道部門がありません。
水道業務を行っているのは、PUE、東京水道サービスといった、東京都水道局の外郭団体である株式会社です。
http://suigenren.jp/news/2017/03/10/9066/

水道の民営化については、第二次安倍政権成立後間もない2013年4月に、麻生財務大臣がワシントンで、
日本のすべての水道を民営化する
と言い放って周囲を驚かせたのが有名です。
http://www.mag2.com/p/money/312562

4年後の2017年3月には、その言葉通り、水道民営化に道を開く水道法改正が閣議決定されました。
このように、国民不在のまま、水道民営化路線は着々と進められてきたのです。

水道民営化が、電力自由化、労働者派遣法改正、農協法改正、種子法廃止と同じように、
規制緩和路線(グローバリズム)の一環であることは言うまでもありません。
これにより、外資の自由な参入、水道料金の高騰、メンテナンス費用の節約、故障による断水、
渇水期における節水要請の困難、従業員の賃金低下、水質悪化による疫病の流行の危険
などが
かなり高い確率で起きることが予想されます。

ちなみに現在の日本の水道管はあちこちで老朽化していて、これを全て新しいものと取り換えるには、
数十兆円規模の予算がかかると言われています。
しかしいくら金がかかろうと、国民の生命にかかわる飲料水が飲めなくなる状態を改善することこそは政府の責任でしょう。
それを放置して、すべて民間に丸投げしようというのです。
正しく公共精神の放棄です。

民間企業は利益にならないことはしません。
例によって、外資のレントシーカーたち(主としてフランスのヴェオリアとスエズ)の餌食になることは目に見えています。

浜松市では、2017年の10月にヴェオリアと契約し、下水道の運営を委託しました。
2018年の4月から実施されることになっています。
浜松市民の今後が思いやられます。
https://www.excite.co.jp/News/economy_g/20171101/Toushin_4370.html

フランスでは水道事業の半分以上をこれらの民間が担っているというのは、民営化論者がよく持出す根拠ですが、
そのフランスも、次のような状態になったために、パリでは2010年に再公営化に踏み切ったそうです。

フランス・パリでは1985年から25年間、スエズとヴェオリアの子会社が給水事業をおこない、
浄化・送水・水質管理業務は、SAGEP社(パリ市が70%を出資)がコンセッション契約で担当した。
すると2009年までで水道料金が2・5倍以上にはね上がった。
水道管が破損しても送水管や給水管の境界が不明確であるため、2つの水道会社が工事を押し付けあい、トラブルが続出した。

https://shanti-phula.net/ja/social/blog/?p=148552

「ではの神」が成り立たない典型ですね。
相変わらず、日本政府は「周回遅れ」をやっています。
しかも「水」という、広域にわたって住民の身体に直接かかわる物質の問題だけに、事態は深刻です。

このような水道民営化は、推進論者がうそぶくように、少しも世界のトレンドなどではありません。
それどころか、もうかなり前からその弊害が指摘され、反対運動も高まり、
再公営化した自治体が180にも上っているということです。
https://shanti-phula.net/ja/social/blog/?p=148552

経済評論家の高橋洋一氏は、この問題に関して詳しく調べもせずに、
水道事業の民間委託は『民営化』の成功モデルになる
などという無責任なヨイショ記事を書いています。
http://diamond.jp/articles/-/155402?page=4

消費増税に反対していたこの人が、すっかり御用学者ぶりを発揮しているわけです。
彼は、反対論者の提出する「弊害」例はボリビアなど、最貧国に近い極端な例ばかりで日本とは比較にならないと論じていますが、
そんなことはありません。
南米では、ボリビアだけでなく、アルゼンチン、ペルー、ウルグアイなど、民間企業が失敗したところは極めて広範囲にわたっています。
https://www.hurights.or.jp/archives/newsletter/section2/2007/05/post-246.html

先ほどのパリの例でも明らかなように、これらの民間企業は、先進国の都市部で失敗が続き撤退したからこそ、グローバル資本を利用して、
弱小国や日本のような免疫のない国を狙い撃ちしているのです。
また上述の再公営化を決めた180の自治体の中には、
ドイツのベルリンやマレーシアのクアラルンプールなどの首都も含まれています。

さらに、長峰超暉氏によれば、米アトランタでは、スエズ社の子会社によって水道事業が運営されていましたが、配水管が損傷したり泥水が地上に噴出したりして上水道の配水が阻害されてしまい、しかも復旧対応が大幅に遅れたことがあるそうです。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/07/post-7936_3.php

結局、2003年以降、アトランタ市でも水道事業が再公営化されています。

だいたい高橋氏の先の記事は、非論理的で実証性もなく、突っ込みどころ満載なのですが、その詳しい批判は、次の機会に譲りましょう。

それにしても世界最高レベルの濾過能力のある浄水場を持ち、飲料水として飲んでもほとんど害のない日本のきれいな水道水の運営を、
どうしてわざわざ外資を含む民間事業者に委ねる必要があるのでしょうか。


答えは簡単です。
初めに書いたように、いま多くの自治体は財政難で、しかも中央政府から十分な財政援助が得られないからです。

この20年間に政府の公共事業費は、約半分、ピーク時(平成10年)の五分の二まで下げられてきました。


またここ数年、地方の税収が増加していることを理由に、財務省は、
地方交付税を抑制する方向に
大きく舵を切っています。

https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_pol_yosanzaisei20161027j-05-w350

税収が増加していると言っても、それは都道府県によって相当な格差があります。
首都圏など人口増加の大きい大都市部が上に引っ張っているのでしょう。
一律に地方交付税を削減する理由にはならないはずです。

しかも多くの府県では財政難が以前からずっと続いているわけですから、
その事実を見ずに、そっちが増えているからその分こっちを減らすというのは、あまりに乱暴な論理です。

もし政府が適切な積極財政策を取り、総需要が伸びてデフレから脱却できてさえいれば、歳入も増えるわけですから、
地方交付税を減らす必要などないはずです。
そうすれば、地方も潤います。
昨年報じられたように、橋を架け替えられないので撤去してしまった自治体が出るなどという情けない事態は避けられたはずです。
危険に満ちた水道民営化などもまったく必要なくなります。

「自由化」という麗しい言葉にだまされて、またまた麻生氏に代表されるような、愚策に踏み込もうとしている政治家たちは、
いい加減に、犯人が財務省の緊縮真理教であることに気づき、これを退治することに全力を注ぐべきです。

最後に付け加えますが、
発展途上国に水道の民営化を勧めてきたのは、IMFであり、
そのIMFには、
多くの財務官僚や財務省OBが深く関与しています。
緊縮真理教とグローバルな民営化(規制緩和)路線とは、見事に結託しているのです。