小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

水道の民営化を阻止せよ・その2

2018年01月19日 16時01分26秒 | 政治


フェイスブックに、このブログの前記事「水道の民営化を阻止せよ」の掲載を告知したところ、石塚幾太郎さんという人から、たいへん詳しいコメントをいただきました。
https://www.facebook.com/i.kohama ">https://www.facebook.com/i.kohama

以下に掲げるのは、これに応えたものです。

水道民営化の問題は、国内政治問題としていま最重要と言っても過言ではないので、読者の皆さん、どうか最後まで読み通されることを願っております。

まず、結論的なことを申し上げますが、私の前ブログ記事の趣旨は、もともと次の点にあります。

①水道の民営化は政府の規制緩和方針の一環であり、私は、小泉政権以来の規制緩和路線をデフレ脱却のための成長戦略として位置づける考え方に、一貫して反対であること。
②この路線は、竹中平蔵氏に代表されるグローバリズム・イデオロギーにもとづいており、これは、日本国民の生活や日本の伝統を破壊する危険なイデオロギーであること。
③この路線は、緊縮財政を貫こうとする財務省の頑固な方針にまことによく合致しており、私は、この財務省方針こそが、長引くデフレと国民の貧困化をもたらしている最大の原因であることを一貫して指摘してきたこと。

ところで石塚さんは、コメントの中で、「少なくても『グローバル水企業に日本の水道が支配される』という事態にはならないと理解しています。」と書かれていますので、石塚さんご自身も、万一そういう事態になったら、それは危機的なことと考えていると理解できます。
私も日本の水道が「すべてグローバル水企業に支配される」と断定はしません。しかし、この間の水道法改正の流れや、日本の各自治体でのコンセッション方式による外資導入の動き、ことに今回明らかになった東京都の民営化方針の打ち出しなどを見ていると、「蟻の三穴」くらいはもう開いていると考えざるを得ません。これが、「自由はよいこと」「小さな政府」などの空気の席捲によって、今後全国に広まらないという保証はどこにもありません。緊縮真理教に染まっている財務省には、これほどうれしいことはないでしょう。また、この傾向が広まることが、国民生活の安全に取って、重大な危機に発展するという懸念は拭えません。

石塚さんが提供してくださった資料の中に、ご自身とYoshiko Matsudaさんという方とのコメントやり取りがありましたが、このなかに、次のようなMatsudaさんの意見があります。
https://www.facebook.com/groups/whatisTPP/permalink/1906350602919292/

「民営化するとサービスが低下して料金が上がる」これは日本でそうさせないためにも、起こり得る懸念として声高に言っておく必要がある事柄だと認識しております。

これが、普通の市民の方たちの平均的な感想だと思います。その上に、水の安全が脅かされること、外資系グローバル水資本に利益を掠め取られること、などの危険が伴うわけです。
しかし、石塚さんは、これらのまっとうな懸念に対して何ら答えていません。

また、石塚さんは、同じ記事の中で、麻生財務大臣の答弁を次のように克明に引用されています。

今、色々なアイデアが実に多くの人から出されているが、その中でと思っているのは、いわゆる規制の緩和です。規制の緩和、なかんずく医療に関して言わせていただければ、例えば日本では医療、介護用のロボットというのを作っています。事実、人間が思っているだけで手の方が勝手に動くと言うロボットはすでに開発されています。日本で。これをいわゆる介護用ロボットとして使う場合は、残念ながら日本の厚生省というところでは、ロボットを開発するに当たっての制度が全くありませんので、薬の開発する制度をそのままロボットに当てはめているため、臨床実験を何百回とやらされるため、その頃はそのロボットが古くなる。これが今の実態ですから、これに合わせて全く新しいシステムを作ろうとしている一つの例です。
このロボットは一つの例ですが、例えばいま日本で水道というものは世界中ほとんどの国ではプライベートの会社が水道を運営しているが、日本では自治省以外ではこの水道を扱うことはできません。しかし水道の料金を回収する99.99%というようなシステムを持っている国は日本の水道会社以外にありませんけれども、この水道は全て国営もしくは市営・町営でできていて、こういったものを全て民営化します。いわゆる学校を造って運営は民間、民営化する、公設民営、そういったものもひとつの考え方に、アイデアとして上がってきつつあります。


この答弁は、石塚さんも一部指摘しているとおり、間違いだらけですが、石塚さんは、この麻生氏の考え方に関して、同記事で、「注意して聞くと前後の文脈から、『介護ロボット認可の問題に続き、公が学校を設立し民間が運営するように水道民営化の規制緩和のアイデアとして日本で提案されている』と受け取れる。『全て民営化します。』と一旦話を切ったのが誤解を招く発言になったのだと思う。」と評しています。
しかし、この発言は、「注意して聞く」なら、介護ロボットによる新システムの開発や学校の民営化など、水道の問題と何の関係もない話で前後を埋めて、議論の焦点をごまかしているとしか聞こえません。問題の核心は、「なぜ規制緩和路線としての水道の民営化が日本国民にとって良いことなのか」「公営事業としてこれまでどういう問題があり、それが民営化によってどうよくなるのか」という点であって、麻生氏はそれにはまったく答えていません。規制緩和が既定路線だからやるのだと言っているだけです。

初めに述べたように、私は、小泉改革以来の規制緩和がまさにグローバリズムへの迎合であり、それは日本国民の利益にとって大きな危険を含むと主張しているのです。「水道を民営化しても大丈夫」「すべて民営化ということにはならない」という答え方は、まことに悪しき意味での官僚的な答え方で、国民の不安に答えていませんし、なぜある政策がよいことなのかという問いに対する答えにもなっていません。石塚さんもその意味で同じです。

また石塚さんは、浜松市の公式HPや、内閣府の調査資料、大阪都構想の一環としての大阪府の水道事業統合計画(大阪市議会での否決と住民投票の敗北により頓挫)、松山市の公式HPなど、やたら行政府の公式HPを一種の「証拠資料」として引用されていますが、多くの公式HPがきれいごとばかり並べている(それは当然のことですね)のを、石塚さんはそのまま承認しているのですか。それでは、政府や自治体が公式に宣明していることはすべて正しいと安易に信じているのと同じですね。国民の国政監視義務と反対のことをしていると言われても仕方がないのではありませんか。

さらに石塚さんは、(小浜がブログで)「リンクされている『アジア・太平洋人権情報センター』の国際人権ひろば No.73(2007年05月発行号)に民営化の経緯が書かれているが、その資料に引用された佐久間智子氏の投稿文が分かり易い。」として、「2017年1月3日、石塚幾太郎氏による調査 風説の検証」で、ボリビアの実態についての、日経記事に乘った佐久間氏の投稿を、誠実にも、わざわざ引用されています。その一部にこう書かれています。
https://www.facebook.com/groups/whatisTPP/permalink/1906350602919292/

「民営化されれば、効率的なサービスが提供される」という信条がそこにあったことまでは否定しませんが、しかし水道事業を民間企業が担うことは、「例え絶対に必要なものであっても、採算が合わなければ提供しない」ことをも意味します。実際、ボリビアでは民営化の直後、「従来の水道料金では採算が合わない」という理由で水道料金が2~3倍に引き上げられ、低所得者が水道にアクセスできない状況が続発し、暴動にまで発展しました

このまともな指摘に対して、石塚さんご自身はどのような見解をお持ちですか? できればお示しください。

最後になりますが、石塚さんは、同記事で、大阪府の水道事業と東京都のそれとは事情が根本的に違うということをしきりに強調されています。その上で、次のように書かれています。

東京都水道局の「東京水道事業の概要」表3-1財政収支の推移を見ると元利償還金が年々減少し、h28年度では建設改良費1千億円以上を計上しても黒字となり優良事業体です。民営化などの話はあり得ないと思います。

この予言、見事に外れましたね。私も予言を外すことがあるので、あまり大きなことは言えませんが、肝心なことは次の点です。
「東京都の水道事業は優良事業体なので、民営化などあり得ない」と多くの人が思っていたのに、今まさにそれを構想し始めたということは、いかに政府・自治体のみならず、ほとんどの国民が、「自由化はよいことだ」「民営化は必要だ」「規制緩和を進めるべきだ」といった抽象的なイデオロギー(「空気」といった方がわかりやすいですね)に染まっているかを示しています。
ちなみに私は、石塚さんからのご指摘を受ける前から、一部例外を除いて、多摩地区その他の水道事業が、東京都に統一されていることを知っていました。しかし、だからこそ、いったん東京都が民営化に本気で乘りだしたら、その深甚な影響が広汎に(もしかしたら日本全国に)及ぶのではありませんか。

初めに書きましたように、私は、アベノミクス第三の矢(規制緩和、構造改革)に早くから反対の論陣を張っています。この種の空気が蔓延することが一番怖いのです(もうとっくに蔓延していますが)。なぜなら、イデオロギーの支配、空気の蔓延は、そうすることがなぜ良いことなのかという根本的な問いを抹殺してしまうからです。このことは、これまで世界史の多くの局面で実証されていますね。
石塚さんにも、よくお考えいただくことをお勧めします。