小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

横浜のカジノ誘致に反対すべき本当の理由

2019年09月05日 21時08分52秒 | 政治



横浜市が8月22日、山下埠頭へのIR(カジノを含む統合型リゾート)誘致を表明しました。
また9月3日の横浜市議会で、市はIR誘致に向けた34億円の補正予算案を提出しました。
林文子市長は質疑で「横浜の将来への危機感からIR誘致を決断した」と言及し、観光や地域経済をけん引する事業だ」とし、市独自の調査を進めると語りました。

これに対しては、すでに様々なニュースが流れています。

最も目立ったのは、横浜港運協会会長で「ハマのドン」と異名をとる藤木幸夫氏が「顔に泥を塗られた」と怒りをあらわにしたことです。
藤木氏が会長を務める横浜港ハーバーリゾート協会は、カジノはいらないとして、国際展示場、F1、ディズニークルーズの拠点化計画を提出しています。

これだけ聞くと、地域を巡る利権争いのように見えますが、ことはそれにとどまりません。

もともとIRの候補地は3か所に絞ることになっていて、これまでに大阪市(府)、和歌山市、佐世保市で首長による誘致の正式決定が発表されていました。
ところが、これに加えて、苫小牧市、岩沼市、千葉市、東京都、常滑市、北九州市などが誘致に前向きで、それに横浜市が加わったわけです。
3か所に対して10都市ですから、これから誘致競争はますます激しさを加えるでしょう。
しかし、横浜が名乗りを上げたとなると、首都圏内の伝統ある大港町ということで、大いに有力視される可能性が高いでしょう。

じつは横浜が有力視されるのには、そうした表面的な理由とは別に、次のような背後事情があると言われています。

地元有力企業のトップであり、故小此木彦三郎元建設相ら政治家との太いパイプで知られた同氏(藤木氏)への配慮が市当局の決断を阻んでいた。
それが一転したのは、横浜選出の菅義偉官房長官が誘致にゴーサインを出したからだとされる。小此木氏の秘書経験が、菅氏の政治家としての原点であり、藤木氏もまた長年にわたる支援者でもあった。
今や大官房長官である菅氏は、藤木氏との決別も辞さずの決断をしたというのだ。この決断が林市長の背中を押したのではないか。

https://www.zakzak.co.jp/soc/news/190827/pol1908270003-n2.html

また、次のような記事もあります。

横浜へのカジノ誘致の仕掛け人をあげるとするなら、菅官房長官ということになろう。週刊新潮 2015年ゴールデンウイーク特大号に以下の記述がある。

 昨年夏前、東京・永田町からほど近いホテル内の日本料理屋で数人の政界関係者による会合が催されていた。
 座の主役は、2012年12月以来、安倍内閣において官房長官の重責を担い続ける菅義偉氏だ。(中略)
 その場にいた政界関係者の1人によれば、会合の途中、雑談の流れの中で「統合型リゾート整備推進法案(カジノ法案)」の話になった。
 「やっぱり、候補地はお台場が有力なんですかね?」政界関係者の問いに、菅氏は顔色を変えずに応じた。
 「お台場はダメだよ。何しろ土地が狭すぎる」(中略)「横浜ならできるんだよ」

この会合が開かれたのが2014年の夏。ちょうど同じ年の8月16日の日経新聞に以下の記事が載ったのは偶然ではないだろう。
京浜急行電鉄は15日、カジノやホテルなどで構成する統合型リゾート(IR)を整備する構想を正式発表した。横浜市の山下埠頭を最有力の候補地と考えているもようで、実現すれば数千~1万人単位の雇用が生まれそうだという。

https://www.mag2.com/p/news/412835/2

そういえば、この9月17日から、京浜急行電鉄は、品川から横浜のみなとみらい地区に「京急グループ」として本社が移転します。
横浜を貫いて走る京急なら当然と思うかもしれませんが、拠点を横浜に置くことが、IRに重点を置くことと無関係とは言えないでしょう。
そしてこの移転に、横浜に縁の深い菅官房長官の息がかかっているという推測も成り立ちます。

さらに、菅官房長官のすぐそばには安倍首相とトランプ大統領との関係が控えています。

非営利・独立系の米メディア「プロパブリカ」が報じたところでは、2017年2月、ワシントンにおける日米首脳会談で、トランプ大統領から安倍首相にカジノを日本につくるよう要請があった。
ラスベガス・サンズを経営するカジノ王、シェルドン・アデルソン氏も同じ業界のCEO二人とともにこの首脳会談にあわせてワシントン入りし、安倍首相と朝食をともにしていた。(中略)
カジノ会社にとって日本は、世界で最も魅力的な「未開拓市場」の一つである。アデルソン氏は2014年5月にサンズ社が運営するシンガポールのカジノへのツアーを安倍首相のために手配するなど、日本政府に働きかけを続けてきた。

https://www.mag2.com/p/news/412835

林横浜市長は、こうした事情を聞かされて自分でも乗り気だったに違いありません。
しかし2017年の市長選挙の時は、選挙に勝つために「カジノは白紙撤回」と訴えました。
ところが、2年後の今年、手の平を返したように、住民の意向を無視して、平然とIR誘致を決定したのです。
じつは2018年に出された横浜市中期4か年計画には、すでにIR誘致の可能性が言及されていました。
筋書きはすでに出来上がっていたのですね。

ライターで編集者の石田雅彦氏は、次のように語ります。

そうした市の姿勢に対し、市民の間には不信感が募る。中期計画に関するパブリックコメントの約2割がIRに関する内容で、その94%がカジノを含むIRや市民の声を無視したIR計画推進に否定的なものになった。
横浜市はその後、IR誘致の情報収集や業者選定と委託などを行い始める。5月にはIR検討調査報告書を公表した。林市長は7月上旬、政府のIR整備の政令発表と同市の報告書の結果を受けた形で、もし仮に横浜にIRを誘致した場合、カジノを含むのは当然のこととし、誘致に関する住民投票で賛否を問うことはないと明言する。

https://news.yahoo.co.jp/byline/ishidamasahiko/20190831-00140545/

筆者は、横浜市の西区で生まれ育ちました。
北部に移ったいまも横浜在住者です。
IRの候補地とされている山下埠頭の周辺に小さいころから何度も行ったことがあります。
周辺には、山下公園や港の見える丘公園、元町商店街や山手の丘など、懐かしい場所がたくさんあります。
ですから、一市民としても、このよくなじんだ地域に富裕層をカモにした公認のカジノ(賭場)が出来て、依存症が増えたり、反社会的な勢力との結びつきが育つのを座視しているわけにはいきません。
市長は住民投票をやる気はないと言っているのですから、そう言い張る限り、リコール運動に一票を投じるつもりです。

しかし筆者は、そうした愛郷心から出た行動もさることながら、本当に問題とすべきはそこではないと思っています。
言い換えると、横浜にカジノが出来さえしなければいいのか、他なら構わないのかと問うべきなのです。
依存症が増える危険とか、反社会的勢力と結びつく危険といった問題点は、どこにカジノを置こうが転がっています。
またこれまでも、パチンコ、競輪、競馬、競艇など、およそギャンブルと名の付くものには、そうした危険がいつもつきまとっていました。

この問題の本質は、日本政府が、緊縮財政に固執して国内供給に見合う需要を作り出すことに失敗し、諸規制の緩和によって、あらゆる種類の外資を参入させてしまったことにあります。
つまり国内産業を健全に育てることを怠ってきたために、ガイジン様の資本やインバウンドに頼らざるを得なくなった情けない後進国状態を象徴しているのです。
これはIR法だけではなく、水道民営化法、移民法、種子法廃止……など、みな同じです。

カジノは、そのあがりの7割を営業主体であるカジノ経営者(ラスベガスのサンズ社など)が取り、15%を国が、残りの15%を自治体が取る、という約束になっています。
またも国富(国民の稼ぎ)が外国資本にチューチューと吸い取られていくさまがありありと見えるようですね。
15%のおすそ分けに与って、横浜市は財政難を克服できるのか!
また他国の例を見ても、水道民営化と同じように、カジノ経営は失敗する可能性がある。
その場合でも、外資はさっさと逃げ出すでしょう。
コストパフォーマンスのつけは、自治体がもっぱら背負うことになるでしょう。

林さん(菅さんと言った方がいいのかな)、きらびやかに「ミナトヨコハマ」を飾り立てることばかり考えず、地道に投資や消費を伸ばすことを考えたらどうでしょうか。
聞けば山下埠頭の向こう側の本牧埠頭では、今年の5月、2年10か月ぶりに、世界最大のコンテナ船が寄港して荷役を行なったそうです。
こちらの方の港湾整備にもっともっと力を入れてほしいですね。



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