したたかな中共が日米分断のために仕掛けてきている歴史戦(情報戦)、軍事戦、経済戦に対して勝つために、日本はどういう構えで臨むべきか。この問題について私は、名ブロガー・美津島明氏との間でやりとりを交わしました。以下、彼の戦略的思考が最もよくわかる部分を中心に、その要約を記すことにします。
http://blog.goo.ne.jp/mdsdc568/e/8296dbef736bc6f829557a9b953b5108
http://blog.goo.ne.jp/mdsdc568/e/4f3de8609978e49caac110f7026b0aa1
私はまず、日本が「南京事件」と「慰安婦問題」という二つの歴史認識問題(情報戦)で惨敗を喫したこと、しかもこの敗北が単に中韓に対するものではないことを指摘しました。これは二〇一五年十二月二八日になされた「日韓合意」を欧米メディアがどう受け止めたかを見ればすぐにわかります。
http://jcnsydney.blogspot.jp/2016/01/ajcn_8.html
ここには、かつての戦勝国である米英豪と国際連合、さらには、自分たちは反省したが日本は反省していないなどと嘘八百を言い続けているドイツまで含めて、じつによってたかって日本に敵対的な包囲網が形成されています。これを仮に「戦勝国包囲網」と呼んでおきましょう。
ちなみに、ことわるまでもありませんが、中共は第二次大戦終結時、まだ成立していませんし、韓国は日本の統治下にあったのですから、いずれも戦勝国ではありません。要するにどちらも反日を正当化するために「戦勝国」であるかのごとくに成りすましているだけです。
さてこれまで私は、日本の対米従属からの脱却と真の自主独立の重要性を説いてきました。これに対して美津島氏は、自分も心から「自虐史観」からの脱却を望むものであると断った上で、次のように述べます。
野放図で無自覚で感情的な「脱自虐史観」ほど、中共の歴史戦にとっての好餌はほかにない。なぜなら、第一に、中共の歴史戦の狙いが、日米を分断させておいて、孤立した日本を叩くところにあるからであり、第二に、敗戦国・日本が不可避的に選ばざるを得なかった「自虐史観」から脱却しようとすると、必然的に情理両面からのアプローチによって反米が導き出されるからである。これは「心ある日本人の脱自虐史観」がもつ危険性である。
つまり無自覚な「脱自虐史観」は、ただの感情的な反米意識につながることになり、それは、日本の孤立を狙う中共の思うつぼだというのですね。これは一見意表を突いているようですが、よく考えられた冷徹な指摘です。かつての対米戦争における惨めな敗北の大きな原因の一つが、アメリカのABCD包囲網による日本の孤立化政策にあったことは明らかだからです。
しかしただアメリカの言うなりになることと、対米外交を通して対等で巧妙な駆け引きを行なって国益を引き出すこととはまったく異なります。この区別を明瞭につけない限り、日本はかえって永久に対米従属を通して中国の狙う戦勝国包囲網に取り巻かれてしまうでしょう。私のこの応答に対して、美津島氏は次のように説きます。
中共が挑んでくる歴史戦の論点は、①南京事件問題 ②いわゆる従軍慰安婦問題 ③首相の靖国神社参拝問題 ④東京裁判史観問題 ⑤憲法改正問題の五つである。日本がこの戦いに勝つことは、敗戦国である日本にとって準世界大戦クラスの大きな意義を持つ。日本が中共に勝つためには、「戦勝国連合VS孤立した日本」という構図にハマることだけは避けなくてはならない。中共は、脱自虐史観がはらむ潜在的な日米対立を、はっきりと嗅ぎ当てていて、それを利用しようとする。この事実に対して、脱自虐史観論者は、自覚的であらねばならない。さもなければ、図らずも日米分断に加担し、日本の安全保障体制を危機にさらす愚を犯しかねない。
Gゼロ状況下では、主権国家を健全なナショナリズムが支えることが必須となる。そこで、脱自虐史観は、大きな役割を果たすことになる。だから、それを捨ててしまうには及ばない。しかし一方で脱自虐史観は、反米の契機を有するがゆえに、日米分断を図る中共に徹底利用されるという弱点を持つ。私たちはこの両面性に目を曇らせてはならず、徹底的にリアリストでなくてはならない。アメリカとの関係に移して論じるなら、アメリカへの精神的な依存を断ち切った自立的精神で同国に臨む一方で、同国の属国という国際的に認知された客観的ポジションをフル活用する、ということになる。つまり、衰退するアメリカの覇権を側面からサポートするという位置からもろもろの提言をすることで、国益をちゃっかり追求するというしたたかな姿勢を堅持する必要がある。
この反米でもなければ対米追随でもないマキャベリズム的なスタンスを維持することは、アメリカに対するたいへんな外交手腕が必要とされますね。そこで私は次のように応じました。それは具体的には、たとえば、冷戦時代からの仲の悪さを残しているアメリカとロシアの媒介者の役割を演じ、そのことによってロシアと中共との分断を図るというようなことであろう、と。
この対米外交戦略は当然、同時に対露外交戦略でもあります。安倍政権は、対露外交のテーマを北方領土返還交渉に限っているようですが、この交渉は、プーチン政権にまったくその気がないのですから、いくら交渉を重ねても無意味です。ものほしさを見透かされて天然ガスを法外な値段で売りつけられるかもしれません。
それよりは、欧米の経済制裁と原油価格の下落とルーブル安との三重苦を抱えているロシアの弱点をよく見抜いて、それに対する支援を提供する形で、ロシアが中共に泣きつくのを阻止する方向に外交の舵を切る方がはるかに有益です。そのことによって、アメリカにとって脅威である中露接近という事態を防ぐことができ、アメリカに対しても点数を稼ぐことができるわけです。
もちろん、日本がなぜロシアに接近するのかについては、アメリカに十分理解してもらう必要があるでしょう。大事なことは、外交には対一国相手ということはあり得ず、関係諸国の思惑を常に複合的に考慮しなくてはならないということです。
美津島氏はまた、次の二つの指摘をしました。ここから話は、中共が抱える経済危機の問題に移って行きます。
①二〇一六年一月に行なわれたダボス会議において、黒田日銀総裁が、中共は資本規制を強化すべきだと発言したことは、中共を「大敵」としてはっきりと認識できずに、愚かにも敵に塩を贈ってしまう日本政府の脆弱な精神構造を象徴しており、こうした精神構造こそが「危機」のなかの最大のものである。
②保守派の一部には根強い「中国経済崩壊待望論」は、その根に、にっくき強敵・中共が戦わずして滅んでくれないものかという脆弱な精神ならではの願望を隠し持っている証拠である。
この二点については、私も同じようなことを考えていて、大賛成です。
①については、少し解説が必要でしょう。幸いここに、産経新聞特別記者・田村秀男氏の的確な論説がありますので、それを導きの糸とすることにしましょう。
http://blogos.com/article/156836/
黒田総裁は先の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、中国の資本逃避が止まらないことを憂慮し、北京当局による資本規制強化を提起した。この発言は国際金融界をリードし、国際通貨基金(IMF)も容認に傾いている。英フィナンシャルタイムズ(FT)紙は1月26日付の社説で、黒田提案を引用しながら、「中国には資本規制が唯一の選択肢」だと論じた。
IMFもFTも、中国金融市場の自由化を条件に、人民元のIMF特別引き出し権(SDR)構成通貨への組み込みを支持した。資本規制強化はそれに逆行する。北京のほうからはそうしたくても、大っぴらにはできないし、IMFもFTも率先して言い出すのも具合が悪かった。そこで渡りに船とばかり、思いがけず飛び出した黒田節に飛びついたようだ。
考えても見よ。資本規制強化で中国の市場危機が収まるとでも言うのだろうか。危機は中国の過剰投資、過剰設備と日本のバブル期をはるかに上回る企業債務とその膨張から来ている。資本逃避は人民元資産に見切りを付けた中国国内の企業や投資家、預金者が海外に持ち出すことから起きている。資本規制の強化はこの流れを当局の強権によって封じ込めるわけだが、同時に人民元を少ない変動幅でドルにペッグさせる管理変動相場制の堅持を意味する。
田村氏は、この論説を皮肉たっぷりに結んでいます。
日銀が通貨スワップで中国の統制強化の手助けをするのは、金融や経済を超えた政治の領域である。日銀は日本の経済再生、脱デフレのための金融政策に撤すればよい。
田村氏の言いたいことはおそらくこういうことです。中共は金融資本市場の常識である変動相場制に移行していず、ドルを基軸とした管理変動相場制を採りつづけていながら、EUやIMFに働きかけて人民元の国際通貨入りの約束を取り付けるというアンフェアな振る舞いをしている。それを黒田総裁がわざわざ後押しするような発言をするとは、反日国家を助ける利敵行為ではないか、と。まさに美津島氏の先の指摘と一致するわけですね。
要するに中共は為替変動を市場に任せず、これからも独裁国家として為替操作を狡猾に行い続けるのでしょうが、それをIMFやEUは知っていながら、中国市場の大きさという幻想に目が眩んで、人民元のSDR入りを認めてしまったということです。IMFのラガルド専務理事はれっきとした親中派で、中共の執拗なはたらきかけに屈し、「自由な為替市場の実現に向けて努力する」という、まったくあてにならない曖昧な「約束」を信用したフリをしてSDR入りを認可してしまいました。田村氏は、元財務官僚の黒田総裁だけではなく、財務省国際局の元官僚の多くが親中派であることを具体的な事例を挙げて証明しています(月刊誌『正論』二〇一六年四月号)。
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