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ラフ/あだち充著(小学館)
息子が夜遅くまで頑張って勉強していたと思っていたら、これを読んでいて止まらなくなって夜更かししたのだという。試験前だというのにこの漫画を勧めたのは他ならぬ僕である。息子よ、勉強の邪魔をして本当にすまなかった。しかし確かにこれは止まらないですよね。事故にあったようなものだと諦めてくれ。
最初に断わっておくと、漫画だから仕方がないが、このような青春は完全にあり得ないファンタジーでありすぎると思う。都合良すぎるし展開が上手すぎる。はっきり言ってそりゃないでしょ、と突っ込みどころ満載なのだが、しかしそのすべては許容できる。というか、そうあって本当に良かったとさえ思わせられる。若いころにこのような話を知ってしまうと夢見る青春になってしまって却って害悪だとさえ思うが、やはり事故なので仕方がない。それくらいの名作だということなのだろう。
実をいうと僕があだち充の漫画をちゃんと読んだのは、中学生以来のような気がする。読んだのは「陽あたり良好」である。すっかりファンになってしまって、その後の「タッチ」を認めることができず、封印して読まなくなってしまった。若いころは今より屈折していたのでそのように影響を受けてしまったのだと思う。今は大人になって本当に良かった。そのおかげで再びあだち充作品を読むことができたのだから。
それにしてもなんで「ラフ」なのかな、とは最後まで分からなかった。結構カッキリした構成になっているようにも思うのだが…。また、さらにケチをつけると、なんでこんなにいい人ばかり出てくるんだろう。このような友人に囲まれて大人になると、実社会にもまれるうちに自殺したくなるに違いない。僕にはこんな友がいないおかげで、長生き出来ているのではなかろうか。
この漫画でもっとも切ないのは圭介の言う「お前なんか大嫌いだ」という科白の場面だと思うのだが、この時に二人の間に決定的に深いつながりができてしまうというところが実に見事なんだと思う。二ノ宮はこの時に完全に心を奪われてしまったのではなかろうか。心の底から湧く嫌悪感で恋愛が決定づけられるということが、何よりこの作品の名作たるゆえんであるように思う。その後はどう最後につなげるつもりなのかな、という興味でお話に身を任せてしまえばいいわけだ。
くれぐれも忙しい時には手に取らないように。特に受験生には悪書として封印すべき名作であろう。