カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

実に欲張りに楽しめる映画   暗い日曜日

2016-04-13 | 映画

暗い日曜日/ロルフ・シューベル監督

 戦前のブタペストにあるサボーというレストランでピアニストの募集をしていた。そこにやってきた青年は、見事な演奏で仕事を得る。レストランのオーナーの恋人で看板給仕イロナは、その美貌で多くの男たちを魅了している。ピアニストの青年もすぐに恋をし、イロナの誕生日に曲をプレゼントする。そうして奇妙な肉体関係の伴う三角関係が始まる。プレゼントした曲は店の評判となり、レコーディングされて大ヒットする。その悲しげな旋律は多くの人を魅了する傍ら、ナチスの戦火の伸びる時勢にあって、少なからぬ人の自殺と絡んだ曲としても有名になっていく。何故かこの曲を聞くと死んでしまいたくなる人が居るらしい。そういう中、以前イロナにぞっこんで常連だったドイツ人の客が、今度はナチスの幹部として店に通うようになる。そうして町のユダヤ人は次々にこのドイツ人に財産を奪われ、収容所へ送られていくようになっていく。
 前半の恋の三角関係を成立させているのは、他ならぬこのレストランのオーナーのラズロの自由な考え方かもしれない。心から愛する恋人を妻とせず、彼女の恋愛は自由にさせる。しかし自分との愛は離したくない。イロナは素直にふるまうが、そこでイロナを分担して愛することになるピアニストのアラディはラズロとの恩義や友情を持ちながらこの関係に参加するようなことになっていく。実情としては二人の男は、本当はイロナを独占したいとは思われるが、イロナに譲歩して自由にさせることで、実はつなぎとめているということになるのかもしれない。愛をつなぎとめるには嫉妬も重要だとは言うが、これはちょっと自虐的すぎる設定のようにも感じた。
 しかしながら後半になると、一気にナチスの悪行と絡んだ醜い人間ドラマになる。ある意味ラズロが温情を掛けて人の命を救ったために、ラズロは自分の窮地を招くことになる。さらに結果的にはイロナにもつらい思いを強いることになってしまう感じだ。まったくやりきれない展開だが、それが戦争の戦闘だけでない醜さを見事に表していて、人の命のために人は何だってやらなければならなくなるわけで、本当に恐ろしい。そのために最後のどんでん返しが、実に子気味よくスパイスとして効いた映画になったようだ。
 美しい裸体もたくさん見られるし、恋愛劇や悲劇や裏切りや反戦やサスペンスと謎解きなど、いろんな娯楽要素がてんこ盛りになっていて、まったくお得な名作といっていいのではないだろうか。
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