■せっかくゆっくり休めるんだから、と持ってきた本をやっと読んだ。「フェルマーの最終定理」(サイモン・シン著)はちょっと読みかけたがパッと読み飛ばせるような内容ではないと思って、づっとほおってあったのを一気に読みきった。
ピタゴラスの3平方の定理は誰でも知っているがX,Y,Zが2乗でなく3乗、4乗、5乗、、、となると解がなくなるという妙なことを証明することが誰もできなかった。アマチュア数学家のフェルマーがこの問題を提起し、自分は驚くべき証明方法を見つけたが余白が狭すぎて記すことが出来ない、という謎のメッセージを残してから350年後に、子供のときにこの問題を知ってから30年間研究してきたアンドリューズ・ワイルズがついにその夢を実現させる物語である。
メディアから何の関心も寄せられなかったが、実はその証明は谷口・志村予想という日本人研究者の提示した問題を解決したことに他ならなかった。どうしてそういうことになるのか?という説明の中で、古代ギリシャ数学から現代のトポロジーや秘密鍵、公開鍵などのインターネット暗号通信など2000年にわたる数学史がダイナミックに語られてゆく。
1993年と言うと僕がNYで生活を始めた年で、その4,5年後にNYの大学院でストカスティック(確立過程、金融工学の分野)も少し勉強するようになるのだが、その時は隣のニュージャージーのプリンストン大学でそんな話があったのかな、、、ぐらいにしか思わなかった。
ワイルズは10歳の時に、20世紀の少年と17世紀のアマチュア数学家の知識は同じぐらいだろうと思って、この小学生にでも理解できるような問題に挑戦するが、解決するまでに350年にわたる数学界のあらゆる分野の発見、進化、発達の成果を駆使しなければならなかった。
生涯をかけて純粋数学に没頭し現実社会生活には何の役にもたたないことを研究し続けた変わり者たちの努力が時空をこえた歴史のなかで科学技術先端文明の礎となっていく過程が描かれていくのだが、登場人物が天才ばかりなので話が面白い。
50歳の時、数学にはまってしまった僕としてはやはりこの本から数学の魔力を感じてしまう、というと大げさかな。でも、その魔力にとりつかれた人々の歴史だとはいえる。あらゆる数学の問題に関連し、巧妙で分り易い解説がちりばめられていて「数学好き」にはたまらない内容なのだが、「数学嫌い」にはどうだろうか?
フェルマーの証明とワイルズの証明は当然同じではないはずだ、と考える以上、依然としてフェルマーの証明の謎は残っている。フェルマーは間違っていたのか?