くまぐー日記

くまさんの電脳室リポート

金田一京助「日本語の変遷」

2012年11月27日 | Weblog

■さすがに金田一京助の著作はすごい、という感想を禁じえない。町田建著「日本語のしくみがわかる本」を読み、気鋭の学者らしい文法論で従来の学校文法を批判して新しい考え方による文法論を打ち立てようとしていることに新鮮さを感じたあとにこの一冊だ。なんと、はじめは戦前に出版された著作でありながら町田の構想をほぼ実現していたような内容に驚く。ラジオ放送用のものだからなのかはわからないが妙に読みやすい日本語だ。

第1章「日本語の変遷」の他、最後4章「日本語の特質」まで4編の内容で、180ページ程の文庫本だから短いものだ。この種の文献としては短すぎるほどだが、みごとに日本語の構造を説明しているだけでなく文化人類学的なところにまで踏み込んだ1級品だと思う。

第一章では新村出の時代分類に従って上代、古代、中世、近世、現代にわたる日本語を文字、音韻の変遷が説明されるなかで、文字によってしか音韻の変遷を知ることができず、文字がない時代は神話や諸外国の原始言語の変遷を知らなければ研究できない極めて文化人類学的な分野であることがわかってくる。欧米とくらべると、記述された文字が存在しない分だけ日本の言語学はひどく遅れているということらしい。

第4章では極めてコンパクトに日本語の音韻構造の説明があり、日本語がウラル・アルタイ語系列の言語であるという有名な説を論証するとともに、さらにその昔は南方の海洋民族から伝わった言語であるとして、柳田国男の日本人起源と同じ結論にいたっている。柳田の考えは通説に反して日本人の祖先は大陸から渡来ではなく南方の海洋民族であることを神話伝説のなかから導き出していることと符合している。これは神話を頼りにトロイの遺跡を発掘したシュリーマンやロゼッタストーンにたどり着いて古代文明の解明に貢献したシャンポリオンのような語学の天才達の夢と一脈通じるロマンがある。

町田は学校文法の創設者橋本進吉の有名な「文節」概念の曖昧性を批判し、これを名詞群、動詞群などと呼んで構想するが、金田一は既に「語節」という用語を使って名詞・動詞(言・ことば)のあとに助詞、助動詞(辞・てにおは)がついて使役、可能、受身等と時制がついたりつかなかったりして語節が構成されると喝破している。

さらに皇室用語の絶対敬語を例外として相対敬語を形成し、単なる語彙にとどまらず文法にまで及ぶ敬語体型にまで完成した日本語の特性を説明する。二重母音を嫌う極度に単純化された音韻構造と膠着語の特質を持ち助辞(助詞、助動詞)のおびただしい発達。そしてその開音節(母音で終わる音節)の特質こそが南方海洋民族から受け継いだものだということらしい。

金田一京助の著作は初めて読んだが大学者のものはちがうなぁと実感する。それにしても我々口語文法として学校で覚えたものは一体何だったのか?古典を読み解くための文法は外国人が言葉を習得するための日本語文法と機能的に共通するものがあるが、ネイティブにとっての口語文法なんて、、、どうも僕たちは学校で習った文法という(規範?)ものについてとんでもない思い違いをしていたようだョ!

コメント
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