『理石と川柳仲間たち 歳月のしずく』 安永理石
安永理石氏は、昭和25年(1950年)創立の川柳噴煙吟社の創立会員ですので、柳歴は70数年になります。病床にある今も詠み続けています。今まで出会った川柳仲間に感謝し、お礼の気持ちを表したいと、集大成の句集発行となりました。
前半は、理石140句、後半は、仲間たち200句です。
控えめで、優しい性格が表れた等身大の句が全体を貫いています。人生の感慨を吐き出した句も多くあります。
何をしていてもあなたの鈴がなる
恋愛中の思いでしょうか、ずっとあなたのことが気にかかる、あなたに呼ばれているようなそんな気持ちがよく表現されています。女性の作品とも思えそうです。この句に感動して横浜から飛行機で熊本まで会いに来られた30代の女性がいます。早速、噴煙吟社会員となり、活躍しています。
行く当てのない日の髭は雑に剃る
これと言ってすることのない日のつまらなさがよく出ています。人間的です。
天国の妻に尋ねる冬支度
最愛の妻に先立たれ、冬を迎えた時の淋しさ、妻との距離感にグッとくるものを感じます。
青春のとなりに還暦があった
まだ若い若いと思っていたら、もう還暦になった。となりという表現が生きています。感慨に耽る姿が見えてきます。
私が理石氏とよく話をするようになったのは、2013年12月に植木温泉で行った、若葉川柳会(平田朝子会長)と私の世話する田原坂川柳会の合同忘年句会からです。その後、噴煙句会にも出席し、さらに機関誌「川柳ふんえん」編集にも携わるようになりましたので、噴煙事務所から合志市のご自宅へお送りすることが多くなりました。教えられたのは、背伸びせず身の丈に合わせて、身の周りのことをありのままに勘所を押さえて詠む、その表現力です。
いい友があって米寿へ辿り着く
役降りて心足る日の花ばさみ
本句集には掲載されていませんが、私の感動した句があります。
編みかけの帽子にもきた一周忌
3句とも、謙虚な生き方や人生の哀歓が滲み出ています。
そして今は、この心境でおられるのでしょうか。
終章は酒のしずくで書く自伝
18歳で川柳を始めて、今年7月で92歳。先立たれた奥様とは川柳結婚。74年間に亘る川柳人生を生きて来られて、とても幸せだったと述懐されています。柳歴16年の私ですが、せめて同じ傘寿越えまで生きて、作句を続けたい気持ちです。
※販売を意図するものではありませんが、欲しいという方には都合します。
川柳噴煙吟社副主幹 熊本県川柳研究協議会副会長
徳丸浩二
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