ひねもすのたりにて

阿蘇に過ごす日々は良きかな。
旅の空の下にて過ごす日々もまた良きかな。

最近読んだ本 7

2017年04月20日 | 最近読んだ本
まずは、恩田陸さん。
直木賞と本屋大賞の2冠達成、おめでとうございます。
と、私が言ってもなんてことないか。

さて、最近読んだ本。例によってミステリージャンルです。
サスペンス的な要素が多い作品ですが、今年今までの中では一押しの作品。
太田愛さんの「天上の葦」。
「白昼渋谷のスクランブル交差点で、老人が何もない空を指さして絶命した。」
というシチュエーションから始まる物語は、それだけでもワクワクするプロローグです。



散りばめられた伏線と、公権力による重なる妨害。
知恵と、人との絆、そして強い思いでその妨害を乗り越えていく筋立ては、
あたかもドラマのように映像が脳裏に浮かんでくるのです。
そういう点では、アメリカの作家、ジェフリー・ディーバーのリンカーン=ライムシリーズを思い起こさせます。

この作品も、実はシリーズもので、主人公は共通しています。
最初の作品が、「犯罪者 クリミナル」(上下巻)、「幻夏」、そしてこの「天上の葦」(上下巻)と続く一連の作品で同じ主人公が活躍します。
主人公は3人組で、最初の作品で初めて出会います。
そういう意味では「犯罪者 クリミナル」から読み始めることを勧めます。

小説そのものの面白さも去りながら、私は作家のスタンスが大好きです。
権力を持つ者への懐疑とそこから生まれる世界への危惧。
単なる反権力的なスタンスではなく、
権力の使い方はこうなんですよ、その結果このような世界が出現するのですよということを、
読んだ人の胸にストンと納得させるところがいいです。

まさに、今の政府が同じようなことをやっているのではないかという疑惑を持ってしまいます。
この小説でも大きなキーワードになる、今流行の「忖度」という言葉が出て来ます。
今年の流行語になるかも知れない「忖度」に、この小説を読むと非常に不快な思いを抱かれるでしょう。
どうしようもない程質が落ちた昨今の政治家の、相続く失言に、謝罪したからいいじゃないかという傲岸不足の態度。
「忖度」してもらう側の人間の不遜さが滲み出ているではないですか。

ミステリーというジャンルで、この作家はそういう状況を優しく解きほぐしてくれます。
そういう意味でも是非読んで欲しい作品です。
もちろんミステリーとしても特上の味わいを保証します。

太田愛さんは、小説を書き始めるまでは、シナリオ作家として活躍した人で、
人気シリーズ「相棒」のシナリオを書いた人です。(現在も書いているのかな?)
それで映像が目に浮かぶような文章なのかなと思います。

さて今年のミステリー界にこれ以上の作品が出るでしょうか。
自称ミステリー小説評論家の私が勧める、今年ナンバーワンの作品です。

そうそう、「天上の葦」とはどういう意味なのか、これも読まなければ解を得ることは難しいでしょう。

このような勝手な評論ができるのも、阿蘇市図書館あってのことです。
いつもいつも感謝しております。
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最近読んだ本 6

2017年01月20日 | 最近読んだ本
その前に、前回取り上げた恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」が直木賞を受賞しました。
おめでとうございます。
インタビューで答えた彼女の座右の銘が、「酒に貴賤なし」というのがいいですねぇ。
とても親近感を覚えます。
いくら貴賤がないからと言って、どこかの国の人のように、アルコール入りの入浴剤を飲んだら命に関わりますよ。
あくまでも「酒」に貴賤がないですから。


さらに、同時に本屋大賞の候補10作に名を連ねています。
また、塩田武士さんの「罪の声」も10作のうちの一つになっていますね。
候補作と言えば、原田マハさんの「暗幕のゲルニカ」もいいですね。
キュレーターの経歴を持つ原田さんらしい作品で、これも一気読みした小説の一つです。
この3作品の中から本屋大賞が出ると、私としては大変嬉しいです。

さて、最近読んだ本で印象に残ったのは、珍しくアメリカの作家、ジェフリー=ディーバーで、
「煽動者」というミステリーです。
ともかく長編です。この作家の本はほとんどが、分厚い上にページの上下二段に書かれていて、
面白いのですが、1日で一気読みとはまいりません。

     

久しぶりの海外ミステリーで、登場人物の名前がなかなか頭に入りません。
舞台はカリフォルニア州のある街。
主人公はキャサリン=ダンスという女性捜査官。
相手のいろんな仕草から嘘を見抜くことのできる特殊な技術を身につけている。
その技術を駆使して事件を解決に導いていくというのが、このシリーズの特徴になっています。
小説の粗筋は言わないでおきましょう。

この作家が作ったキャラクターで最も知られているのは、リンカーン=ライム。
記念すべきその第一作が「ボーン=コレクター」です。
この小説の題名を聞いただけで、「あぁ」と頷かれる方もいるのでは?
これは昔(と言っていいくらい前に)映画化されて、結構話題になったはずです。
主演は、かのデンゼル=ワシントン。準主役の女性捜査官は、若き日のアンジェリーナ=ジョリーです。
私も映画館で見ました。ドキドキしたものです。
ミステリー、そしてサスペンスと言うべき作品です。
主人公のリンカーン=ライムは事故で脊椎不随の障害を受け、頭部以外の自由はきかない。
現場等に残された微細な残留物から犯人を追い詰める、鑑定のプロ中のプロです。
相棒は女性捜査官のアメリア=サックス(ドナヒュー)。
今までに確か、10作のシリーズが出版されていると思います。

その6か7作目だったかの「ウォッチ・メーカー」で、初めてキャサリン=ダンスが登場して、ライムと競演することになるのです。
残留物という物証で犯人に迫るライムと、尋問中の相手の表情や言動で犯人に迫るダンスの手法は対照的であるとも思えます。
しかし、この作品の中では強力なタッグとなって犯人を追い詰めるのです。
その後、ダンス主役の作品がシリーズ化され、その最新作が「煽動者」です。

この作家の筋立てはそれほど複雑ではありませんが、
巧みな語り口で、ノンストップに読ませようとします。
ある意味、非常に映像的で、読みながらその場の映像が目に浮かぶのです。
今まで読んだ5作品は、全て映画化に耐えられる、と言うか映画化して欲しいような作品です。

小気味よいどんでん返しが至る所にあります。これも映像化に向いているのかな。
ただ、どの作品も相当長いですので、覚悟して読み始めて下さい。
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最近読んだ本 5

2016年12月29日 | 最近読んだ本
まず一冊目は、塩田武士さんの「罪の声」。
題材は、1984年の江崎グリコ社長誘拐事件を発端とした、
いわゆる、グリコ森永事件です。



私が30代半ばの、リアルタイムで報道の一部始終を見聞きしたはずの事件です。
この小説はそのスタイルからか、非常にリアリティーがあって、
ああ、そうだったのかと頷いてしまいそうな程です。
ですが、あくまでも小説ですので、虚構の混ぜ方が上手いのでしょうね。

私がリアルタイムに見聞きした事件なのに、
人間というのは自分や自分の身近で関係ない報道というのを、
いかに適当に聞き流していたのかということを、痛烈に再認識させてくれた本でもあります。

あの事件がいかに卑劣で、残忍なものだったかを初めて知ったような次第です。
人が口にするもの、口にせざるを得ないものを盾にとって犯罪を犯すことは、
その発想自体を決して許せないものです。

グリコ森永事件の詳細を知りたい方はもとより、
それだけでなく「罪の声」は一気に読ませてくれる小説です。
もちろん阿蘇市図書館にあります。
1月3日までは休館ですが。
なお、この作者の本は他に、将棋界を題材とした「盤上のアルファ」や刑事物の「崩壊」があります。


二冊目は、恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」。
ピアノコンテストをめぐるピアニストたちの姿を描いた小説です。
青春ものという括りにも入るかな?



結構分厚い本です。
でも一気読みします。私も1日で読んでしまいました。
ピアノコンクールという一種の勝負の世界の話ですから、
結構登場人物に思い入れてしまったり、結果に一喜一憂したり、
そこは恩田陸さん、読者の気を逸らせません。

それにしても、音楽特にクラシック音楽を文字で表現するという至難の業を、
こうも豊かに成し遂げられるとは驚くべき才能なのでしょうね。
同じようなジャンルで演劇を主題にした「チョコレートコスモス」も一読の価値ありです。

青春ものとしては、「夜のピクニック」も一晩で読んでしまいました。
高校生のナイトウォークをテーマにしたものですが、
高校生一人一人の姿が浮かび上がるような描写や、互いのやりとりを描く筆には、
作家というものの凄さを改めて思い知らされるのです。

そのほかに、ウイルスハンター・神原恵弥が主役のシリーズ、
「MAZE」、「クレオパトラの夢」「ブラックベルベット」などは、
上記の作品とは全く異なるジャンルのもので、
この人の裾野はどのくらいあるのだろうかと驚いてしまいます。

つい最近まで、「蜜蜂と遠雷」を読むまで、その名前は知っていたものの、
全く作品を読んでいない作家さんでした。
いやあ~、とんでもない人たちが小説界にいるものです。

何度も言いますが、ここに出た本は阿蘇市図書館に全部あります。
中には閉架図書になっているものもありますので、お尋ね下さい。
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最近読んだ本 4

2016年09月18日 | 最近読んだ本
本について書く前に、8月に車を変えた。
実は4年前の水害でポシャった2台目プリウスの後釜にプリウス&を購入したのだが、
そのとき本当に買いたいと思ったのはマツダのCX5のディーゼル車だった。
しかし、ファミリー向きを考えるとプリウスの方がいいだろうということでプリウスに。

今回娘婿が車が必要ということで、娘のNワゴンを娘婿に。
娘に私のプリウスを下取りさせて、私はCX3のLパッケージを購入した。
新車ではなく、試乗車で使っていた車で1年半落ちの2,000㎞未満走行車である。
色はマツダの売りのソウルレッド・プレミアム。
新車で購入すれば5万円以上のオプション色となる。



CX3にした理由は、もうファミリーカーの必要がないこと、
プラットフォームがデミオなので、少しは取り回しが楽になるだろうという思惑、
何よりディーゼル車に乗りたいという思いが未だに強くあったことで決定した。
乗り心地などはまだ日が浅いので報告はできない。
毎日の孫の幼稚園送迎の使用はお断りしているプライベートカーである。

閑話休題。

本の話だった。
最近私の注目の作家は二人。
まず、米澤穂信さんは最初青春ミステリージャンルに括られていたが、
最近の作風は完全にそのジャンルを抜け出して、独特の世界を醸すようになっている。

2014年の「満願」は、山本周五郎賞を受賞、直木賞候補にもなっている。
私がこの小説に出会ったのは、東京駅地下の書店での立ち読みだった。
ハードカバーの短編集の一編が「満願」で、電車待ちの時間の立ち読みだった。
しかしあまりに面白いので、東北新幹線の発車時を忘れそうになり、未練を残したまま本屋を去った。

旅行から帰り、早速図書館に行ったら本はあるのだが貸し出し中で、ともかくは予約をして読んだ本である。
その後の彼の作品は、長編の「王とサーカス」最近刊の短編集「真実の10メートル手前」。
いずれも主人公はジャーナリストの大刀洗万智である。
前者は、ネパールのカトマンズが舞台で、そういう意味では非常に興味深い作品でもあった。

東南アジア主体だった友人との旅で、初めての南アジアへの遠出でもあり、
非常に貧しい国への旅は久々のカルチャーショックと旅の面白さを改めて再確認した地でもあった。
カトマンズの、たとえば「インドラチョーク」などと言う地名が小説の中で出てくると、
喧噪に満ちたチョーク(広場のある交差点)の有様が鮮やかに蘇って、小説を現実のもののように感じ取るのである。

その大刀洗万智の最新短編集は、彼女の佇まいをより鮮明にした作品集になっている。
今、最も注目のミステリー作家の一人でしょう。

次に、あさのあつこさん。
以前、映画にもなった「バッテリー」で有名な人だが、
この人の作品に時代物があるとは私の全くの不明で、最近になって、既刊のシリーズものを6作一気読みした。
時代小説というのは、ある意味、作家が想像を駆け巡らせることのできる世界ではあるのだろう。
多くの作家の作品が図書館に並んでいる。

私は以前から藤沢周平の大ファンだった。
ちょっとこれに似た雰囲気の作家が葉室麟さんかな?(あくまでも個人の感想)

最近時代小説の面白いのを探していて、
青山文平さんのものは全部制覇したし、梶よう子さんのものも然り。
一作面白いとその作家を全部読んでしまう癖がある。

あさのあつこさんはその中でも特異で、
現代物と時代物が並列して書棚に並んでいる作家はそんなには多くはない。
私が一気読みした時代物は一作目が「弥勒の月」という作品で、あと5作品が出版されている。

幼稚園に通う孫の就寝時間が早いので、テレビは見ずに自分の部屋で読書三昧です。
1日1冊は日常になりつつあります。
阿蘇市図書館様々です。
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最近読んだ本 3

2016年06月19日 | 最近読んだ本
まず、伊坂幸太郎の「サブマリン」。
主人公の陣内という家裁調査官のキャラが際立っていて、
ユーモア小説と取り違えんばかりに笑ってしまいます。

しかしそこは伊坂幸太郎です。
伏線も巧妙に張って、立派なミステリーに仕上げています。
この小説についてのインタビュー記事を読むと、
特にキャラを決めてから書くことはしないようなことを本人は言っています。

この小説の前身(同じ登場人物の小説)は、「チルドレン」という題の小説です。
それからずいぶん年月が過ぎてからの続編で、
シリーズ化する意図は全くなかったのだけれど、とインタビューの中で言っています。
つまりこのあとの続編はないと言うことです。とっても残念ですが・・・・。

伊坂さんの独特のユーモア感覚というのがあって、
陣内とワトソン君的役割の武藤という家裁調査官の絡みは抱腹絶倒です。
陣内の破天荒な言動と、それでいながら調査相手の子どもに慕われる性格は際立っています。

あまりに面白かったので、図書館に行って早速「チルドレン」を借りて読みました。
これは連作短編で、脇役は数人いますが、武藤ではありません。
最初の短編、「バンク」では陣内はまだ学生でした。
「サブマリン」ほどには陣内のキャラは際立っていなくて、
それでも破天荒さは随所に見られるのです。
是非これも合わせてお読み下さい。

もう1冊。
これは小説ではなく、一種の紀行文でしょうか。
前川仁之の「韓国 反日街道を行く」。
釜山から自転車で韓国を一周する1,500キロの旅の記録です。

独学で習得したハングルを駆使して、いろんな人との出会いの中で、
歴史や近代史を身近に捉え感じていく旅です。
独特の感性を持った青年で、あぁそうだよなぁと思う部分がたくさんありました。

何より、彼が行く先々で何度も遭遇する軍事独裁者の時代というのが、
私にはリアルタイムに過ごした時代でもあるのです。
朴正煕政権時代の金大中拉致事件を始め、全斗煥、盧泰愚という軍人出身大統領の時代もよく知っています。

全斗煥時代の光州事件もニュースで息を詰めてみたものです。
しかし、その詳細については、この本を読んで初めて知ったような有様です。
民主主義のために戦った民衆への苛烈な弾圧も、
所詮自分にとっては他人事でしかなかったんだということです。

私が初めて訪韓したのは、1971年の夏、朴正煕が大統領の時です。
釜山に船で着いたのですが、当時戒厳令が敷かれており、夜10時以降だったか、外出禁止でした。
朴正煕は、現大統領の朴槿恵の父親です。
あの父親の背中を見て育った娘の中に育まれた政治の芽はどんなものだったのでしょう。
作者よりまだ若い時代に私は現大統領の父親が大統領をしている時代を生きていたのです。

韓国の民主化の道程を、作者の文をたどりながら、当時を思い出しつつ、
ちょっとだけ韓国に行きたくなったのです。
そのほとんどはソウルですが、韓国には7~8回行っています。
今まで接した人には反日の香りもありませんでしたが、
当時でも、私は作者と同様、韓国の人々に対して、
過去の何もかにも忘れ、自分が日本人であることを、他人事のようにノー天気に振る舞ってはならないとは感じていたように思います。

韓国もソウルと釜山、あとは慶州しか知らないのですが、
できるなら光州に行ってみたい、そう思わせてくれる本です。

いつものことですが、阿蘇市図書館の皆さん、ありがとうございます。
この図書館では、利用者の何が読みたいというリクエストに応えてくれます。
実は「韓国 反日街道を行く」は私のリクエスト本です。

そのほかに、ネットで探して予約すると、閉架にある本も探して貸してくれます。
これからもよろしくお願いします。
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