ひねもすのたりにて

阿蘇に過ごす日々は良きかな。
旅の空の下にて過ごす日々もまた良きかな。

最近読んだ本のこと 2

2016年03月29日 | 最近読んだ本
読書の話題が出たついで、ミステリーの話題になったついで、
純粋なミステリーの話をいたしましょう。

昔はミステリーというのは、ロジカルを基本としたものでした。
論理的な謎解きこそがミステリーの本道であるということです。
その象徴的な作家は、アメリカのエラリー=クイーンではないかと思います。
日本でその先駆けとなったのは、やはり鮎川哲也でしょうか。

その後様々なミステリーの分野が花開き、
江戸川乱歩賞をはじめとした数々のコンテストもあって、
最近では「このミステリーが凄い大賞(このミス大賞)」などで評価を受けてデビューする作家も多くいます。

さて個人的にこれと思ったミステリーについて取り上げましょう。

私が若い頃の謎解きミステリーは、秀作は海外作品が多かったので、そちらに傾倒していました。
そんな中、衝撃的だったのは、松本清張の「点と線」。
日本のミステリーの夜明けとも言うべき、画期的な作品を持って清張が登場したのです。
その後、ミステリーは横溝正史の、おどろおどろしい世界や、
鮎川哲也の鉄壁のアリバイ崩しの趣向など、様々な形で発展してきました。

ロジックを中心としたミステリーに秀作がなくなり、もう本格推理小説は無理ではないか。
謎解きの種は出尽くしたといわれていましたが、突如として現れたのが、新本格を標榜する島田荘司の「占星術殺人事件」。
これには衝撃を受けました。ミステリーのターニングポイント的な出現でした。
その後続々と発表される彼の作品はほとんど読破したのではないでしょうか。
今回、この作品で探偵役となった御手洗潔を玉木宏が演じる「星籠の海」が映画化されるので、
興味のある方はご覧ください。

かの人気作家、伊坂幸太郎も島田荘司には多大な影響を受けたと言っており、
独特の作品を出し続けている貫井徳郎もまた、その一人らしい。
ともかく、彼がその後のミステリー界に大きな影響を与えたのは間違いないでしょう。

最近は警察小説がもてはやされており、今野敏や堂場瞬一、誉田哲也などの多作家が多くの警察小説を書いています。
中でも佐々木譲には重厚な警察小説が多く、ドラマになった「警官の血」はその代表でしょう。
ミステリー小説で謎解きや相手を追い詰めるというシチュエーションでは、刑事を主役にするのは描きやすいのかもしれない。

他にもハードボイルドというジャンルもあって、このジャンルで一番好きな作家は、志水辰さん。
趣は異なるが、東直己さん。この人は面白い人で、
刑務所を体験したくて、交通違反切符の罰金を払わなかったというエピソードがある。
「探偵はバーにいる」という映画の原作者でもある。

ジャンルとしてどこに括るか分からないが、
樋口有介、柴田よしき、伊岡瞬、道尾秀介、米澤穂信、柚月裕子さん等々、優れた作家はたくさんいます。
中で、最近本格的ミステリーの傑作と思ったのが、2014年の江戸川乱歩賞受賞作で、下村敦史さんの「闇に香る嘘」。
張り巡らされた伏線、提示される数々の謎、欠片となったピースの一つ一つが最後にぴたっと収まる、一種の爽快感があります。

そうそう、私もミステリーばかりを読んでいるわけではありません。
柚木麻子さんの「ランチのあっこちゃん」やシリーズ最新作の「かんじのあっこちゃん」も読みました。
三浦しおんさんの作品は「まほろ駅前」シリーズで読み始めましたね。
時代劇では、以前は藤沢周平さん。最近では葉室麟さん。ちょっと作風が似ているかな?
ただ昔ほど純文学的な作品は読めなくなってきました。

これだけいろんなジャンルのいろんな本をたくさん読めるのも、実は図書館のおかげです。
阿蘇市立図書館は蔵書の数も多く、スタッフは気立てのいい美人揃い。
暇な老人は毎日でも通いたい施設なのです。
これで入れ立てのコーヒーでも出れば、入り浸りになっちゃいますね。
それじゃあ困るからお茶は出ないのかな、図書館では。
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最近読んだ本のこと

2016年03月27日 | 最近読んだ本
旅と酒と本と、あとは少々の温泉。
これがあれば、ひねもすのたりな日々は悠々と過ごすことができるのです。

実は、私は結構な読書家なのだ。それも、相当昔から。
高校時代は生意気にもロシア文学に傾倒していて、
トルストイやドストエフスキー、チェーホフなどにも食指を伸ばしたませガキでありました。

大学に入ってからは、夏目漱石から森鴎外、現代(当時の)作品では、柴田翔や石川達三などの文学作品に傾倒し、
といっても全く作風が異なるので、要するに手当たり次第だったということだ。

で、いつの頃からミステリーにはまり、洋の東西を問わずに読みふけるようになった。
コナン=ドイル、アガサ=クリスティー、エラリー=クイーン、チェスタートンは言うに及ばず、
江戸川乱歩、横溝正史、鮎川哲也等々、ほぼ読破していると言っていい。

自慢話はこのくらいで、本題に。
最近読んだ本で印象に残っているのが、相場英雄さんの「ガラパゴス」。
もともと、社会派ミステリーの色が濃い作家であるが、
この作品で取り上げられているのは、日本の労働市場の悲惨さ。
それを告発するミステリーと言ってもいい。

「共震」と「リバース」で東北大震災と福島原発事故のその後を描いた作者が、
「ガラパゴス」では、派遣労働者や契約社員などの、日本の労働者の実態を抉り出している。
小説相応の脚色はあるにしても、決して誇大に表現しているわけではないだろう。
この小説を読めば、「仕事を選ぶから職に就けないんだ」という意見がいかに残酷なものか、身にしみて分かるだろう。

どこかの国の首相が、
「一億総活躍社会の実現」とか口当たりのいいだけのペラペラの薄っぺらい言葉を吐いているが、
それがどんな社会で、そこに至る道筋はどうするのか、具体的には何も語ることなく、
ひたすら軽いだけのスローガンとも言えない看板倒れの状況を何と言っていいのか。

はたまた、「この国は企業がもっとも活躍しやすい国です」などとも言っているが、
実態は、この作者が言うように、そんな国は労働者にもっとも過酷な国であるというのは間違いのない事実である。

現在のこの国の為政者をはじめ、自分が何のために政治家になったのか、
いや、そもそも政治とは何なのかも理解していないような連中の顔がどこを向いているのか、
今の数々の失言や失態を見てみれば歴然としている。
それでもそういう政治家を選ぶのは国民で、国民は自分の愚かさを嘆くしかない。

国は国のために存在するのではない。国民のためにのみ国は存在する。
国栄えて国民滅びては、そこはもうすでに国とは言えないではないか。

つい興奮して、話が小説から飛んでしまった。

相場英雄さんの小説には、いつも弱い者へのいたわりの視線が感じられて、
そこがとても共感できるのです。

最近読んだミステリーには、介護施設の虐待をテーマにした中山七里さんの「恩讐の鎮魂曲」。
これもまた考えさせられました。
そろそろ私にも縁がない話ではなくなって来ましたからね。

たかがミステリーと言わずに、是非一読ください。
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