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長期化する原油安(下)供給過剰の構造恒常化へ

2015年10月22日 | 資源・エネルギー
長期化する原油安(下)供給過剰の構造恒常化へ
イランの増産不可避 須藤繁 帝京平成大学教授
2015/10/22 3:30 日経朝刊

 原油価格の先行きをめぐっては、今が底値で早晩回復するという見方がある一方で、1バレル20ドル台への下落もあり得るという見方もある。米エネルギー省は今月6日、2016年1月の価格についてWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)で32~67ドルとの予想を公表した。



 今日の石油市場における最大の特徴は供給過剰だが、これは今に始まったことではない。昨年11月には需給バランスを回復するため、石油輸出国機構(OPEC)は減産に踏み切るとみられていた。しかしサウジアラビアは、シェールオイルの生産増こそが供給過剰の主因であると判断し、減産見送りを主導した。
 サウジが目標としたのは高コストのシェールオイル生産の抑制であった。既存の油田のうち、かなり高コストの油田は操業停止を余儀なくされたが、コストが1バレル80ドルを超える新規プロジェクトの開発が繰り延べられる程度の効果しかもたらされなかった。
 原油相場の動向をみると、米国でシェールオイルの減産が進むとの観測から、WTIは6月10日に61.43ドルまで上昇した。しかしその後は生産調整が進まず、7月以降は投機マネーが持ち高調整を進めたことで、相場は下落に転じた。その点からは、今年上期はサウジの意図に反して、米国のシェールオイルの増産基調は維持されたといえる。
 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は4月に「米国のシェールオイル生産見通し」を発表した。その中で、(1)シェールオイルは井戸により掘削の難易度や生産量が異なり損益分岐点がまちまち(2)シェールオイルは新規投資を抑える期間が長引けば生産量の頭打ちは避けられない――との分析を示した。
 JOGMECは9月発表のリポートの中で、原油価格が40ドルで推移した場合、2020年までに年平均のシェールオイル生産量は日量40万バレル低下するとの見通しを示した。また、50ドルで推移した場合には20年までに同15万バレル低下するのに対し、70ドルの場合は同40万バレル増えるという。シェールオイル開発は価格水準に非常に敏感である。
 それでは、原油安は定着したのであろうか。あるいはもう一段安はあり得るのか。
 今回の価格下落をサウジの政策と関連づける分析が多くみられる。その一つの類型は、1986年との対比で議論を進めるものである。この時期、サウジは「スイング・プロデューサー(調整生産者)」として、率先して減産を進めたことで、結果として市場シェアを大きく失った。今回の措置は当時の苦い教訓に基づくと指摘する論者は多い。
 しかし、シェア維持戦略だけではスパイラルな下落は起きない。86年に原油価格を10ドル割れまで下落させたのはネットバック取引だ。ネットバック取引とは、製品価格により原油価格を決める方法で、精製業者に精製マージン(利幅)を認めたことから、精製業者は可能な限り処理を増やし、結果としてスパイラルな価格下落をもたらした。
 次に98年との類似性を指摘する分析もみられる。当時はOPEC加盟国が抜け駆けで増産に踏み切ったことで産油量が急増し、価格下落につながった。実際のところは、97年11月総会のOPEC産油政策の失敗にほかならない。
 97年に進行しつつあったアジア通貨危機を過小評価し、同総会では98年1月からの原油生産上限を日量2503万バレルから2750万バレルに引き上げた。その結果、需給バランスが崩れ、原油価格下落をもたらした。減産すべき基調の中で増産したことが98年問題の本質だ。逆説的にいえば、今日のように日量200万バレルの恒常的な過剰がある中で、一層の増産が数カ月にわたり実施されない限り、一段安は考えにくい。
 02年には、サウジは自国やOPECだけが減産しても効果は限定的であり、産油国全体として対応すべきだと主張して、ロシア、ベネズエラなどのただ乗りをけん制した。そうした考えはサウジ当局には色濃く残っている。現在に置き換えても、日量200万~250万バレルといわれる余剰を吸収することは、サウジ一国としてはもとより、OPEC全体としても手に余るという事情は想像できる。
 今日、シェールオイルの生産コストは40~50ドルとみられている。仮に恒常的な余剰がもう一段増幅されたとき、すなわちOPECが減産を見送り続け余剰が継続する中で、中国の景気がより一層悪化したり、イランの市場復帰が本格化したりしたとき、原油価格はどう動くのか。一部の証券系調査会社が示した1バレル20ドル台への下落は、こうした条件が満たされた場合だろう。
 7月のイラン核協議の最終合意を受け、経済制裁は解除の方向に動き出した。イランの合意内容履行には数カ月かかるとみられるため、制裁解除は早くても16年初めとなる。その一方でイランは洋上備蓄を抱えているとの観測もある。関係会社が既に4千万バレルもの原油を積み込み、イラン沖合で取引成立に備えているとも報じられる。供給過剰の構造は当面変わらない中で供給増の要素がもう一つ加わることの意味合いは大きい。
 地政学的にはサウジとの関係悪化が懸念される。国際社会に復帰し、欧米企業との探査・開発協力も含めて産油量の増加を目指すイランとサウジがどのように折り合いをつけるのか。イランとイラクのシーア派政権が、スンニ派のサウジに産油政策の変更を迫るシナリオもあり得る。
 16年にサウジ、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェートが日量250万バレルの減産に踏み切ることで、原油価格は安定に向かうとの観測も出始めた。しかし、実務的にはその大半をサウジが担う一方で、イランやイラクは増産を主張するという方向で調整が進むとみられる。
 いずれにせよ、カナダ、ロシア、イラン、ブラジルなどは増産志向なので、原油価格は大きく上昇しない。一方で、世界の石油需要は19年に日量9700万バレルでピークを打ち、その後は途上国の需要が伸びても、その水準を超えることはないだろうという見方も出ている。途上国の需要増は、先進国のエネルギー効率の改善による需要減と相殺され続けるので、1億バレルの大台の直前で頭打ちになる可能性があるというわけだ。
 こうした見方は、数年前から一部メジャー(国際石油資本)の幹部からも示されている。電気自動車や代替燃料の普及がその主因として挙げられている。石油離れの動きが強まるならば、世界最大の石油資源保有国としてサウジが本格的な危機感を持ったとしても不思議ではない。
 大きな歴史の流れの中では石油時代の静かな終焉(しゅうえん)が始まっている。サウジにとっては、自らの持つ石油資源を最後の一滴まで最適に利用するにはどのような産油政策が妥当なのか、難しい選択を迫られるだろう。
 歴史的な変化があるとはいえ、無資源国日本は引き続き中東の石油に依存せざるを得ない。少しでも依存度を引き下げるため、次世代燃料資源「メタンハイドレート」など自国資源化が可能な資源の開発を進める必要がある。また、関係国と連携してシーレーン(海上交通路)防衛を確保し、特定のエネルギーや特定の国・地域に過度に依存することなく、供給源の分散化を進めていくことが欠かせない。

ポイント
○今年上期もシェールオイル増産基調続く
○最大の資源保有国サウジの苦悩は深まる
○日本は引き続き供給源の分散化を進めよ
 すどう・しげる 50年生まれ。中央大法卒、専門は石油産業論

怪物ETF「日経レバ」が株式相場で存在感示す

2015年10月22日 | 株式市場
スクランブル 「怪物ETF」停止の深層
個人マネー集中のひずみ
2015/10/22 3:30 日経朝刊

 株式市場参加者たちは今、ある上場投資信託(ETF)の一挙一動を固唾をのんで
見守っている。日経レバレッジ・インデックス連動型ETF(日経レバ)だ。21日の
日経平均株価の大幅高の背景にも日経レバに絡む思惑があった。運用の限界点に達し、
設定を停止するほど個人マネーをひきつけた日経レバ。この新たな「怪物商品」の
登場は何を映すのか。




 「やっと呪縛が解けたか」。21日午後、日経平均がある水準を突き抜けて上昇すると、
トレーダーたちは胸をなで下ろした。
 「レバの呪縛」と呼ぶ壁は1万8300~1万8400円。8月下旬以降、日経レバの残高が
急増した際の日経平均の水準で、そこで買った個人の平均買いコストを示す。これまで
何度となく壁に跳ね返されてきたが、21日は円安の助けもあって壁を突き抜け、「上昇
に弾みがついた」(国内証券トレーダー)という。
 それほど日経レバの影響力は高まっている。日経平均の2倍の値動きをめざすこの
商品は約8000億円の残高を集め、売買代金は東証上場全銘柄のトップが指定席になった。
急激な膨張による副作用を警戒する声も多い。代表格は相場変動を増幅するとの指摘だ。

□   □

 日経レバは日経平均先物で運用し、残高の2倍に当たる先物の持ち高を保有。そして
相場変動に合わせて先物の持ち高を日々増減させ、基準価格を調整する。
 例えば日経平均が1%上げた日は残高の2%に当たる約160億円の先物を買う計算だ。
運用する野村アセットマネジメントでインデックス運用の投資責任者を務める奥山修氏
は「基本的に午後3時から(取引終了の)3時15分にかけ執行する」という。その意味
で日経レバの持ち高調整の売買は相場変動を増幅する。
 日経レバが16日から設定を一時停止したのは「先物の終値形成に過度の影響を与えな
いよう定めた水準を超えてきた」(商品企画部の花畑智久シニアマネジャー)ためだ。
その「水準」は不明だが、市場全体の終値取引に占める日経レバの売買シェアが、3割
を超える日もあったようだ。
 「取引所や金融庁が圧力をかけたのでは」との噂も出回った。野村アセット幹部はその
噂を否定し、「圧力を受けないためにも前倒しで止めた」と明かす。

□   □

 ともあれ8月下旬から9月までの相場下落局面での日経レバへの資金流入はそれほど
急激だったわけだ。野村証券の塩田誠ETFマーケティング・グループ長は「信用では
なく現物で買った個人が大半。相場に買い遅れていた個人が(下げ局面で)逆張りの
買いに動いた」と話す。
 結果、日経レバは新規マネーに見合う新たな先物の持ち高を作る必要が出てきた。
これが下げ相場の日の先物売りを相殺し、むしろ買い手に回った。ある国内証券幹部は
「8~9月の外国人売りに唯一買い向かったのは日経レバの個人。それがなければもっと
下げていただろう」という。

 個人マネーの新たな受け皿になった日経レバだが、資金が集中する現状はやはりいびつだ。
約200銘柄のETFの全売買代金の7割超を日経レバ1銘柄が占める。同じレバレッジ
商品である先物は現物株と損益通算ができないなど個人にとって使い勝手が悪く、
日経レバの膨張を招いた面もある。「日経レバ悪玉論」を振りかざすよりも、怪物商品
を生んだ構造問題に目を向ける時かもしれない。


新日鉄住金・ポスコ訴訟、和解で手打ち 中国勢と競争、実利追う

2015年10月22日 | 企業研究
真相深層 鉄鋼、変わる日韓「協調」
新日鉄住金・ポスコ訴訟、和解で手打ち 中国勢と競争、実利追う
2015/10/22 3:30 日経朝刊

 新日鉄住金と韓国鉄鋼大手ポスコとの高級鋼板技術の流出を巡る訴訟は、
ポスコが300億円を支払うことで和解した。鉄鋼は拡大意欲が強い中国勢などが
相次いで増産に踏み切り、供給過剰で市場環境が悪化している。競争が激しさを
増すなか、新日鉄住金とポスコが築いてきた協調関係も変質した。
和解で手打ちし、実利を追う。



「カネより重要」
 「実質的には勝利だ」――。新日鉄住金からは安堵の声が漏れる。
求めていた約1千億円の賠償には届かないが、同社関係者は「和解金より、
もっと重要なものが獲得できた」と口をそろえる。
 同社は明らかにしていないが、訴訟の対象になった高級鋼板「方向性電磁鋼板」
のライセンス料や販売地域についてポスコと合意できたもようだ。この電磁鋼板は
変圧器などに使い、相次ぐ発電所の新増設で品不足感が強い。価格は一般に流通
する鋼材よりも大幅に高く、利益率も大きい。

 ポスコは韓国や米国で電磁鋼板を販売し、世界シェア2割前後と新日鉄住金に
迫る勢いだった。和解でポスコの販売を今後韓国を中心とする地域に制限できる
とみられるほか、ポスコから電磁鋼板の販売に伴いライセンス料収入が見込める。
 交渉を有利に進められたのは「敵失」があったからだ。ポスコが2007年、
電磁鋼板の技術を中国企業に流出させたと元社員を提訴。この裁判で元社員は
「流出したという技術はもともと新日本製鉄(現・新日鉄住金)の技術」と主張した。
 思わぬ証言が飛び出し、新日鉄が12年にポスコを技術流出で提訴し、争って
いくうえでの有力な支援材料となった。ポスコは「法廷で消耗戦を続けても機会
損失が発生するだけ。戦略提携をより強化するために和解した」(幹部)と説明する。

 かつてポスコが新日鉄住金を「育ての親」と呼ぶこともあった協調関係は様
変わりした。ポスコは1960年代、日韓基本条約に基づく経済協力資金を元手に
八幡製鉄や富士製鉄(後に統合し、新日本製鉄)など日本の鉄鋼各社が技術供与し、
設立した。新日鉄にとってアジア市場で韓国勢との過当競争に陥ることを避ける
ためにはポスコとの「協調」が重要。同社首脳はポスコのトップと親交を深めてきた。
 ポスコの実質的な創業者、朴泰俊(パク・テジュン)氏は技術面などで育てて
くれた新日鉄の稲山嘉寛元社長に恩義を感じていたという。稲山氏の秘書を務めた
千速晃元社長も、朴氏の秘書だったポスコの劉常夫(ユ・サンブ)元会長と親しく、
2000年に締結した戦略提携では互いにトップとして交渉に臨んだ。

 だが新たなライバルが台頭し、それまでの秩序は一気に揺らいだ。
欧州アルセロール・ミタルは2000年代初頭に積極的なM&A(合併・買収)で
規模を拡大した。
 さらに中国の粗鋼生産量は14年に8億2270万トンと、10年前の3倍に急増。
中国勢は安値で輸出攻勢をかけている。鋼板市場のグローバル化に伴い、
自動車用鋼板などで新日鉄住金とポスコも海外市場で激しくぶつかり合い、
競争の側面が目立つようになった。

市況低迷は深刻
 中国製鋼材の大量輸出による世界の鋼材市況低迷は深刻で、採算改善は
当面見込めない。ポスコも安価な中国製鋼材に販売先を奪われている。
 中国経済の減速で輸出環境は不透明さを増しており、収益悪化懸念は
ポスコだけでなく、新日鉄住金にも忍び寄る。今回の和解劇には旧秩序の協調関係が
崩れるなか、法廷闘争より収益基盤の立て直しを優先しようとする両社の思惑が
見え隠れする。