NEST OF BLUESMANIA

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#309 エスター・フィリップス「Baby, I'm For Real」

2014-03-02 10:42:25 | Weblog
#309 エスター・フィリップス「Baby, I'm For Real」(From A Whisper To A Scream/CTI)

アメリカの黒人女性シンガー、エスター・フィリップスによる、ジ・オリジナルズのカバー。マーヴィン・ゲイ=アンナ・ゴーディ・ゲイの作品。72年発表のアルバムより。

エスター・フィリップスは35年、テキサス州ガルベストン生まれ。幼くして歌に目覚め、14才のときにジョニー・オーティスの目にとまり、モダン・レコードより50年に「リトル・エスター・フィリップス」としてデビュー。ミドルティーンにして、R&Bチャートの常連となる。

若くして成功したものの、一時はドラッグ中毒となり、その治療のため休業、60年代初頭まで引退状態となってしまう。

62年にようやくカムバック。リトルの名を外し、そこから彼女の本格的なキャリアが始まる。ブルース、ジャズだけでなく、カントリーやビートルズのような白人ポップスもカバー、幅の広い活躍を見せるようになる。

60年代はアトランティック、70年代にはCTIに移籍、ソウルさらにはクロスオーバー/フュージョンと、そのサウンドもどんどん進化していった。きょうの一曲「Baby, I'm For Real」は、CTIでの最初のアルバムからである。

このアルバムはグラミー賞にもノミネートされるほど、クロウト筋にも評価が高かった。残念ながら、アレサ・フランクリンに破れて受賞は逃したが、これでフィリップスは再び注目を集めるようになり、75年にはディスコ・アレンジの「縁は異なもの(What A Difference A Day Makes)」で大ヒットを飛ばすようになるのだ。

まずは聴いていただこう。この曲はもともと69年に、後に離婚することになるマーヴィン・ゲイ夫妻が作曲し、黒人ボーカルグループ、ジ・オリジナルズがヒットさせた、スローなソウル・バラード。

歌詞を聴いていただければすぐわかるように、ベタ甘のラブソング(とても離婚の危機を迎えた夫婦の作品とは思えない)で、これをフィリップスは絶妙なリズム感でソウルフルに歌い上げている。まさにパーフェクトな歌唱。

バックも素晴らしい。Kudu/CTIといえばジャンルを越えたスゴ腕ミュージシャン達を多数起用したことで知られているが、本作でもオーケストレーション・指揮のピー・ウィー・エリス、アルトサックスのハンク・クロフォード、バリトンサックス&フルートのデイヴ・リーブマン、キーボードのリチャード・ティー、ギターのコーネル・デュプリー、エリック・ゲイル、ベースのゴードン・エドワーズ、ドラムスのバーナード・パーディ、パーカッションのアイアート・モレイラら、綺羅星のごとき実力派が名前を連ねている。そう、キングピンズやスタッフといったトップバンドにかかわった人々である。この布陣で、もう、出来が悪いわけないっしょ。

流麗なストリングスをフィーチャー、洗練の極みのようなサウンドをバックに歌われる、粘っこく土臭い、ブルース&ソウルをいやでも感じさせるフィリップスの声が、とにかくセクシーだ。

「From A Whisper To A Scream」というアルバム、この曲以外にも、ギル・スコット・ヘロンの「Home Is Where The Hatred Is」、アラン・トゥーサンによる表題曲「From A Whisper To A Scream」といった佳曲がつまっており、歌、バックサウンドともに、文句のつけようがない。

オトナなら、エスター・フィリップスのような本当に歌のうまいシンガーを知っていなくちゃ。ジャニス・ジョプリンを好きなひとなら、フィリップスの「濃さ」も、絶対クセになると思う。

84年、48才の若さで病死した彼女は、私生活的にはあまり幸福だったとはいえないが、最高の音楽をわれわれに遺すことで、多くのリスナーにとって、永久に忘れ得ぬ存在となった。そういう歌手人生もまた、悪くないなと思う。

魂をゆさぶるそのシャウトは、レコーディング後42年を経た今も、ひたすら熱い!のであります。

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