2024年7月3日(水)
#454 カクタス「Long Tall Sally」(Atco)
カクタス、1971年2月リリースのアルバム「One Way…Or Another」からの一曲。エノトリス・ジョンスン、ロバート・ブラックウェル、リチャード・ペニマンの作品。カクタス自身によるプロデュース。
米国のハードロック・バンド、カクタスは1970年にデビューした4人組だ。
元はヴァニラ・ファッジというバンドで活躍していたベースのティム・ボガート、ドラムスのカーマイン・アピスが、69年後半から次なるグループを構想して、アンボイ・デュークスにいたボーカルのラスティ・デイ(本名ラッセル・E・デイヴィッドスン)、ミッチ・ライダーのバンドにいたギターのジム・マッカーティ(ヤードバーズのドラマーとは別人)を誘って結成された。
70年3月、ヴァニラ・ファッジの解散後の7月にファースト・アルバム「Cactus」をリリースして、デビュー。レコーディングは解散前の69年10月から12月にかけて既に行われていたものだ。
収録されたナンバーは、基本的に彼ら4人の共作(6曲)だったが、2曲はウィリー・ディクスンらによるブルース曲だった。カクタスのサウンドはハード・ロックであると同時に、ブルース・ロックの性格も強く持っていた。
このデビュー・アルバムは全米54位。大ヒットとはいかなかったが、ボガート、アピスの知名度もあってか、そこそこのセールスとなった。
その7か月後、71年2月に彼らはセカンド・アルバムをリリースする。タイトルは「One Way…Or Another」である。
前作同様このアルバムでも、オリジナル曲6曲にカバーものを2曲加えた構成になっている。その2曲とは、ブルースシンガー、チャック・ウィリスの代表曲「Feel So Bad」、そして本日取り上げた一曲「Long Tall Sally」である。
この曲はみなさんもご存じのように、黒人ロックンロールシンガー、リトル・リチャードの大ヒット曲であり、ロックンロール・スタンダードともなっている。
56年3月にシングルリリースされるや、そのハイテンションな曲調がバカウケしてR&Bチャートで1位を獲得、年間チャートでも45位にランクインしている。
この曲はもともと10代の少女、エノトリス・ジョンスンが書いて持ち込んだ歌詞に、レイ・チャールズを手がけたことで知られるプロデューサー、ロバート・ブラックウェル、そしてリトル・リチャード本人(本名リチャード・ペニマン)が曲を作って完成させたものだ。
その後、数多くのアーティストがこぞってこの曲をカバーする。その代表はまず、エルヴィス・プレスリー(56年)であり、そしてザ・ビートルズ(65年)だろう。
それぞれ50年代、60年代を代表するトップ・ロックスターのカバーによって、本曲は不動の地位を得たのである。
それ以外にも、あまり知られていないが、ザ・キンクスやフリートウッド・マックといった個性的なバンドも本曲をアルバムで取り上げている(キンクスは64年、マックは70年のライブ盤)。興味のある人は、ぜひチェックしてみて欲しい。
それら全てのカバーバージョンに共通するのは、オリジナルのアップテンポ・ビートをそのまま継承していることだ。したがって時間も2分程度とごく短いものが多い。
さて、本日のメインテーマ、カクタス・バージョンはどんな感じだろうか。
これがまことに個性的なアレンジになっている。獣の咆哮を思わせるギター・プレイから始まる、重厚なリフ、粘っこいスロー・ビート、そしてテンポチェンジが執拗に繰り返されるヘビーロック・チューンへと変貌を遂げているのである。
マッカーティのワウを効かせたディストーション・ギター、リズム隊の刻む重厚なビート、そしてデイの攻撃的なシャウト。
約6分にわたる激しい演奏で、聴く者をノックアウトする、ニュータイプのロックンロール。
ロックンロールはすべからくアップテンポ、という多くの人の先入観を見事に裏切るこの名アレンジを聴いて、当時の筆者も目からウロコであった。
このセカンド・アルバムは、セールス的には全米88位にとどまり、カクタスは商業的には成功したとは言えなかった。同年リリースのサード・アルバム「Restrictions」、翌72年の4thアルバム「’Ot’ n’ Sweaty」も、共にチャート100位以下の結果に終わる。
バンド内の確執もあって、カクタスはメンバーを2名交代したものの、最終的にはそれもうまく功を奏せず、72年に解散に至る。
ボガート&アピスのリズム隊は当時、米国ロック界で最強とも呼ばれており、実力的には決して他のバンドに劣るようなところはなかったので、実に残念なグループであった。
筆者個人としては、シングル・ヒット曲を出せなかったことが一番致命的なポイントだったかなと思っている。ZEPにおける「Whole Lotta Love」のような一曲を生み出してさえいれば、成功もあり得たのではないだろうか。
それでも彼らが残したアルバムは、70年代ハードロックの定番として、今も熱心なファン達によって聴き継がれている。
彼らのエッジの立ったサウンドは、いつ聴いても耳に快感だ。ロックンロールの70年代的な新解釈を、ぜひこの一曲で感じてみてくれ。