2024年7月12日(金)
#463 エルトン・ジョン「Rocket Man」(DJM)
エルトン・ジョン、1972年4月リリースのシングル・ヒット曲。エルトン・ジョン、バーニー・トーピンの作品。ガス・ダッジョンによるプロデュース。バリ録音。
英国のシンガーソングライター、エルトン・ジョンは本名レジナルド・ケネス・ドワイト。1947年3月、ロンドン郊外のピナーに生まれる。両親は不仲で彼が15歳の時に離婚している。
4歳の頃からピアノを弾き始め、幼くして才能を顕す。王立音楽院に合格して、卒業寸前まで約6年間在籍していた。バッハ、ショパンなどを弾く一方で、R&B、ソウルにも興味を持ち、バンド活動を活発に行う。
レコード会社のオーディションに落ちたことがきっかけで、作詞家のバーニー・トーピンを紹介してもらう。以来、長きにわたるトーピンとの共作が始まる。
67年以来、エルトン・ジョンと名乗り、68年トーピンとのチームでDJMレーベルにソングライターとして契約。他のシンガーに曲を提供する一方、同年初のシングル「I’ve Been Loving You」をリリース。
70年4月、セカンド・アルバム「Elton John」をリリース。そこから10月にカットしたシングル「Your Song(邦題・僕の歌は君の歌)」がいきなり全英7位、全米8位の大ヒットとなり、エルトン・ジョンはスターシンガーへの道を歩み始める。
その頃はピアノの弾き語り、あるいはベース、ドラムスを加えたトリオ編成での演奏が中心で、楽曲も叙情的、内省的なものが多く、いわゆるポップ・ミュージックらしさはあまり感じられなかった。
しかし、大ヒットを出して全世界的にアピールしたこと、他の有名ミュージシャン達(例えばジョン・レノン、マーク・ボラン)とも積極的に交流したことにより、彼の性格、音楽的指向性もかなり変化していく。
ロックスターとして、人前で目立つことに快感を感じるようになり、サウンドもポップ志向になっていくのだ。
それが顕著に現れたのが、本日取り上げた一曲、72年3月にリリースしたシングル「Rocket Man(I Think It’s Going to Be a Long, Long Time)」であると、筆者は思う。
このバラード・ナンバーはその後5月リリースされたアルバム「Honky Chateau」に収録されるが、先行シングルとして出したところ、全英2位、全米6位と2年前の「Your Song」を上回る大ヒットとなった。
アルバムの方もその勢いに乗り、全英2位、全米1位と記録破りのビッグヒットとなっている。彼の人気が一過的なものではないことを、見事に証明してみせたのであった。
このアルバムからは、それまでのボール・バックマスターによるストリングス・アレンジに代わって、バックがシンセサイザーを多用したポップなサウンドに変化している。
「Rocket Man」もまさにその好例で、それまでのエルトンのイメージを大きく変える一曲に仕上がっている。バックバンドのメンバーに、ギタリストのデイヴィー・ジョンストンを加えたことにより、ロックっぽさも大幅にアップした。
歌詞内容としては、宇宙飛行士の仕事、生活ぶりを、サラリーマンの日常になずらえた、ユニークな視点が面白い。ちょっと皮肉めいた、でもどこか暖かいユーモアが感じられる。当時の米ソによる宇宙開発時代を、如実に反映しているとも言える。
よりポップに一皮剥けたエルトンは、同アルバムより、まさに破竹の進撃を開始することになる。
翌73年リリースの「Don’t Shoot Me I’m Only the Piano Player」で全英・全米両方で1位をついに獲得、その後75年の「Rock of the Westies」に至るまでの5枚のアルバムは全て全米1位に輝いている。
72年から75年までの約4年間は、まさにエルトン・ジョンの人気シンガーとしての黄金時代であったのだ。
その後も数々のヒットを40年間にわたって出し続けた、ピアノ・ロックのパイオニアにして完成者、エルトン・ジョン。
彼の歴史的覚醒ポイントとも言える名曲を、70年代当時の、あなたの想い出と一緒に、もう一度味わってみて。