つづきです。(『神の国の証人ブルームハルト親子』〔井上良雄 著:新教出版 より)
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ブルームハルトの戦い、というよりは、ブルームハルトを通しての主イエスの戦いは、そのようなものであったが、その戦いも、終わる時が来た。それは1843年12月24日から28日におよぶクリスマスの期間のことであった。
その頃、それまで起こったさまざまな奇怪な出来事は、いよいよその度を加えて来ていた。ことに、それまで起こらなかったこととしては、暗黒の力の襲撃は、ゴッドリービンに対してだけなく、彼女の半盲の兄のゲオルクや姉のカタリーナにまで及んだ。
ブルームハルトは、この3人とともに、絶望的と思われる戦いを、戦わなければならなかった。それは、「勝利か、さもなければ死か」というように、一切をかけて戦わなければならない戦いであったと、ブルームハルト自身が語っている。
兄のゲオルグは、間もなく正常に戻ったが、カタリーナの状態はいよいよ悪化して行って、狂乱状態になって、ブルームハートに襲い掛かってくるので、誰も近寄ることが出来ないような有様になった。
ところが、12月27日から28日にかけての真夜中ごろ、予測できないことが起こった。それは、ブルームハルトの「報告書」によれば次のような出来事である。
「・・・すると、娘〔カタリーナ〕の喉から、何度か、恐らく15分ぐらいは続いたであろうが、絶望の叫びが発せられた。それは、そのために家が壊れると思われるほど震撼的な強さを持つ声であった。私はそれ以上に恐ろしいものを、考えることができない。
・・・やがて遂に、もっとも感動的な瞬間が来た。それは、それを目で見、耳で聞いた証人でなければ誰も十分に想像できないような瞬間であった。
朝の2時に、娘は頭と上半身を、椅子の背にのけぞらせていたが、『サタンとなった天使』と称するものが、人間の喉から出ると思えないような声で、『イエスは勝利者だ。イエスは勝利者だ』と、吠えるように叫んだ。
この言葉は、それを聞いた周りの人々に理解され、忘れることのできない印象を与えた。・・・やがて、悪霊の威力と力は、一瞬ごとに奪われていくように見えた。
悪霊は次第に静かになり、おとなしくなり、次第にその運動が鈍くなり、ついには全く認めることができない程に消滅してしまった。それは、瀕死の人の生命の光が消えていくのと、同じであった。しかし、それは、ようやく朝の8時ごろのことであった。」
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これが2年に渡る「戦い」の結果であった。すなわち、それは、単にカタリーナにとってだけでなく、ゴッドリービンにとっても、癒しの時だったのである。
彼女らに、まだしばらく多少は異常な兆候が残りはしたが、それは、「崩壊してしまった建物の残骸」、あるいは「自ずから失敗に終わった暗黒の試み」(ブルームハルト)にすぎなかった。
ゴットリービンの一家は、長い苦しみから解放されて正常な生活に帰った。ことに、ゴッドリービンは、その後、ブルームハルトの家庭に入り、家事や育児に関してのブルームハルト夫人の忠実な助け手となる。
また、メットリンゲンでもパート・ボル(次に移った隣町)でも、ブルームハルトに助けを求めて集まってくる人々・・・ことに精神障害に苦しむ人々を扱うのに、彼女は欠くことのできない人となったのである。
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(※著者の考察は、多く挟まれており、キリスト教をかじった人には、沢山の示唆が述べられています。ただ、『エクソシスト』とう怖い映画のモデルとなったであろう、この実話はこの辺で終わることと致します。著者の本文を一部省略してますが、特にその部分を、そのまま抜粋し、掲載しました。)