寝転がって気ままに想う事

 世の中ってこんなもんです・・
面白可笑しくお喋りをしましょうか ^^

幸運の女神様(11)

2010年09月07日 08時49分58秒 | 日記
川中部長の必死の説明は続きます。そばの鬼塚課長も固唾を飲んで聞いていますが佐伯本部長の表情は一向に変わりません。 むしろ川中部長の悪あがきを楽しんで聞いているようでした。
『本部長一度この資料をご覧になって下さい』
『ふ~む』資料を目の前に置いたまま時は過ぎて行きました。
(この資料さえ見てくれたら…)
川中部長と鬼塚課長は切に思いました。
『ちょっと失礼』
佐伯本部長が席を外しました。
『?』どこへ…
二人は顔を見合わせました。
川中部長の熱弁にも顔色一つ変えない佐伯本部長、さすが三冷と言われるはずだよ。
お互いの顔にはのれんに腕押しで焦燥感が漂っていました。
『ふぅ~』背もたれに掛かりながら川中部長はタバコに火をつけました。
当時(三十年前)タバコは社内で自由に吸えました(笑) タバコを吹かしながら壁をにらみ付けています。
一方の鬼塚課長、 俺はどうなるの! 不安は募るばかりです。
『部長…』鬼塚課長が声を掛けました。
『もうちょっとだ資料さえ見てもらったらなんとかなるぞ』
川中部長は鬼塚課長の言葉を遮って言いました。
『…』『なんとも堅物だけど資料を見さえしたら…』腕組みしながら相変わらず壁をにらみ付けていました。
『ふ―』鬼塚課長にとって川中部長は兄貴分です。
いわば同じ派、一蓮托生であります。もし鬼塚課長が飛ばされれば次は自分、そんな意識が強いのです。
『コンコン!』ノックと共に佐伯本部長が入ってきました。
相変わらず表情一つ変えない態度です。
すーと座席に戻りました。
しかしこの方、哀願重ねるお二方を相手に拒絶する訳でもなく淡々と耳を傾ける態度に川中部長は心底舌を巻いていました。 佐伯本部長が席に着くと二人も背筋がピンとなりました。
*これって裁判みたいですね(笑)
被告人が弁明を述べる。裁判官はそれを眉一つ動かさず拝聴して、一旦は休廷します。休憩の後裁判官が登場して『判決』を述べますよね(笑)
佐伯本部長はテーブルのお茶を取り一口飲みました。 二人は微動だにできません。
判決はいかに!
『実は私に急用ができました』
『…』
『それでこの件について確かに申し渡しましたよ』
『…』『よろしいですか』
よろしいですか…ってよろしくないから抗議しているんじゃあないか! 『あの…資料を見ていただけないのでしょうか』
川中部長の哀願が続きます。『私は承諾できません』じれた鬼塚課長はキッパリと言いました。
『承諾?』佐伯本部長のメガネが光りました。
『こらっ』川中部長が鬼塚課長をたしなめます。
『君は会社の組織が判っていないねぇ』眉一つ動かさず佐伯本部長は皮肉りました。
…かと言って気分を害している様子でもありません。 『兎に角この資料は預かります』
それじゃあ… 一言言うとスッと席を立ちました。
『ありがとうございます』
慌てて川中部長は立ち上がりました。鬼塚課長も続きます。
『追って連絡をしますから…』それだけを言うと佐伯本部長は会議室を出て行きました。
二人は席にへたりこみました。
『どうなるんでしょう』鬼塚課長が口にしました。
川中部長はタバコを咥えながら例によって壁をにらみ付けました。
『佐伯さんに指示している奴は誰なのだろう?』
それが判らないと手の打ちようがないぞ…煙を壁に吹き付けつぶやきました。
肝心の斉藤役員は入院しています。 多分斉藤役員と同クラスの大物が指図しているはずです。
ただ川中部長には微かな手応えもありました。あの佐伯本部長が資料を持ち帰ったことでした。
資料には今の部署の得意先の経緯から不振の原因、対策将来の展望等が克明に書かれています。
『でも部長…』
鬼塚課長は不審な面持ちでした。
『あれを(資料)見てやれば誰にだって出来ますよ』
確かにあの資料はマニュアルとしても使えそうでした。
『そりゃあそうだけど、この場合はあれくらいしないと納得を取れないぞ』川中部長にも成算はありません
『まあ佐伯本部長に下駄を預けなくっちゃあ仕方ないね』
鬼塚課長も同感でした。
むしろここ一番腹の座った姿勢に改めて感心しました。
『ところで鬼塚君今夜は何か用事はあるのかい』
『はい少しありますがキャンセルします』
『ハハハ彼女とデートじゃあないか』
図星でした(笑)
八重洲で食事をしたあと久々に合体を済ませた鬼塚課長は夜にもう一度…と約束をしていました(笑)
『大丈夫ですよ』川中部長の指摘通りでしたが特に否定はしませんでした。
『そうか、無理してないか(笑)』
『あいつは俺に惚れているから何でも言う事聞きますよ』鬼塚課長には自信がありました。半年近く放ったらかしにしたのに電話を掛けたら一発でOKだったのに自信を深めていました。
『じゃあ仕事が終わったら行くか!』
『はい!新宿ですか?』
*この当時まだ若かった川中部長や鬼塚課長は銀座や新橋には馴染みが ありませんでした。
『いや池袋に若い子のいる店があるんだよ♪』
川中部長は大の♪女好きです(笑)
『池袋ですか、東口かな?』
鬼塚課長も同様の女好きでしたから 二人は合うんでしょうね(笑)
『よーし、そうと決まったら広子にはキャンセルの電話をしなくっちゃあ♪♪』事務所の窓からはすでに西に傾いた夕日が見えていました。
鬼塚課長にはまだ 広子さんが幸運の女神様と本気で思っていなかったのでしょう(笑)
電話の向こうの寂しげな声を聞いた鬼塚課長は少し気にはなりましたが心は既に池袋でした(苦笑)
(困った奴だね(笑))
…夕方になりました。いざ池袋に♪ 鬼塚課長が張り切っていた時でした。
『鬼塚課長電話です』横の事務職が告げました。
『電話?』
『大阪からです』 高辻君からかな? さっき連絡したのになぁ…
高辻主任には広子さんに連絡を取った後に電話していました。
何だろ?『はい鬼塚です』
電話の向こうから高辻主任の声がしました。
『…忙しい時にすみません、今よろしいでしょうか』『いいけど…』何か急を告げる予感がしました。
コメント
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