信州サーモンをご存知だろうか。海のない県、長野県とサーモン/鮭とはオヤと思う組み合わせであるが、これは長野県水産試験場が独自開発した自慢の養殖魚の名前である。
信州サーモンのPRポスター(長野県公式ホームページから引用)
この信州サーモンとは、ニジマスとブラウントラウトの交配種だが単なるかけあわせではない。おいしさを追求するとこうなるのかという例のようだが、バイオテクノロジーを駆使して出来たものということで、他県からもいくつかの類似のブランド・トラウトが開発され販売されているが、私にはこの信州サーモンが一歩抜きんでているように思えるのは贔屓目だろうか。
7年ほど前、まだ新潟県上越市に住んでいたころ、軽井沢のリゾートホテルに母と妹二人とを招き宿泊したことがある。そのときの夕食に出されたものがこの信州サーモンのムニエルだと説明を受けた。
普通であれば、こうした宿泊先での夕食のメニューのことは忘れてしまいそうなものだが、やはり何か心に残るものがあったようで、今でもよく覚えている。残念ながら、記憶にあるのは名前の方で、肝心の味は美味しかったというだけで、詳細は覚えていないのだが。
長野県のホームページ(http://www.pref.nagano.lg.jp/suisan/jisseki/salmon/salmon.html)にはこの信州サーモンのことが次のように紹介されている。
「長野県の養殖魚の主流であるニジマスは、育てやすく肉質もよい反面、IHN(伝染性造血器壊死症)などウイルス性の病気に弱いという欠点があります。そこでこうした病気に強いブラウントラウト(ヨーロッパ原産の鱒)と交配させることで、両方の長所を持った魚を開発しました。
普通、ニジマスとブラウントラウトを交配させても、その子どもはほとんど死んでしまいます。そこで、
(1) 普通のニジマスの受精卵(2n=二倍体)に高い水圧をかけて染色体を2倍(4n)に増やします。
(2) 成長した四倍体(4n)の雌から採った卵子にブラウントラウトの精子を受精させ、三倍体を作ります。
三倍体は、雄も雌も子どもを生むことはありませんが、雌は卵をもたないため、その栄養が成長にまわり通常よりも大きくなり肉質もよくなります。
そこで、
(3) ブラウントラウトの雌を雄性ホルモンで性転換させ、将来雌になるX精子しか作らないようにして四倍体ニジマスの卵子と受精させます。
こうして、すべて雌の三倍体(信州サーモン)が生まれます。長野県水産試験場が開発したこの技術(四倍体を使ってすべて雌の雑種三倍体を作り出す)は、全国初の手法です。」
ニジマスとブラウントラウトの交配により信州サーモンを得る説明図(長野県公式ホームページより引用)
さっと書いてあるので、判りにくいかもしれないが、ポイントは三倍体の雌だけのハイブリッドを効率よく作り出すところにあるようだ。こうして、病気に強く育てやすい、しかも成長の早い種が得られている。また、繁殖能力が無いので逃げ出したとしても一代限りとなり、自然界への影響が抑えられるということも考慮されているようである。
この三倍体とは普通には馴染みの無い言葉であるが、学生時代に学んだとおり、通常、生物の体は二倍体、すなわち両親から1本づつ受け継いだ染色体が2本のペアになっていて、これが生物の種に応じた数だけ備わっている。
上記の説明のとおり、信州サーモンの場合には母からは2倍の2本づつの染色体を、父からは通常通り1本づつの染色体を受け継ぎ、結果3本づつの染色体のセットを持つようになっていて、三倍体ということになる。
こうした世界のことをほとんど知らない私には、受精卵に高圧をかけると染色体数が2倍になるということや、雌を性ホルモンで雄に性転換させるというのも驚きだが、三倍体や四倍体といった染色体数を持つ信州サーモンや、ニジマスの個体が(生殖能力や体の大きさは別にして)種としての正常な発達をするということがとても不思議に思える。
しかし、自然界にはこうした二倍体以外の倍数体の染色体数を持つ生物も種々存在しているようであり、植物には特に多く見られるという。
人為的なものでは、種無しスイカは三倍体、栽培種のジャガイモは四倍体ということである。
さて、この信州サーモンは、冒頭に書いたとおり、長野県水産試験場が約10年かけて開発し、種苗生産や養殖を行うために水産庁に申請したマス類の新しい養殖品種で、2004年(平成16年)4月26日付けで承認されて、稚魚の出荷が始まっている。初年度の出荷数量は10万尾強、4年後の2008年(平成20年)には30万尾に達している。
この頃の水産試験場の方針は大量に売りさばく量販店対象ではなく、料理店や宿泊施設であったという。私たちが、ホテルで提供を受けたのが2009年頃のことなので、まさにこうした手探りで販売状況の様子を見ている時期であったということになる。
その後の稚魚の出荷数量は2016年度で36万尾というから20%程度増加したものの、この頃の状況はその後もさほど大きくは変化していないということになる。
最近は、ようやく軽井沢のスーパーの魚売り場にサクの状態や、刺身としてスライスされたものが普通に並ぶようになっているが、私たちが移住してきた2015年にはまだいつでもスーパーに並んでいるという状態ではなく、2軒しかないスーパーをあちらになければこちらと探さなければならなかった。
東京や横浜から訪ねてきてくれる友人には、信州産の食材を食べてもらいたいので、定番としてこの信州サーモンを出すようにしている。刺身やムニエルが一般的だが、我が家ではコンフィにしたり昆布〆にしたりしていているので、一味違ったものになっていると思っている。
このコンフィだが、実はTVの番組から頂戴したものである。オーストラリアのシドニーだったかと思うが、ここでレストランを経営している日本人が作る人気料理がタスマニア・サーモンのコンフィだった。1年以上先まで予約が入っていると放送していたように記憶している。
70~80gのタスマニア・サーモンの切り身を、ディル、バジル等のスパイスを入れたオリーブオイルに浸して、40℃で8分間加熱した後オイルを落とし2cm程度の厚さに切る。
これに細かく刻んだ万能ねぎと塩昆布をまぶし、はらこを添えているところが特徴であったが、これを我が家でも真似ている。本場のタスマニア・サーモンのコンフィの味はいつか旅行をして確かめてみたいものと夢見ているが、信州サーモンのコンフィもなかなかのものではないかと思っている。
信州サーモンのPRポスター(長野県公式ホームページから引用)
この信州サーモンとは、ニジマスとブラウントラウトの交配種だが単なるかけあわせではない。おいしさを追求するとこうなるのかという例のようだが、バイオテクノロジーを駆使して出来たものということで、他県からもいくつかの類似のブランド・トラウトが開発され販売されているが、私にはこの信州サーモンが一歩抜きんでているように思えるのは贔屓目だろうか。
7年ほど前、まだ新潟県上越市に住んでいたころ、軽井沢のリゾートホテルに母と妹二人とを招き宿泊したことがある。そのときの夕食に出されたものがこの信州サーモンのムニエルだと説明を受けた。
普通であれば、こうした宿泊先での夕食のメニューのことは忘れてしまいそうなものだが、やはり何か心に残るものがあったようで、今でもよく覚えている。残念ながら、記憶にあるのは名前の方で、肝心の味は美味しかったというだけで、詳細は覚えていないのだが。
長野県のホームページ(http://www.pref.nagano.lg.jp/suisan/jisseki/salmon/salmon.html)にはこの信州サーモンのことが次のように紹介されている。
「長野県の養殖魚の主流であるニジマスは、育てやすく肉質もよい反面、IHN(伝染性造血器壊死症)などウイルス性の病気に弱いという欠点があります。そこでこうした病気に強いブラウントラウト(ヨーロッパ原産の鱒)と交配させることで、両方の長所を持った魚を開発しました。
普通、ニジマスとブラウントラウトを交配させても、その子どもはほとんど死んでしまいます。そこで、
(1) 普通のニジマスの受精卵(2n=二倍体)に高い水圧をかけて染色体を2倍(4n)に増やします。
(2) 成長した四倍体(4n)の雌から採った卵子にブラウントラウトの精子を受精させ、三倍体を作ります。
三倍体は、雄も雌も子どもを生むことはありませんが、雌は卵をもたないため、その栄養が成長にまわり通常よりも大きくなり肉質もよくなります。
そこで、
(3) ブラウントラウトの雌を雄性ホルモンで性転換させ、将来雌になるX精子しか作らないようにして四倍体ニジマスの卵子と受精させます。
こうして、すべて雌の三倍体(信州サーモン)が生まれます。長野県水産試験場が開発したこの技術(四倍体を使ってすべて雌の雑種三倍体を作り出す)は、全国初の手法です。」
ニジマスとブラウントラウトの交配により信州サーモンを得る説明図(長野県公式ホームページより引用)
さっと書いてあるので、判りにくいかもしれないが、ポイントは三倍体の雌だけのハイブリッドを効率よく作り出すところにあるようだ。こうして、病気に強く育てやすい、しかも成長の早い種が得られている。また、繁殖能力が無いので逃げ出したとしても一代限りとなり、自然界への影響が抑えられるということも考慮されているようである。
この三倍体とは普通には馴染みの無い言葉であるが、学生時代に学んだとおり、通常、生物の体は二倍体、すなわち両親から1本づつ受け継いだ染色体が2本のペアになっていて、これが生物の種に応じた数だけ備わっている。
上記の説明のとおり、信州サーモンの場合には母からは2倍の2本づつの染色体を、父からは通常通り1本づつの染色体を受け継ぎ、結果3本づつの染色体のセットを持つようになっていて、三倍体ということになる。
こうした世界のことをほとんど知らない私には、受精卵に高圧をかけると染色体数が2倍になるということや、雌を性ホルモンで雄に性転換させるというのも驚きだが、三倍体や四倍体といった染色体数を持つ信州サーモンや、ニジマスの個体が(生殖能力や体の大きさは別にして)種としての正常な発達をするということがとても不思議に思える。
しかし、自然界にはこうした二倍体以外の倍数体の染色体数を持つ生物も種々存在しているようであり、植物には特に多く見られるという。
人為的なものでは、種無しスイカは三倍体、栽培種のジャガイモは四倍体ということである。
さて、この信州サーモンは、冒頭に書いたとおり、長野県水産試験場が約10年かけて開発し、種苗生産や養殖を行うために水産庁に申請したマス類の新しい養殖品種で、2004年(平成16年)4月26日付けで承認されて、稚魚の出荷が始まっている。初年度の出荷数量は10万尾強、4年後の2008年(平成20年)には30万尾に達している。
この頃の水産試験場の方針は大量に売りさばく量販店対象ではなく、料理店や宿泊施設であったという。私たちが、ホテルで提供を受けたのが2009年頃のことなので、まさにこうした手探りで販売状況の様子を見ている時期であったということになる。
その後の稚魚の出荷数量は2016年度で36万尾というから20%程度増加したものの、この頃の状況はその後もさほど大きくは変化していないということになる。
最近は、ようやく軽井沢のスーパーの魚売り場にサクの状態や、刺身としてスライスされたものが普通に並ぶようになっているが、私たちが移住してきた2015年にはまだいつでもスーパーに並んでいるという状態ではなく、2軒しかないスーパーをあちらになければこちらと探さなければならなかった。
東京や横浜から訪ねてきてくれる友人には、信州産の食材を食べてもらいたいので、定番としてこの信州サーモンを出すようにしている。刺身やムニエルが一般的だが、我が家ではコンフィにしたり昆布〆にしたりしていているので、一味違ったものになっていると思っている。
このコンフィだが、実はTVの番組から頂戴したものである。オーストラリアのシドニーだったかと思うが、ここでレストランを経営している日本人が作る人気料理がタスマニア・サーモンのコンフィだった。1年以上先まで予約が入っていると放送していたように記憶している。
70~80gのタスマニア・サーモンの切り身を、ディル、バジル等のスパイスを入れたオリーブオイルに浸して、40℃で8分間加熱した後オイルを落とし2cm程度の厚さに切る。
これに細かく刻んだ万能ねぎと塩昆布をまぶし、はらこを添えているところが特徴であったが、これを我が家でも真似ている。本場のタスマニア・サーモンのコンフィの味はいつか旅行をして確かめてみたいものと夢見ているが、信州サーモンのコンフィもなかなかのものではないかと思っている。