16個の卵を採集して飼育・撮影してきたヒメギフチョウだが、終齢幼虫にまでたどり着いたのは14匹であった。この幼虫たち、4齢までは集団で行動する傾向があったが、終齢になり更に食餌量が増えてくるのに伴い、幼虫はばらばらに行動するようになった。
鉢植えのウスバサイシンの葉に止まらせていても、鉢を離れて移動してどこかに行ってしまう恐れが出てきたので、鉢ごと飼育ケースに入れて観察と撮影を継続した。
1匹の終齢幼虫は1日でウスバサイシンの葉をほぼ1枚食べてしまう。次の映像はウスバサイシンの鉢植えに4匹の幼虫を止まらせたときのものだが、10時間でほぼ2枚の葉を食べている。映像では葉を食べているところを選択して編集しているが、実際には食餌と長めの休息とを繰り返す。
ヒメギフチョウの終齢幼虫の食餌(2023.5.14, 8:22 ~ 18:46 30倍タイムラプスで撮影後編集 )
終齢幼虫もまたウスバサイシンの葉裏に隠れる傾向がある。次の映像は実時間撮影で、鉢植えを横から撮影したものである。
ヒメギフチョウの終齢幼虫(2023.5.15, 7:21 ~ 7:24 撮影)
この後、終齢幼虫は蛹化することになるが、その撮影のためと、幼虫の食餌量が多くなったため、鉢植えのウスバサイシンの葉だけでは間に合わなくなってきたこともあり、山地で採取したウスバサイシンの葉を瓶挿しし、1匹づつ飼育することにした。
この方法はこれまで多くのチョウの幼虫を育てた方法であり、蛹化時の撮影にも有効であったので、今回も採用した。
ヒメギフチョウ終齢幼虫の瓶挿し葉での飼育(2023.5.18, 17:35 ~ 17:36 撮影)
ヒメギフチョウ終齢幼虫の瓶挿し飼育の様子(2023.5.17 撮影)
この状態で蛹化の時期を迎えたが、幼虫は餌の葉を離れて、飼育ケースの中を這いまわるようになった。元の瓶に戻し、さらにビニール袋を被せて脱走できないようにしたが、思うように瓶に挿した割り箸に止まってくれない。
そこで、幼虫がウスバサイシンの葉を食べなくなり、多量の軟便を排泄したのを見計らって、瓶を飼育ケースから取り出して、代わりに、蛹化のために止まりやすいようにと小さめの丸太や割り箸をケースの中に置いたところ、丸太につかまった状態で、体長が半分近くにまで縮まり、前蛹になる準備のための糸を吐くものが現れた。
早速、この丸太ごと幼虫をケースからとり出して撮影にかかったが、これは見事に失敗に終わった。
(2023.5.20 撮影)
前蛹になるかと思えた幼虫は、撮影中にカメラの視野から逃げ出していった。
この後、別の幼虫がすでに糸かけが終わった状態になっていたので、撮影にかかったが、これもまた撮影は失敗に終わった。糸掛けが終り、やがて脱皮して蛹になるかと思えたこの個体は、途中で成長が止まってしまった。
(2023.5.20, 23:15 ~ 23:16 撮影)
こうして蛹化しそうな個体を見つけては撮影するという作業を繰り返したが、なぜか撮影対象に選んだ個体は同じように成長が途中で止まってしまい、その間に別の個体がさっさと別の丸太の上や飼育ケースの側面に糸をかけて蛹になっていった。
結局、糸掛けや前蛹化、蛹化時の脱皮の様子を撮影することはできなかった。
脱皮して緑色の蛹になったところと、蛹化後次第に色が変化するところは何とか撮影でき、次のようである。
蛹化直後のヒメギフチョウの蛹(2023.5.23, 6:21 ~ 6:22 撮影)
ヒメギフチョウの蛹化後の色と形の変化(2023.5.23, 6:03 ~ 12:05、 30倍タイムラプス撮影後編集)
蛹化後3時間が経過した頃のヒメギフチョウの蛹(2023.5.23 撮影)
ヒメギフチョウの卵から蛹までの変化を追ってビデオ撮影を試みた。孵化から終齢幼虫になるまでは比較的順調に撮影ができたと思っているが、前蛹になり蛹になる段階で大きくつまずく結果となった。
その理由はまだよく理解できていないが、他のアゲハの仲間やタテハチョウの仲間、そしてアサギマダラを飼育した経験からすると、ヒメギフチョウの蛹化はとても環境、すなわち撮影のための照明の影響を受けやすかったのではと思える。
近い場所でも、飼育ケースの中にいた個体は順調に前蛹になり蛹になっていくのに、すぐそばの撮影場所に移して連続して照明を当てながら撮影した個体はことごとく途中で成長が止まってしまった。
結局16個の卵から14匹が終齢幼虫になり、9匹の蛹になった。その時間経過を示すと次のようである。また、今回の飼育期間中に幼虫たちが食べたウスバサイシンの葉は60枚前後であり、幼虫1匹あたりに換算すると約4枚ということになる。
ヒメギフチョウの幼虫の成長の経過
こうして来春までの長い眠りについた蛹であるが、無事羽化させて生まれ故郷に戻すことができるかどうかが今後の課題である。
軽井沢にヒメギフチョウは生息していない。すぐ隣りの小諸や東御地区には多くの生息場所が知られているのにどうしたことか。これまでにも移殖を試みた報告があるが、まだ定着したという話は聞かない。
冬の過ごし方が問題になるのだろうが、手元の蛹たち、どのようにすればいいか思案中である。