軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

シルバーカトラリー

2024-03-22 00:00:00 | 日記
 日本人には"箸"という便利なものがあって、家庭での食事の際にはこれでほとんどの場合、用が足りてしまう。日常生活における食事では、カトラリーを使うのは、カレーライス、オムライスやチャーハンをたべるときのスプーンくらいだろうか。

 先日、テーブルウェア・フェスティバルを見に行ったので、その時のことは当ブログでも紹介したが、ここでの大賞・経済産業大臣賞をはじめとする受賞作品を改めて紹介すると、次のようであった。

テーブルウェア大賞、大賞・経済産業大臣賞受賞作品(2023.12.6 撮影)

テーブルウェア大賞、最優秀賞・東京都知事賞受賞作品(2023.12.6 撮影)


テーブルウェア大賞、優秀賞受賞作品(2023.12.6 撮影)

テーブルウェア大賞、佳作受賞作品(2023.12.6 撮影)

 これら受賞作品を見ても判るように、家庭での食事をテーマとしたテーブルセッティングで、金属カトラリーが使用されるケースは少なく、もっぱら箸がつかわれている。

 一方、結婚式などのフォーマルな場では、フランス料理などの洋食が提供されることが多く、こうした場では多種類の金属カトラリーがテーブルにセットされるので、何をどのように使うのか、戸惑うこともある。そうしたこともあってか、子供たちが高校を卒業するころに、テーブルマナーを学んだりするケースもあると聞いている。


フォーマルなディナーのテーブル・セッティングの例(米国カトラリー販売会社のサイトから引用)

 家庭でも、招待客を迎えての食事や、パーティーを開いたりする場合にはやはり金属カトラリーを用いることが多くなることから、金属カトラリー一式を揃えるケースも増えてきているようである。

 欧米では、結婚のお祝いにカトラリーセットを贈るといったことも行われているとされる。

 私のアンティーク・ガラスショップにも、少しだけ金属カトラリーを置いてきたが、その中でも純銀製のティースプーンを中心に、お買い求めいただくことが時々でていたので、この春のショップ再開に合わせて、純銀製(スターリングシルバー、SS)および銀メッキ製(シルバープレート、SP)カトラリーの品ぞろえを進めてきた。一部を紹介すると、次のようである。

柄部分にエングレーヴィングによる美しい装飾加工があるバークス社(アメリカ)製アンティーク・カトラリーセット(SS、1914年からのモデル、8人用のケース入りセットから)

日本人にも使いやすいサイズのジョージ・ジェンセン社(デンマーク)製カトラリー・セット(アカンサス、SS、布袋入りの6人用セットから)


日本でも人気のクリストフル社(フランス)製カトラリーセット(40ミクロンSP)

日本人にも適した組み合わせのストラチャン社(オーストラリア)製カトラリーセット(30ミクロンSP、ケース入り6人用セットから)


アンティーク・フィッシュカトラリーセット(メーカー・制作年代不詳SP、 12人用木箱入りセットから)

英国製アンティークのフィッシュナイフ・フォークサーバーセット(SP)

 日本での食事シーンを想定すると、ナイフ、フォークとスプーンが基本で、これにサラダ用フォーク、スープ用スプーンやケーキ/デザート用フォークとティー/コーヒースプーンがあれば先ずは十分かと思う。

 ちなみに、国内メーカーの製品サイトには、次のような12種類が紹介されている。


主なカトラリーの種類とサイズ(山崎金属工業のHPから引用)

 これに対して、欧米のカトラリー販売会社の解説などにはより多くの種類が紹介されている。次の例では19種類の、更に様々な用途の物が揃っている。サイズの明示はないが、長さは相対的な図となっているので推定できると思う。また、ここでは国内メーカーと呼称も一部異なっている。




米国のカトラリー販売会社のサイトに見られるカトラリーの種類と呼称

 このほか、カトラリーの本には、フォークとして、フィッシュフォーク、フルーツフォーク、デザートフォーク、ペストリーフォーク、ロブスターフォーク、スネイルフォーク、オイスターフォーク、シーフードフォーク、サーディーンフォーク、ブレッドフォークなどが、ナイフでは、フィッシュナイフ、フルーツナイフ、バターナイフ、チーズナイフ、サラダナイフ、ブレッドナイフなどが、そしてスプーンには、ソーススプーン、ブイヨンスプーン、シトラススプーン、フルーツスプーン、アイスクリームスプーン、キャビアスプーンなどの名前が見られ、実に様々なものが用意されていることがわかる。

 ハンドル部に金属以外の材質、象牙、骨、角、真珠母貝、木を用いたものも知られており、特に真珠母貝(マザーオブパール)を用いたものは美しく、純銀部との相性が良いと感じる。

 当ショップでは純銀製(92.5%のスターリングシルバーが主体)と純銀メッキ(洋白製をベースに銀メッキされたものが主体)を店頭で紹介しているが、その良さはやはり外観の白さである。銀はあらゆる金属の中で最も反射率が高く、可視光線を98%反射するので白く美しい。

 次の表は理科年表に示された金属の分光反射率で、人間の目が感じる明るさに近い波長0.55ミクロンで比較して、銀が最も高く97.9%、次いでアルミニウムが91.6%、金が81.7% である。

 日常使いのカトラリーの大半はステンレス製であると思うが、反射率は60%前後とされているので、その差は大きい。
 

金属の分光反射率(理科年表から引用)

 この銀製品も、空気中の硫黄と反応して黒っぽく変化するという欠点がある。特に当地は、浅間山からの噴気の影響で、空気中の硫黄成分が多いために変化のスピードが速いように思える。

 だだ、この表面の黒ずみも、専用のペーストを布に付けて拭き取ったり、銀磨き用液体に数秒浸漬することで簡単に落とすことができるので、それほど気にはならない。人によっては、この作業がいい気分転換になるという人もいる。 

 外観だけを見ると、純銀(SS)と銀メッキ(SP)の差はないが、耐久性についてはこの作業のことを考えると注意を要する。

 銀の表面に自然に形成されるこの硫黄との反応層の厚みについての詳しいデータは手元にないが、十数原子層から厚くても数十原子層だと推定されるので、仮に10nm程度の厚さになると色変化して、気になり始めるとすれば、以下のような計算で、銀メッキ層の耐久性が推定できる。

着色層の厚さ:10nm(= 0.01ミクロン)
月に1回クリーニング
    1年間に減る銀メッキ層の厚さ:0.01x12=0.12 ミクロン
  10年間に減る銀メッキ層の厚さ:1.2ミクロン
100年間に減る銀メッキ層の厚さ:12ミクロン
 
 国内で洋白銀と呼ばれている製品は洋白(銅、亜鉛、ニッケルの白色合金)をベースにして、その表面に銀メッキを施したものであり、メッキ層の厚さはメーカや商品により異なるが、おおむね、2ミクロンから4ミクロン程度とされる。

 一方、欧米の製品ではメッキ層の厚さは、その品質基準が定められていて、33ミクロン以上あるのものをA1クラスと呼んでいる。

 英国のMappin & Webb 社ではこれをマッピンプレートと称して、そのメッキ層の厚さを保証しているし、フランスのChristofle France 社やErcuis 社ではそれぞれ、40ミクロンおよび33ミクロン以上と公表している。

 このように国内製品とヨーロッパ製品とでは、銀メッキの厚さに大きな差のあることが判るが、これはおそらくは日常的な使用頻度から来る耐久性への要求レベルが異なるためと思われる。

 激しくこすれ合うような、お玉のような使い方をすると別だし、研磨剤入りのペーストで磨いたり、深い傷をつけたりするともちろん事情は異なるが、通常の家庭での使用の場合には、国内製品でも十年から数十年の使用に耐えるものと思えるし、ヨーロッパ製品では親から子供、さらに孫の代にまで引き継いでいっても、メッキがはげ落ちるという心配はないと言える厚さであることが理解される。

 実際、製品の基本的な品質も加味してのことであるが、純銀製のカトラリーと、高級な銀メッキ製品のカトラリーの市場価格には、使用されている銀の量ほどの差がついていないのが実態である。

 日本のカトラリー市場規模は欧米に比べると、とても小さいと推定できるが、製造技術では決してひけを取らず、むしろ凌駕していると言える事実があるので、紹介しておきたい。

 それは、ノーベル賞の晩さん会で使用されているカトラリーである。1991年に、ノーベル賞創設90周年記念として採用されたカトラリーセットは日本製である。

 次の写真は、その製造メーカーである山崎金属工業のHPから引用したものであるが、当ショップも、当面非売品扱いとしていくが、同製品を保有している。

ノーベル賞晩さん会で使用されている山崎金属工業製のカトラリー(GP, SP 同社HPより)

 これまで紹介してきた銀製品や銀メッキ製品を実際に手に取って見ていただき、その良さを実感して、使っていただければと思っている。 


 

 




  

 
 


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